傘は差しませんし、いりません
「決まってるじゃない、蓮さん。人間だからよ!」
その瞬間、蓮はハッとして目を大きく見開いた。
優美のその姿が重なったのだ。
かつて蓮が誰よりも愛し将来を誓い、そして……この法律により、もう二度と会えなくなってしまった愛しい女の姿に!
蓮は少し目を伏せ想いに耽ると、サッと顔を上げて優美を見つめ優美にスゥーッと銃口を向けた。
「いいわよ蓮さん。私がここまで来れたのは蓮さんのお陰だし、私、人である内に死にたい!それに、いいよ、蓮さんなら。私蓮さんの事、昔からずっと大好きだもん」
優美が蓮に向かいニコッと微笑んだ瞬間、蓮の銃口からドォォォォォンという銃声が響いた。
雨の降りしきる中、銃口から煙が立ち上がる。
が、その銃が貫いたのは優美ではなく、蓮が差していた傘だった。
「フゥッ。優美、手が滑って傘に穴が空いてしまった。この傘は、もう、使い物にならない」
「蓮さん……」
蓮の事を唖然とした顔で見つめる優美の眼の前で、蓮は手に持っていた傘をバキッとへし折りその場にバサッと放り捨てると、降りしきる雨の中、優美を置いてサッと歩き出した。
一体何が起こってるのか分からず立ち尽くす優美だったが、ハッと我に返ると蓮の背中に向かって強く呼びかけた。
「蓮さん!どこに行くんですか?」
すると蓮はピタッと足を止めて、優美に背を向けたまま告げる。
今までとは違い、かつて優美が恋をした優しく澄んだ、そして凛とした意思を湛えた瞳で。
「優美、決まってるだろ。このまま濡れて帰るんだよ。で、調べて戦うのさ。この法律を廃止にする為に。優美の事は、俺が必ず守る。誰にも撃たせない」
「蓮さん……!」
「まあ本当は、この法律を作ったヤツに今すぐ銃を突きつけてやりたいけど、それじゃ何も変わらないからな」
そして、蓮はそのまま優美にサッと左手を差し出し微笑みながら告げる。
「何してんだ?早く行くぞ。おばかさん♪」
「はいっ♪」
優美は瞳に涙を浮かべながら蓮に駆け寄り、その手をギュッと握った。
その時、蓮の手には、銃からは決して流れて来ない優美の愛が流れ込んでてきた。
それは優美も同じで、蓮の手からは自分を守る強さと優しさがしっかりと伝わってきている。
二人の手は雨に濡れて冷たかったが、手を繋いで見つめ合う二人の心はぽかぽかと温かった。
《終わり》
ご覧になって下さって、ありがとうございました
m(_ _)m
一部過激な表現に、お気を悪くされた方もいらっしゃるかもしれません。
そこは申し訳ないです。
ちなみに、この話を読んで分かって下さる方も多いと思いますが、この話、皮肉を始め、かなり色々と詰め込んでます。
法律、常識、世間がこーだから?
それは、本当に正しいのでしょうか?
ちょっと考えれば変だと気付く事。
愛の無い思想と行為。
それらの欺瞞。
考えるのがメンドクサい?
知った所で何になる?
確かにそうかもしれません。
それに、客観的な真理なんて、とうの昔に哲学で。
もしくは、量子力学が出来た時に、そんなモノは無いのだという考えもあるでしょう。
なので、誰が、何が正しいのかなんて分かりません。
ただ、人として愛を持って考えて行動する。
時に過ちを犯しながらも、そうやって進んでいく。
それが人間なんじゃないかなと、思います。
本当にありがとうございました。