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 成美の提案に一番テンションが上がったのは、当然アキラだった。

 天宮によって夢をぶっ壊されたとはいえ、刻路美山脈消失事件にはまだまだ謎が多いのだ。

 降って沸いたチャンスに、飛びつかないわけもない。


「でもいいの? 俺達みたいな部外者を立ち入らせるなんて」

「もちろんダメだよ」と成美は当然のように言う。

「ダメなのかよ……」

「私は色物科学者で、異端者扱いされているからね。しかも招集されたばかりで、私自身が部外者のようなものだ。そんな私が、それこそ校外学習よろしく、高校生を三人も連れて行ってみろ。相当な反感を買うだろうね。まあでも、大丈夫」

「大丈夫な要素が一つもなかったけど?」


 成美はクスクスと笑った。


「私はイレギュラーを愛している。私の愛の前では、他人の反感なんて無力だよ」

「そんなんだから、異端者扱いされるんだよ。まあでも『常識が科学者の一番の敵』って言葉は、聞いたことあるけど」

「違う。私が常識の天敵なんだ」

「スケールがでかい」


 考えてみれば、その科学者たちから異端者扱いされているわけで。


「敵の敵は味方のはずなんだけどなぁ……」

「その常識も、私がすでに打倒済みだよ」


 そんなこんなで、天宮一行は刻路美山脈跡地を目指すことに。

 成美に言われ、天宮は学校の制服に着替えさせられる。


「別に私服のままでもいいじゃん」


 天宮は、思春期らしい無意味な反抗をする。


「制服の方が、多少は反感を抑えられるでしょ」

「常識の敵じゃなかったの?」

「その前に、悠斗の味方だよ」


 四人は真紅のアルファロメオに乗り込む。

 市営団地の駐車場には不釣り合いで、浮き足立つような違和感がある。


 こういう時、身内の天宮が助手席に乗り込むものだ。

 でも助手席には、アキラが真っ先に乗り込んだ。

 必然的に、後部座席に天宮と由紀が並ぶことになる。


 二人で話す機会を作ろうと、余計な世話を焼いたのかと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。

 アキラは成美と話がしたかったようで、かなり積極的に話しかけている。

 専門知識が飛び交っていた。


 天宮は悪魔並みの頭脳を持つが、基本的にはアホなので、ちんぷんかんぷんだ。

 もちろんそれは由紀も同じみたいで、話には入れず黙り込んでいる。


 自然と、二人はお互いのことを意識して、どちらから話を切り出すか、間合いを図るような空気が流れる。

 先に口火を切ったのは、珍しいことに、天宮の方だった。


「……なんか、ごめんな」

「……何が?」

「いや、その……。色々……」

「悪いのは、私の方だから」

「でも、俺の対応も悪かったなって。酷いこととかも、色々言っちゃったし……」

「気にしてない。言われても仕方がないことしちゃったもん。こっちこそ、ごめんね」

「うん」


 由紀も当然、成美の話を聞いていた。

 天宮の本心を知り、幼子みたいに甘えられていたんだと知った今、ダメ男好きの性癖にブッ刺さりまくって、憤りや不満なんてどこかに吹き飛んでしまった。


 メンヘラ三兄弟の暴走や、学校で孤立してしまったことさえ、性癖のスパイスに成り下がる。

 微妙な沈黙。

 そんな後部座席の甘酸っぱい空気に気づく様子もなく、前の二人は刻路美談義に花を咲かせている。


 相変わらず専門用語が飛び交っていて理解不能だ。

 でもその会話の中に、注意を引く単語が混じっていた。


「行方不明者?」


 天宮は反射的に繰り返していた。

 前の二人が会話を辞める。


「そうだよ」


 成美がバックミラー越しに言った。


「調査隊として穴に降りた十六名の行方がわからなくなって、かれこれ一ヶ月が経つ」

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