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第1話


 「何でこうなったのよ?」


 薬師寺 涼子は周りの困惑し、ガヤガヤざわめくクラスメイト達を他所に頭を抱えながらウンザリとした様子でボヤいてしまう。

 ボヤいた涼子は直ぐ様、状況の把握も兼ねて自分の身に起きた事を順に思い出していく。


 今日は寝坊して遅刻ギリギリだった。

 教室に足を踏み入れてギリギリセーフ!ってホッとした。

 それと同時に、どっかのバカ野郎が発動させやがった召喚術式が発動。

 術式の内容は突然過ぎて少ししか解らなかった。

 でも、私や他の人達にも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 涼子は魔女であったが故に、自分と他のクラスメイト達が召喚時に召喚者から仕込まれた(インストールされた)モノに対し、心の底から脅威を覚えていた。

 それ故、困惑するクラスメイト達を他所に涼子は自身にインストールされた(仕込まれた)モノを確認の意味を兼ね、改めて解析していく。

 程無くして解析が終われば、涼子は小さな声で呟いた。


 「最悪ね」


 そんな呟きを漏らすと同時。

 老人の矍鑠(かくしゃく)とした大きな声が響き渡る。


 「御待ちしておりました!我等が偉大なる神『ウルシア』様に導かれし勇者様!!」


 唐突に大声が響き渡ると共に涼子の呟きが掻き消されれば、大声の主たる老人に対してクラスメイト達と担任教師の視線が一斉に集まった。

 そんな多数の視線を集めると、金の刺繍が所々に施された豪奢な純白の法衣と金糸で刺繍が施された白いストラを纏った老人はクラスメイト達に向け、矍鑠とした声と共に自己の紹介をした。


 「私めは聖神教会にて教皇を務めさせておりますシメオン・リヌスと申します。以後、御見知り置きを」


 老人……シメオン・リヌスが聖神教会のトップたる教皇であると告げると、クラスメイト達は益々困惑してしまう。

 そんな彼、彼女達にシメオン・リヌスは言葉を続ける。


 「此処では何でしょう。ついて来て下され」


 シメオン・リヌスに促されると、担任教師である藤澤 明は受け持つクラスの生徒達と共に恐る恐る後について行った。

 クラスメイト達がゾロゾロとシメオン・リヌスの後に続いて行く中。

 涼子は足下にある魔法陣を見詰めて居た。


 この魔法陣を利用しての帰還は不可能。

 その上、今この場で暴れて施設を制圧出来るにしても、召喚された時に仕込まれた術式からハッキングされる可能性が濃厚。

 最悪、共喰い(同士討ち)させられる可能性も非常に高い。


 床に描かれた魔法陣を解析し終えた涼子は、日本への帰還に利用する事は不可能と判断。

 同時に自分とクラスメイト担任教師。

 全員の中に召喚された際に仕込まれた術式の効果が発動した際、最悪な結果を招く。

 そう判断した涼子は大人しくシメオン・リヌスの言葉に従う事を選び、クラスメイト達の後を追った。

 すると、涼子の後ろ脇にクラスメイトの少女が忍び寄って来た。

 彼女は涼子にだけ聴こえる様な小さな声で尋ねる。


 「貴女の見立てを聞かせて」


 その問いに対し、涼子は小さな声で一言だけ答えた。


 「最悪の一言に尽きるわ」


 涼子の答えに少女……冴島(さえじま) 千雨(ちさめ)は渋い表情を浮かべてボヤいてしまう。


 「マジで?」


 「詳しい事は後で話しましょう」


 この場で話すのを辞める様に返せば、冴島 千雨は何も言わずに涼子と共に歩みを進めた。

 クラスメイト達と共にシメオン・リヌスに大きな広間へと通されると、シメオン・リヌスは皆に席に座る様に促した。


 「御座り下さい勇者様」


 その言葉と共にクラスメイト達は思い思いに席に座っていく。

 最後に来た涼子と冴島 千雨。

 それにもう1人のガタイの良い青年……榊原(さかきばら) 善人(よしと)は扉から最も近い末席に座ると、シメオン・リヌスは本題を切り出した。


 「改めまして、我等が世界へよくぞ御出下さりました勇者様。貴方達は我等が慈悲深き偉大なる至高神ウルシア様の御心によって導かれたのです」


 そう告げると、シメオン・リヌスは熱意と恍惚に満ちた表情と共に彼、彼女等へ高らかに告げる。


 「偉大なる至高神ウルシア様は魔王の軍勢に困窮する我等の祈りに応じ、慈悲として貴方達を勇者として我等に遣わしてくれたのです」


 その言葉にクラスメイト達は益々困惑してしまう。

 クラスメイトの大半は文句や抗議の声を挙げて居た。

 特に担任教師……藤澤(ふじさわ) 秀平(しゅうへい)は受け持っている生徒達を守る為、物凄い剣幕で猛抗議していた。


 「ふざけるのは辞めて戴きたい!!貴方達の神であるウルシア様の意思であろうと子供達を貴方達の戦争に参加させて良い理由はありません!!」


 言葉遣いは柔和で丁寧であるが、声には怒気が大いに含まれていた。

 普段は穏やかで優しい姿や声しか知らぬクラスメイト達は、担任教師である藤澤 秀平の剣幕と怒りに驚いてしまう。

 だが、何処か心強いモノを感じて居た。

 そんな、藤澤 秀平の抗議は終わらない。


 「貴方達と魔王の軍勢の戦争は我々には一切関わりのない話です!!今直ぐに我々を日本に帰して戴きたい!!貴方達の行いは非道な誘拐に他なりません!!」


 抗議と共に正当な要求を怒気を込めて叩きつければ、シメオン・リヌスは涼しい顔で自分は悪くない。

 寧ろ、誉れ高い神からの栄誉を何故無下にするのか?

 そう言わんばかりに答えた。


 「ウルシア様から選ばれし勇者として召喚された栄誉を何故、無下にするのですかな?それに、残念ながら私共は貴方達を元の世界へ帰す術を持っていません」


 返って来た答えに対し、藤澤 秀平は更に怒気を強めてシメオン・リヌスに詰問する。


 「何故です!?我々を召喚したと言うのならば、我々を帰す手段を持っているのではないのですか!!?」


 厳重抗議とも言える詰問をぶつけられても、シメオン・リヌスの涼しい表情は変わらなかった。

 そんなシメオン・リヌスは淡々と答える。


 「先ほども御伝えした通り、私共には貴方達を帰す術はありません。全てはウルシア様の御心次第なのです」


 帰す術を持っていない。

 その一点張りに業を煮やしながらも、藤澤 秀平は生徒達を受け持つ担任教師としてハッキリ告げる。


 「兎に角です!私の生徒達を貴方達の戦争に付き合わせたくありません!!」


 断固たる意思と共に藤澤 秀平が戦争に参加する事を拒絶し、話が平行線を辿っている中。

 涼子と冴島 千雨はこの場に居る()()全員の視線が担任教師と教皇に向いているのを利用し、内緒話をしていた。


 「貴女なら何とか出来ない?私の問題を解決してくれたみたいにさ?」


 冴島 千雨に問われると、涼子はNOと返す。


 「今の段階では無理よ」


 「何で?って聞くのは野暮かしら?」


 NOと答えた理由を問えば、涼子は答える。


 「先ず第一に此処でヤラかした時に大きな混乱が予想される。次に気付いてると思うけど……」


 其処で敢えて涼子が言葉を留めれば、冴島 千雨は納得する。


 「えぇ……アイツね」


 冴島 千雨はそう言うと、シメオン・リヌスの傍らでずっと控える黙したまま言葉一つ語らぬ修道女(シスター)を一瞥。

 そんな冴島 千雨に涼子は肯定した。


 「そう。ずっと、私達から視線を外さずに居るシスター(修道女)。明らかに()()()()()()


 魔女として、シメオン・リヌスの傍らに控える修道女(シスター)を人間ではない。

 涼子がそう断じれば、冴島 千雨はクラスメイト達とシメオン・リヌスの遣り取りをBGMに正体を問う。


 「なら、何者?」


 「神霊の気配に聖なる気配が混じってる所から察するに、恐らくは天使」


 魔女としての経験から正体を察する涼子がそう答えれば、冴島 千雨は尋ねる。


 「貴女より強い?」


 「ソレは解らない。でも、今この場では殺り会いたくはない」


 戦闘の余波でコラテラルダメージを出せば、多数のクラスメイトが死ぬ。

 そうオブラートに包んで答えれば、冴島 千雨は納得する。

 だが、同時に涼子が仕掛けない理由が他にもある。

 そんな確信と共に尋ねた。


 「それもそうね。で?他にも仕掛けない理由があるんじゃないの?」


 「面倒な術式が私達にインストールされてる。で、そのインストールされた術式の機能に()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それこそが、涼子が大人しくせざる得なかった最大の理由に他ならなかった。


 「この場に居る私も含めた全員が、件のウルシア様とやらに生命を文字通り握られているも同然。勿論、会話も筒抜けと見た方が良いわ」


 小声ながらもハッキリと全員にインストールされた術式の効果の一部を告げれば、冴島 千雨は項垂れてしまう。


 「最悪過ぎる」


 「だから、言ったじゃない。状況は最悪って」


 涼子はアッケラカンに他人事の如く返した。

 すると……


 「俺に何をさせたい?」


 冴島 千雨と反対の方から声がした。

 今まで黙したまま沈黙を貫いていた榊原 善人が沈黙を破って問えば、涼子は振り向いて答える。


 「そうね……貴方は貴方自身に嵌めた枷を外してくれると助かるわね」


 涼子の要求に榊原 善人は申し訳無さそうに返した。


 「すまないが、俺に魔法の才は無くてな……この封印は俺の戦友に頼んで、施して貰ったものなんだ」


 返って来た答えは残念なモノであった。

 しかし、涼子が榊原 善人を責める事はなかった。


 「だと思った。貴方の封印は私が何とかしてあげるから、暫く待って」


 「解った。因みに具体的なプランは?」


 榊原 善人が涼子が組み立てているだろうプランを問う。

 だが、返って来た答えは榊原 善人にとって、期待外れと言わざる得なかった。


 「無いわよ」


 「無い?君の様なタイプは幾つも策を十重二十重(とえはたえ)に立ててると思うんだが?」


 榊原 善人は過去に体験した"珍しい"経験から、涼子が幾つもの策を周到に構築する策謀家であると察していた。

 だからこそ、涼子から返って来た答えは期待外れと言う他なかった。

 そんな榊原 善人に対し、涼子は心外と言わんばかりに返す。


 「あのね、この時点でプラン立てられるとか抜かす奴は詐欺師以外の何者でもないわよ?何せ、無い無い尽くしな上に生殺与奪の権も握られてるんだからさ……大人しく従うしか無いわよ」


 諦めムードで答えた涼子。

 だが、涼子の言葉の真意を察した榊原 善人はほくそ笑むと、何も言わずに沈黙した。

 それは、冴島 千雨も同様であった。

 そんな時だ。

 先ほどまで喧しかった平行線の遣り取りに変化が起きた。


 「聴いてくれ皆!!」


 凛とした大きな声が上がると、皆の視線が一斉に声の主である青年……(せき) 勇輝(ゆうき)へと集まる。

 多数の視線を浴びながら、関 勇輝は皆に大きな声でハッキリと己の意志を告げる。


 「俺は魔王の軍勢と戦おうと思う!!」


 宣言とも言える言葉にクラスメイト達は騒然としてしまう。

 だが、そんなのを気にする事無く関 勇輝は言葉を続ける。


 「俺達がこの世界に勇者として導かれた事に意味が無い訳じゃない!!俺達が魔王に勝てば、日本に帰る事が出来る筈だ!!」


 関 勇輝の言葉にクラスメイト達は呼応した。してしまった。

 担任教師である藤澤 秀平が戸惑いながらも、必死に生徒達を止めようとする。


 「何を言ってるんだ関君!?君達も戦争に参加する事の意味を理解してるのか!!?」


 担任教師として、1人の大人として、戦争に参加する事を辞めさせようとする藤澤 秀平に関 勇輝は反論する。


 「先生。帰る手段がウルシア様しか持たない以上、俺達が生き残る方法はコレしかありません」


 「しかしだね……」


 関 勇輝の反論に返す言葉が見付からぬ藤澤 秀平が言葉を淀ませると、シメオン・リヌスが追い打ちを掛けた。


 「慈悲深きウルシア様ならば、魔王の軍勢を退けた暁には勇者様達を元の世界へ帰してくれるでしょう」


 現状、反論材料も無ければ、この世界に於ける生活と身分。

 それに人権の保障も無い。

 それ故、藤澤 秀平は何も言えなかった。

 涼子達は、その様子を熱気に包まれるクラスメイト達とは対照的に冷ややかに見詰める。


 「アレが思考誘導の効果って奴?」


 冴島 千雨が侮蔑的に言えば、涼子は不愉快そうに肯定した。


 「えぇ、そうよ……クラスの中心人物の思考を誘導して背中をポンと押せば、他の人もソレに釣られて転がり落ちる。人は水の様に低きへ流れるんだから当然よね」


 そんな涼子に榊原 善人はクラスメイトをフォローする様な補足をシニカルに言う。


 「こんな状況じゃあ、誰だって目の前にある希望に縋りたくなると思うぜ?それが例え、戦争に参加する事であったとしてもな」


 榊原 善人の言葉を理解出来るからこそ、涼子は否定しなかった。

 だが、嫌味は述べる。


 「その希望が糞みてぇな民族紛争に参加っていうのは、最悪極まりないけどね」


 「どっちかと言うとコズミック・イラじゃね?」


 涼子の嫌味に榊原 善人が茶化す様に言うと、冴島 千雨は呆れ混じりにボヤいた。


 「どっちも最悪だし、何処がどう違うのよ?」


 その問いに対し、2人は逆に冴島 千雨に尋ねる。


 「何処が違うと思う?」


 「実を言うと、俺も何処が違うのか?解らねぇんだよなぁ」


 2人からの質問に冴島 千雨は益々呆れてしまった。

 こんなバカな遣り取りを暢気にしているが、自分達の状況が最悪極まりない事に変わりはない。

 こうして、3人の二度目の異世界は最悪な形で始まりを告げるのであった。





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