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高校の入学式。
天宮の母、恵子は着古したスーツに身を包み、冷たいパイプ椅子に腰掛けていた。
そわそわと見るからに落ち着きがない。
(悠ちゃん、大丈夫かしら……)
人生は目まぐるしい。
ほんの一ヶ月前に、中学の卒業式で涙を流したばかりなのに……。
周りの父兄たちは、みんなリラックスした様子だった。
五歳児の入園式ではないのだ。
今更緊張感を持って見守るような行事ではない。
でも恵子にとってはそうじゃなかった。
それこそ入園式と同等のーーいや、それ以上に心配で心配でならなかった。
息子の悠斗は、中学二年の冬ごろから、急に様子がおかしくなった。
「組織が……」
なんてよくわからないことをブツブツと呟いては、常に何かに怯えていた。
何度も精神科に連れて行こうとしたけれど、
「解剖されるぅぅううう!」
と強く拒絶されてはどうしようもない。
異常行動も増え、問題を起こさない日の方が珍しかった。
この入学式でも、また何かやらかすかもしれない。
恵子は気が気じゃなかった。
「新入生の入場です」
司会進行の言葉に、心臓が跳ね上がる。
入場してくる、真新しい制服を着た少年少女たち。
周りの保護者が拍手で迎え入れる中、恵子は背筋をピンと伸ばして身構えていた。
息子がトラブルを起こした時に、すぐに対処できるように、神経を張り詰めて。
でも……。
(……あれ?)
恵子はまだまだ、息子のことを過大評価していたのだ。
母親なのだから仕方がないのかもしれない。
でも入学式でトラブルを起こすかも、なんて想定は、あまりに悠長すぎる。
どうしてあの天宮が、入学式まで何のトラブルも起こさず、無事に参列できると思ったのか。
(悠ちゃんは、どこ……?)
新入生の中に、息子の姿は見当たらなかった。




