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ざばーん!
という冗談みたいな水飛沫の音と共に、女の子の悲鳴がする。
「な、なんですのっ⁉︎」
天宮はバタバタと水の中でもがいてから、往年のコントのように、大した水深ではないことに気づいた。
「……は?」
天宮は呆然と辺りを見回す。
華美な装飾が施された、石造りの大きな部屋だった。
どうやら浴室のようで、中央に掘られた円形の窪みに、お湯が溜められている。
天宮が落ちてきた衝撃で半分ほど湯は飛び散ってしまったけれど、それでも水深が腰のあたりまである。
かなり深い浴槽だ。
日本のものとは、根本的に造りが違う。
いや、もしかしたら世界中のどの浴槽ともーー。
「だ、誰ですのっ?」
声に振り返ると、そこには少女がいた。
歳のころは、天宮よりも少し下、十四、五歳くらいだろうか。
白に近い金髪と、鋭利なほどに整った顔立ち。
淡いブルーの瞳には、警戒心と怯えが滲んでいる。
ここは浴室で、彼女は入浴中だったのだろう。
当然、彼女は裸だった。
下半身は湯に浸かって見えないけれど、上半身は無防備で……。
彼女もそのことに気付いたようで、顔を真っ赤にしながら、全身を湯船の中に沈めた。
同時に、耳をつんざくほどの悲鳴をあげる。
「姫様! どうされたのですか!」
甲冑を身にまとった赤髪の女性が駆け込んでくる。
得体の知れない男の存在に一瞬フリーズするが、すぐに自らの使命を思い出し、
「曲者だ! 出合え!」
天宮はあっという間に取り囲まれた。
赤髪の女騎士によって、姫様は浴槽から引っ張り出される。
「貴様はどこの間者だ! レクエスか! ミリカンドか! そもそも、どうやって結界をすり抜けた!」
穴蔵式の風呂だから、天宮は周囲よりも一段低い位置にいる。
しかも全員が武器を手に持ち、憤怒に満ちた表情をしているのだ。
天宮は咄嗟に、両手を頭上にあげ、害意がないことを示す。
「貴様! なんだその手は! まさか、広域魔法を使う気か!」
「あ、いや、違うっ。これは……」
ハンズアップのジェスチャーは伝わらず、余計に警戒心を持たせてしまった。
「ひっ捕えろ!」
赤髪の女騎士の号令により、天宮は簀巻きにされて、地下牢に放り込まれた。




