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天宮悠斗が力に目覚めたのは中学二年の冬だった  作者: 相上和音
第5話 脱引きこもり作戦
24/41

 海沿いの雑木林に逃げ込む三人。

 遠くの突堤に幾人かの釣り人がいるが、こちらに気づいている様子はない。


 耳をそばだてて、追っ手を巻いたことを確認する。

 三人そろって安堵の息を吐いた。


「……お前ら、何してんだよ」

「天宮が逃げ出したのがいけないんでしょ」

「そうですよ。なんで逃げるんですか」

「お前らが追いかけてきたからだろが」

「いや先に天宮が逃げた」

「そうだそうだ。兄貴が悪い」


 しばらく責任を押しつけ合ってから、また三人揃ってため息。


「……ちょっと飲み物買ってくる」

「コーラ」

「水」


 背を向けた由紀に、天宮とアキラは遠慮なく注文する。

 由紀は、


「うい」


 と雑に返事をして、自販機を探しに行った。

 残された二人は、同じ木の幹に背中を預け、地面に腰を下ろした。

 アキラが天宮に金を渡す。


「これ、さっきの店に払っといてください」


 ATM扱いされる天宮。

 金は引き出せないが、振込機能は備えている。

 天宮は金を受け取ると、喫茶店のレジ内に飛ばした。


「釣りは?」

「いいです。迷惑料としてそのままにしてください」

「レジ内の金が合わない方が、迷惑かかると思うけど」

「そんなこと言ったら、食い逃げされたはずの代金がレジ内にある時点で、十分迷惑でしょ」

「だからこれ以上迷惑かけんなって言ってんの」

「じゃあ、どっかの慈善団体にでも募金しといてください」

「おっけ」 

「てか、なんで出歩いてるんですか」


 今更のようにアキラが尋ねる。


「……コンビニでジャンプ立ち読みしようと思って」

「じゃあそのまま脱引きこもりしましょ」

「やだね。漫画雑誌の立ち読み意外では、絶対出歩かない」

「毎週月曜?」

「あと水木と十日と二十五日。それから第二と第四金曜日」

「結構出歩くなぁ。引きこもりの風上にも置けない」

「なら風下にでも置いとけ」

「てか普通、そういうのって夜中に行くもんじゃないんですか?」

「夜中に出歩いたら、母親に心配かけるだろ」

「その気持ちがあるなら、そもそも引きこもるなよ」

「てかそっちこそ、なにしてたんだよ。あんなとこで」

「兄貴に脱引きこもりさせる方法について話し合ってたんですよ」

「なんかいい案あった?」

「できるだけ刺激しないでおこうって結論になりました」

「食い逃げの共犯にされたんだけど?」

「人生って、ままならないっすよね」

「そうだな」


 二人は揃って、水平線の向こうに視線を投げた。

 それからはたと思い出したように、天宮は当たりを見回す。


「どうしたんですか?」

「いや、由紀のやつ遅いなって」

「確かに」

「自販機が見つからないのかな」

「あの人のことだから、その辺の木にでも登って、俺たちのこと観察してたりするんじゃないですか」

「いくらあいつでも、そこまでアホじゃないだろ」

「ですよねー」


 乾いた声で笑い合う。

 会話が途切れ、カモメの鳴き声がやけに目立った。

 日はとっくに傾いていて、海面に夕陽がキラキラと反射している。


「あっ」


 天宮が唐突に、沈黙を破った。


「どうしたんですか?」

「なんだ、簡単なことじゃんか」

「なにが?」

「俺たちが仲いいから、付き合ってるって噂に信憑性が生まれてるわけだろ?」

「まあ」

「だからさ、俺たちがもう二度と関わらなきゃいいんだよ。そしたらさ、付き合ってるなんて噂、すぐになくなるだろ。な? いい考えだろ?」

「は? 普通に嫌なんだけど」

「え? なんで?」

「なんでって……。俺、兄貴以外に友達いないし」

「え、あ、そう?」

「兄貴はそれでいいんですか?」

「え? あ、いや……。まあ、俺もまともに話せる相手、お前しかいないし、俺も嫌だけど……」

「そっすか」

「うん」


 バサバサバサ! と近くの樹木が揺れ、どさりと根元に何かが落ちた。


「お、おい由紀っ」


 二人は驚いて立ち上がり、横たわる由紀に駆け寄った。


「な、なにやってんだよ、お前……」

「だ、大丈夫だから、続けて。あ、これ飲み物」


 鼻血を垂らした由紀が、横たわったまま二人に飲み物を差し出した。

 とっくにぬるくなっていて、結露がポタポタと滴っていた。


「……なぁ。こいつ、なんも反省してなくねえか?」

「殺しましょう」

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