8歳 兄の忠告 / 婚約者の誓い sideルカディオ
「ちょっと、人が寝てる間に何してくれてんの?誰がヴィオと婚約なんかしていいって言った?」
「お前以外の皆が歓迎してたけど?」
「僕に認めてもらいたかったらさっさと脳筋バカを卒業してよね」
「お前素直におめでとうと言えないのかよ!」
クリスフォードの部屋にお見舞いに来たルカディオは、ヴィオラとの婚約について報告した。
先程までヴィオラも一緒にいたが、クリスフォードが男同士で話があると言ってヴィオラを部屋から出したのだ。
その途端にこの悪態である。ルカディオに対して一切取り繕わないクリスフォードは、妹に関する話題には嫉妬心を全力で剥き出しにする。
初めて会った時から敵意を向けられた。でも3年付き合ううちに、腹黒なただのシスコン野郎だという事が判明したので、何やかんやで幼馴染と呼べるような関係になっている。
「おめでたくないし。ヴィオは僕のヴィオだし」
「何このシスコン!やだもう!ここに小舅がいる!」
「まあ、冗談は置いといて。真面目な話、僕的にはあまり歓迎できないのは確かだよ」
「何でだよ。俺の何が不満なんだよ。これでも次期侯爵家当主なんだけど?」
「ルカに不満があるわけじゃなくて・・・いや不満か。「不満なのかよ!」・・・誰もが歓迎しているこの婚約に、あのくそババアが大人しく見てるだけでいられるかなと思ってね」
伯爵夫人。表向きは良妻賢母で通っているが実際はヴィオラを冷遇している酷い母親だ。
この3年、ルカディオも直接現場を目撃した事はないが、ヴィオラが傷ついて泣いている姿は何度も見た。
「・・・・・・侯爵家で両親達交えて婚約手続きした時は何も言ってなかったぞ」
「父上の前だから猫被ってただけでしょ。あの人はヴィオの幸せが何よりも嫌いな人だからね。まったく、何であんなクソ女が僕らの母親なんだか、ホント嘆かわしいよね」
クリスフォードは反吐が出ると言って心底軽蔑したような顔で毒を吐く。本当に母親が嫌いらしい。
「・・・実の子の幸せを願えない親って、いるのか・・・」
客観的に理解はしていると思う。
ただ心情的には、そんな母親がいるなんて信じられない気持ちを捨てられずにいる。
「それはルカが健全な親子関係を築いてるからそういう種類の親もいるってわからないだけだよ」
どこか遠い目をして呟くクリスフォードに、自分がどれだけ無神経な発言をしたのか気づき、ルカディオは慌てて頭を下げる。
心の底から謝ったのに「ほんとルカって地雷踏む天才だよね」と黒い怒りのオーラを背後に出しながら天使のような微笑みを浮かべるという器用な技を見せるクリスフォードに戦慄した。
「冗談じゃなくてさ。うちは特殊な家だから。いつ侯爵家の顔に泥を塗る醜聞を出すかわからないよ。何せ、伯爵家当主である父上がこの家の問題解決から逃げてるからね。親が子供に甘えて、犠牲にして、好き勝手してる家なんだよ。そんな面倒な家と縁結びたい?」
「・・・・・・伯爵家の実情は父上も把握してる。それでも我が家に利はあるし、お前はヴィオラを守れって父上に言われたよ」
「なるほど。まあ名門侯爵家なら下調べ済みか」
「ま、今更だよね」と諦めたように深いため息をついた後、今度は射抜くような強い視線をこちらに向けられ、ルカディオは思わず肩を揺らした。
「それなら、覚悟の上でヴィオと婚約したんだよね?」
「覚悟?」
「そう。その辺の浮かれたカップルみたいに軽い気持ちでヴィオと結婚するのは無理だよ。ヴィオの傷は深いし、これからもあのババアに傷を抉られ続ける可能性は高い。子供の僕らに出来る事なんて大した事じゃないから、ヴィオを悪意から守るのは並大抵の事じゃないんだよね」
「それは分かってるよ」
「そう?じゃあこの先、一生、ヴィオの味方でいるって誓える?世界中がヴィオの敵に回っても、ルカだけはヴィオの味方でいるって、誓えるの?」
「誓える。俺はヴィオラが好きで、守りたいから婚約したんだ。ヴィオラを守る為なら何でもする」
「・・・その言葉、絶対忘れないでよ」
クリスフォードの刺すような視線に真っ向から応えるルカディオは、好きな子を守るために力をつける事を決意する。
でも、
クリスフォードの前で誓った決意は、
淡雪のように消えてしまう事を、
大好きな初恋の女の子を、
地獄に突き落とすのが自分である事を、
この時のルカディオは、まだ知らない────。
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