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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊の愛し子〜』
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始まりの朝②



「ノア、準備できたよ」


「ノアさ……ノア、お待たせ…しました」



クリスフォードにエスコートされ、ノアが待つ玄関に辿り着くと、扉の前にはグレンハーベルで初めて出会った時の16歳のノアが立っていた。


だが認識阻害魔法で髪を茶色に染め、見た目も5歳若返っているので顔は同じなのに別人のように見える。


名前は特に珍しい名前でもないので特に変えず、ケンウッドの養子という設定でノア・バシュレと名乗ることになった。



「ヴィオラ、護衛に敬語はダメだよ。やり直し」


「ノ…ノア、お待たせ」


「早く慣れようね。俺の正体と身の安全はヴィオラが失敗するかどうかにかかっているよ」


「ぷ…プレッシャーをかけないで下さい!!」


「はははっ、冗談だよ。俺がそんなヘマさせないから安心して。それより俺はヴィオラに悪い虫がつかないかどうかの方が心配だよ」



ヴィオラをマジマジと見つめたノアは小さくため息をつき、クリスフォードの事も同じように眺める。



「あれ、クリスもなんか危なそうだな?」


「お二人ともお美しいので、男女共に狙われます。確実に」



ヴィオラと同じく女子の制服を身にまとったジャンヌがノアの隣に立ち、「最初から厳戒態勢で臨んだ方がいいかも。結界を張りますか?」とノアに仰々しいことを言い出している。



「え…ジャンヌ、お世辞を真に受けすぎだよ?」


「僕もなの?僕は男だけど?それを言うならノアだって危ないんじゃないの?若返っただけで顔が良いのは変わらないし」



クリスフォードとヴィオラが戸惑いの声をあげると、ノアとジャンヌが二人同時にため息をつく。



「お前達はただでさえエイダン殿の美貌を受け継いでいて目立つんだよ。その上長年病弱だと社交界に秘匿され続けていたオルディアン家の双子だぞ。誰も見たことのないその双子が今日学園デビューするんだ。学園で注目を浴びるどころか、たぶん今日一日で社交界にまで噂が回って一躍時の人だぞ。だからこそ俺らも王太子のアイザックと手を組んで厳戒態勢を取ってるんだろうが。お前ら世間知らず過ぎだ。もっと危機感を持て」


「え~…そう言われると休みたくなってきたな」


「学園に通うのは貴族の子供の義務だぞ。入学式から登校拒否か?アイザックに睨まれるぞ」


「行きます」


「どど、どどどうしよう…っ。ノアの話聞いたら、すごく緊張してきた。考えてみたら私、友達いないんだった。誰とも喋れる気がしない。どど、どうしようお兄様…っ」


「大丈夫、落ち着いて。魔法士科は一クラスしかないんだから僕もノアも同じクラスだよ」



王立学園の魔法士科は、そのまま王宮魔法士候補生でもあるので高魔力保持者の子供達しか通えない。



入学試験で二人の魔力テストは、王太子アイザックと皇帝の意向により、秘密裏に光と闇の魔力を感知しない魔力測定器を作り、二人の魔力測定の時に周りにわからないようにすり替え、テストを行った。



結果、クリスフォードは水属性。ヴィオラは土属性と水属性の適正結果となり、他の生徒達と特に差はなく肩を並べて学生生活をスタートすることになった。


全ては二人の存在を邪神に気づかせない為の措置だった。



「大丈夫、お前達の事は俺らが守るから。二人は初めての学園生活を楽しめばいいよ。さあ、もう行こう」


4人が玄関の扉に向かうと、後ろから呼び止められて振り返る。




「皆、気を付けてな」



エイダンが少し緊張した面持ちでクリスフォードとヴィオラを見つめる。



「少しでも身の危険を感じたら、魔鳥を飛ばしてくれ。すぐに駆け付ける。それから急に距離を詰めてくるような不審人物には気を付けるんだぞ。どこに邪心教が潜んでいるかわからない。少しでも違和感を感じたらすぐにノア様に報告し――――」


「エイダン殿、大丈夫だ。俺たちがちゃんと守るから」


「――……ノア様、どうかよろしくお願いいたします」



ノアを真剣な顔で見つめると、エイダンは深く頭を下げた。子供達のことが心配で仕方ない。そんな気持ちが見て取れた。


父親のその姿に二人は複雑な気持ちになったが、この5年の月日は二人の態度を軟化させるには十分で、それはエイダンが自分達を守る為に奔走している姿を間近で見てきたからに他ならない。



不器用な父親のその背中を、二人はずっと見てきた。




「お二人とも、行ってらっしゃいませ」



エイダンの後ろからロイドも見送りに来て、笑顔で送り出す。



「「いってきます」」





馬車に乗り込む寸前、フォルスター侯爵家の邸を横目で見る。


5年ぶりに王都に帰った翌日、ヴィオラとクリスフォードはルカディオに会いに行こうとしたが会えなかった。



家令のデイビッドが申し訳なさそうに、



『ルカディオ様はここにはいらっしゃいません。今月初めに学園の寮に入られました』






二人とも言葉が出なかった。


ルカディオは完全にヴィオラ達を避けている。



王都の邸から学園まではさほど時間がかからないにも関わらず、あえて学園寮に入ったのだ。



ルカディオの強い意志を感じた。




それでも、ヴィオラ達の婚約はまだ続いている。

まだ縁は繋がっている。



誠意をもって話し合うしかない。

気持ちを伝えるしかない。



ヴィオラの気持ちは5年前と少しも変わっていないのだと。




ルカディオが好き。


大好き。




胸に広がるのはルカディオへの愛。





「……早く、会いたいな」



入学式には、ルカディオもいるはず。




「僕もだよ。一発ぶん殴ってやらないと気が済まないよ」


「───おい、入学早々に暴力事件起こすなよ」





それぞれの想いを胸に抱きながら、馬車は学園の門の前で停車する。


先にノアとクリスフォードが馬車を降り、差し出された兄の手に自分のそれを添え、ヴィオラも馬車を降りた。


目の前に荘厳な構えの学園の門が見える。

奥にはゴシック調の大きな学舎が広がっていた。



「行くよヴィオラ」


「うん」




今日この日、2人の新たな物語が始まった。


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