1
成美の提案に一番テンションが上がったのは、当然アキラだった。
天宮によって夢をぶっ壊されたとはいえ、刻路美山脈消失事件にはまだまだ謎が多いのだ。
降って沸いたチャンスに、飛びつかないわけもない。
「でもいいの? 俺達みたいな部外者を立ち入らせるなんて」
「もちろんダメだよ」と成美は当然のように言う。
「ダメなのかよ……」
「私は色物科学者で、異端者扱いされているからね。しかも招集されたばかりで、私自身が部外者のようなものだ。そんな私が、それこそ校外学習よろしく、高校生を三人も連れて行ってみろ。相当な反感を買うだろうね。まあでも、大丈夫」
「大丈夫な要素が一つもなかったけど?」
成美はクスクスと笑った。
「私はイレギュラーを愛している。私の愛の前では、他人の反感なんて無力だよ」
「そんなんだから、異端者扱いされるんだよ。まあでも『常識が科学者の一番の敵』って言葉は、聞いたことあるけど」
「違う。私が常識の天敵なんだ」
「スケールがでかい」
考えてみれば、その科学者たちから異端者扱いされているわけで。
「敵の敵は味方のはずなんだけどなぁ……」
「その常識も、私がすでに打倒済みだよ」
そんなこんなで、天宮一行は刻路美山脈跡地を目指すことに。
成美に言われ、天宮は学校の制服に着替えさせられる。
「別に私服のままでもいいじゃん」
天宮は、思春期らしい無意味な反抗をする。
「制服の方が、多少は反感を抑えられるでしょ」
「常識の敵じゃなかったの?」
「その前に、悠斗の味方だよ」
四人は真紅のアルファロメオに乗り込む。
市営団地の駐車場には不釣り合いで、浮き足立つような違和感がある。
こういう時、身内の天宮が助手席に乗り込むものだ。
でも助手席には、アキラが真っ先に乗り込んだ。
必然的に、後部座席に天宮と由紀が並ぶことになる。
二人で話す機会を作ろうと、余計な世話を焼いたのかと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。
アキラは成美と話がしたかったようで、かなり積極的に話しかけている。
専門知識が飛び交っていた。
天宮は悪魔並みの頭脳を持つが、基本的にはアホなので、ちんぷんかんぷんだ。
もちろんそれは由紀も同じみたいで、話には入れず黙り込んでいる。
自然と、二人はお互いのことを意識して、どちらから話を切り出すか、間合いを図るような空気が流れる。
先に口火を切ったのは、珍しいことに、天宮の方だった。
「……なんか、ごめんな」
「……何が?」
「いや、その……。色々……」
「悪いのは、私の方だから」
「でも、俺の対応も悪かったなって。酷いこととかも、色々言っちゃったし……」
「気にしてない。言われても仕方がないことしちゃったもん。こっちこそ、ごめんね」
「うん」
由紀も当然、成美の話を聞いていた。
天宮の本心を知り、幼子みたいに甘えられていたんだと知った今、ダメ男好きの性癖にブッ刺さりまくって、憤りや不満なんてどこかに吹き飛んでしまった。
メンヘラ三兄弟の暴走や、学校で孤立してしまったことさえ、性癖のスパイスに成り下がる。
微妙な沈黙。
そんな後部座席の甘酸っぱい空気に気づく様子もなく、前の二人は刻路美談義に花を咲かせている。
相変わらず専門用語が飛び交っていて理解不能だ。
でもその会話の中に、注意を引く単語が混じっていた。
「行方不明者?」
天宮は反射的に繰り返していた。
前の二人が会話を辞める。
「そうだよ」
成美がバックミラー越しに言った。
「調査隊として穴に降りた十六名の行方がわからなくなって、かれこれ一ヶ月が経つ」




