例外は、無い
「や、やめてくれ!今日はたまたま傘を忘れただけで、そう、あの電車に忘れちゃって!」
男は汗か雨か分からない位に顔をぐっちょり濡らしながら、銃を突きつけてくる刑事に両手のひらを向けながら必死に弁明をしている。
しかし、その男を見つめる刑事の瞳は、雨を凍らしてしまうような冷徹さに満ちている。
「雨の日に傘を差していない者は、見つけ次第3度目で射殺。例外は……無い」
「分かった、買うから!今すぐ買うから!だから見逃してくれ。頼む!!」
男が土下座しながら刑事に必死に赦しを乞うと、刑事はその男の背中に静かに声をかける。
「顔を、上げて」
すると男は土下座したままバッと顔を上げたが、その瞬間、こめかみにひんやりとした冷たい感触が伝わってきた。
「ひいっ!!」
男は恐怖に顔をひきつらせた。
額から伝わってくるそのひんやりとした物が、自分に突きつけられた銃口だと分かったからだ。
そして、その男が次を考える間もなく刑事は告げる。
「もう遅い。雨の日に傘を差さずに濡れた時点で、終わりなんだよ」
「そ、そんな……!!」
「アディオス(さよなら)」
ドンッッッッッ!!!
その瞬間、男の頭は吹き飛ばされ、その周辺に数多の血しぶきと共に脳梁が飛び散った。
その光景を目の当たりにした通行人達は、それに一瞬ビクッとはするものの、すぐに平然と歩き出す。
皆、傘をさしたままで。
むしろ、嬉しそうにほくそ笑む者達も多い。
「このご時世に傘差さないとか、マジで有り得ないわ」
「雨に濡れたら結果みんなに迷惑かかるのに、それが分からないんだから死んで当然」
「雨の日に傘差さないとか、マジで反社だわ。よかったーーー死んでくれて」
そんな思惑を持つ多数の人達が通り過ぎていく中、射殺した刑事はゆっくりとスマホを取り出し、本部に淡々と連絡を入れる。