表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/41

 高校の入学式。


 天宮の母、恵子は着古したスーツに身を包み、冷たいパイプ椅子に腰掛けていた。

 そわそわと見るからに落ち着きがない。


(悠ちゃん、大丈夫かしら……)


 人生は目まぐるしい。

 ほんの一ヶ月前に、中学の卒業式で涙を流したばかりなのに……。


 周りの父兄たちは、みんなリラックスした様子だった。

 五歳児の入園式ではないのだ。

 今更緊張感を持って見守るような行事ではない。


 でも恵子にとってはそうじゃなかった。

 それこそ入園式と同等のーーいや、それ以上に心配で心配でならなかった。


 息子の悠斗は、中学二年の冬ごろから、急に様子がおかしくなった。


「組織が……」


 なんてよくわからないことをブツブツと呟いては、常に何かに怯えていた。

 何度も精神科に連れて行こうとしたけれど、


「解剖されるぅぅううう!」


 と強く拒絶されてはどうしようもない。

 異常行動も増え、問題を起こさない日の方が珍しかった。


 この入学式でも、また何かやらかすかもしれない。

 恵子は気が気じゃなかった。


「新入生の入場です」


 司会進行の言葉に、心臓が跳ね上がる。

 入場してくる、真新しい制服を着た少年少女たち。


 周りの保護者が拍手で迎え入れる中、恵子は背筋をピンと伸ばして身構えていた。

 息子がトラブルを起こした時に、すぐに対処できるように、神経を張り詰めて。

 でも……。


(……あれ?)


 恵子はまだまだ、息子のことを過大評価していたのだ。

 母親なのだから仕方がないのかもしれない。


 でも入学式でトラブルを起こすかも、なんて想定は、あまりに悠長すぎる。

 どうしてあの天宮が、入学式まで何のトラブルも起こさず、無事に参列できると思ったのか。


(悠ちゃんは、どこ……?)


 新入生の中に、息子の姿は見当たらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ