よく晴れた七夕の夜、彼女は無邪気にはしゃいでいる
よく晴れた七夕の夜、彼女は無邪気にはしゃいでいる。
――僕はそれを見て安心をしていた。
彼女、篠崎さんはとても綺麗な外見をしている。いかにもおしとやかで、そしてどことなく神秘的な雰囲気があって。だけど、彼女には悪い噂があるのだった。性格に問題があるらしいのだ。
「あの女には近づかない方がいいぞ。美人だが、本当は残忍で歪んでいる」
だからなのか、僕が彼女と近しい関係になりたがっているのを察して、友人の一人がそのような忠告をして来た。
でも、僕はその噂を信じてはいなかった。だから思い切って彼女を七夕祭りのデートに誘ったのだ。
「アハハハ。綺麗、本当に綺麗。きっと牽牛と織女もデートを愉しんでいるわね」
彼女は星降る夜空を眺め、目を輝かせていた。
あんなに無邪気に七夕の夜を喜ぶ彼女が、残忍な性格をしているはずがない。やっぱり噂は嘘っぱちだったんだ。
そこで友人から電話があった。僕に忠告をして来た彼だ。だから僕は彼女の様子を語って聞かせ、彼の心配が杞憂であることを告げたのだ。
ところが彼はそれからこう言うのだった。
「七夕の俗信だけどな、こんなのがあるんだよ。七夕に雨が降らないと、牽牛と織女が出会って疫病神を産むっていう……」
僕はそれを聞いて「なんだよそれ」と文句を言おうとした。いくら何でも、こじ付けだと思ったからだ。
ところがそこで篠崎さんの楽しそうな声が聞こえて来たのだった。
「きっと、たくさん病気が流行るわね? またコロナかしら? それともインフルエンザ? いいえ、もっと新しい違う病気かもしれない。そして、たくさんたくさん、人が苦しむのだわ。
なんて素敵なのかしら」
日本のかなり広い範囲に、七夕の不吉な俗説が本当にあります。