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 ダークサクリフェスこと城島明は、待ち合わせ場所の東橋の下で、そわそわと落ち着きなく天宮の到着を待っていた。


(まさかあそこまで完璧に乗ってくるとはな)


 思い出しただけでゾクゾクとする。

 欲を言えば、もう少しファンタジー寄りの方がアキラの好みだった。

『組織』なんて味気がない。

 せめてかっこいい組織名を付けるべきだとアキラは思う。


 だが初めて見つけた同士だ。

 初っぱなから駄目出しをして、嫌われでもしたら元も子もない。

 まずは相手に合わせ、少しずつ自分の好みに持って行けばいいのだ。

 アキラはそのように考えていた。


「まだか」


 アキラは腕時計を確認する。

 髑髏をあしらった、派手派手で最高にクールな腕時計だ。


「えっと……。何時だこれ? 四時半、かな?」


 針がうねうねと波打っていて、時刻がわかりづらいのだけが唯一の欠点だ。

 結局スマホを確認する。

 時刻は四時二十二分。

 そろそろ現れていい頃のはずなのだが……。


 視線を上げると、ちょうど土手を下りてくる人影が目に入った。

 天宮だ。

 その表情には、鬼気迫るものがあった。

 そのあまりの迫力に、呼び出したアキラでさえ、一瞬怯んだ。


(ふふふ。すでに役に入り込んでいるようだな。俺も全力で挑まねば)


 アキラは気を引き締め、腕をばっと広げた。


「ふはは! よく来たな天宮!」

「お前が来いって言ったんだろが」


 冷めた声で突っ込まれる。


(む、そういうキャラで来るのか)


 出鼻をくじかれた思いだったが、アキラはすぐに持ち直した。


「ふん、口の減らない奴だ。臆病者の特徴だな」


 挑発したものの、天宮は乗ってこない。


「本当に、俺のことは組織に言ってないんだな?」

「ああ。だが待て、組織なんて呼ぶのは興が冷めると思わないか?」

「じゃあなんて呼べばいいんだよ」

「特別に、組織の名前をお前に決めさせてやろう」

「はあ? お前が所属する組織だろ。なんで俺が決めるんだよ。意味わかんねえ」


 もっともな意見だ。


(ふむ。なるほど、こいつはリアル路線なのだな。いいぞ。設定は凝っていればいるほど面白いからな)


 アキラは咄嗟に、中学時代に描いたオリジナル漫画に出てくる惑星の名前を流用した。


「組織の名は、ガンボルグだ」


 アキラは命名する際に、濁点を多用する癖があった。そのことに本人は無自覚だ。


「ガンボルグ……」

「ああ、世界を裏から牛耳る秘密結社だ。俺はそこのナンバーワンエージェント」

「どうして俺を付け狙う」

「決まっているだろう。俺はスリルのある戦いがしたいのだ」


 戦闘狂キャラはアキラのお気に入りだ。

 噛ませ犬的なキャラではなく、理性的でありながら、戦いに目がないタイプがグッド。

 激闘の末にお互いを認め合い、仲間になる展開にも持って行きやすく、ここではベストなキャラ選択と言えた。


「……話し合いの余地はなさそうだな」

「安心しろ。俺がお前の存在に気づいたのは、俺が天才だからだ。他の者には、百年かかってもたどり着けないだろう」

「つまり、お前がいなくなれば、俺は平穏な生活に戻れるんだな」


 戦う動機付けも完璧だ。

 天宮の表情には決死の覚悟が見て取れる。

 中二病歴一年のアキラでさえ、そこまで役に入り込むことは難しい。


「その通りだ。ふっふっふっ。それでは、共に終焉のレクイエムを奏で――」

「待て」

「あ? なんだよ」


 決め台詞を遮られ、つい素が出てしまう。


「ここじゃ周りに被害が出る。場所を変えよう」


 天宮の提案に、ゾクゾクと背筋が震えた。


「ふっ、いいだろう」


 まるで悟空とベジータのやりとりだ。


(こいつ、わかってやがる)


 決闘の舞台は重要なファクターだ。

 安易に話を進めようとした自分が恥ずかしい。


(俺もこいつと同じくらい、この状況を楽しまなければな)


 アキラはいっそう役に入り込んでいく。

 目を閉じて腕を組み、右手の人差し指を立てた。


「音村公園などはどうだ。あそこのガキ共は俺のシモベ。駄菓子を与えればなんでも言うことを聞く。もちろん、手出しはさせないから安心しろ」


 次に中指を立て、右目だけをちらっと開く。

 サバンナが広がっていた。


「町外れにある工場跡地も候補の一つだな。あそこは暴走族のたまり場になっていて夜は近づけないが、この時間なら大丈夫だろう」


 右目を閉じて、それからすぐに両目を開く。

 サバンナが広がっていた。


「江曽山もありだな。あそこの麓には広場があって……」


 振り返るとサバンナが広がっていた。遠くにはヌーの群れ。


「……え、どこここ?」

「アフリカのアンゴラ共和国だ。安心しろ。半径二十キロ圏内に人はいない。ここなら存分にやりあえる」

「アフ、アン……。え?」

「どうした?」

「アフリカ? え、どうし、どうや、えっ?」

「どうって、周りに人がいない方が都合がいいだろ。だから瞬間移動で」

「瞬間移動?」

「もしかして瞬間移動は珍しいのか?」

「え?」

「ん?」

「……」

「……はっ。そ、そういうことか」


 天宮は、何事かに気付いたようだ。


「な、なるほど……。そうやって、俺を油断させて不意を突く気だな……」

「え?」

「その手には乗らんぞ……。その手には乗らんぞおおおおおっ‼」


 クリリンのことかーっ! のテンションで力を解放する天宮。

 風が唸り、可視化するほどのエネルギーが天宮を包む。


「え?」


 まだ状況が掴めていないアキラ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そんなアキラに、天宮は雄叫びをあげながら襲いかかる。


「ち、ちょっと待って! あなた中二病じゃないんですか!」


 天宮の拳がアキラの鼻先三寸でぴたりと止まる。

 圧縮された空気が爆発し、アキラの蓬髪を綺麗なオールバックに仕立て上げた。


 天宮は入学式の日に、由紀から聞いた話を思い出す。

 新入生代表の挨拶で、やらかした男の話だ。

 二人はお互いの顔を指さし合う。


「……え? ち、中二病?」

「……え? ほ、本物?」


 次の瞬間、アンゴラ共和国の大地に、二人の絶叫が響き渡った。

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