5歳 双子の均衡が崩れ始める
「ヴィオ、なんか最近楽しそうだね」
ベッドのヘッドボードを背にして座るクリスフォードは、ここ最近の妹の変化に気づき、その理由を問う。
ルカディオとの出会いから1ヶ月。
ヴィオラとルカディオはあの日から頻繁に会っている。いつもお互いの家との境にある生垣の下から出入りして、徐々に2人は親交を深めていった。
ルカディオはフォルスター侯爵家の嫡男で、父親は騎士団長を務めていた。15歳になったら父親が卒業した王立魔法学園の騎士科に入り、父のように近衛騎士を目指すのだとヴィオラに熱く語っていた。
夢を叶える為に剣の稽古をするルカディオはとてもカッコいい。庭先で剣の指南を受けるルカディオを見るのが最近のヴィオラの楽しみだった。
ルカディオを思い出し、頬を染めながら柔らかく笑う妹を見て、クリスフォードは嫌な予感がした。
「友達ができたの」
「友達?誰?」
「お隣に住んでいるルカディオっていう男の子。私達と同じ5歳なんだよ。将来は騎士になりたいんだって!いつも庭先で剣の稽古してるの」
「・・・ふーん」
「あ・・・、えっと・・・」
ヴィオラはその反応で瞬時に兄の機嫌を損ねた事に気がついた。
「お兄様・・・」
「ヴィオは僕と一緒にいるより、そのルカディオって子といる方が楽しいの?僕にはヴィオしかいないのに」
「違う。そんな事ない。お兄様とお話してる時も楽しいよ」
「でも、ルカディオの話をしてる時、ヴィオすごく嬉しそう。・・・どうして友達になったの?」
「・・・・・・・・・この間の誕生日の日に初めて会って、慰めてくれたの」
「誕生日・・・・・・、そっか・・・」
誕生日の話題になった途端、兄の表情が暗くなる。
誕生日は2人にとって祝うべき楽しい日ではない。
母が祝うのはいつも嫡男のクリスフォードだけ。
プレゼントもケーキも、この5年間ヴィオラの為に用意した事など一度もない。
その事をクリスフォードが母親のイザベラに指摘すると、ヴィオラがクリスフォードを唆して自分を貶めているとヒステリックに喚き散らすのだ。
こんな誕生日を毎年繰り返しているので、物心ついた頃には既に歪な親子関係になっていた。
まだ5歳の2人も、自分達の母親が異常な事に気がついている。だから2人寄り添って生きてきたのだ。お互いの事はお互いが1番よく知っている。
だがヴィオラが初めての恋をした事によって、2人の均衡が崩れ始めてきた。
頬を染めてルカディオの話をする妹が、知らない女の子に見えてクリスフォードは不安に駆られる。
ただでさえ病弱な体で好きに外に出ることも叶わない。運動なんてしようものなら死活問題だ。
自分は一年のほとんどをベッドの中で過ごしていて、自分にとってはヴィオラだけが心休まる家族であり、親友なのだ。
それがルカディオとの出会いによって、クリスフォードの知らないヴィオラの時間がどんどん増えていき、双子なのに共有できない感情がヴィオラに芽生えていく。
クリスフォードの胸の中に、双子の妹に置いていかれるかもしれない恐怖と焦燥の小さな種が蒔かれた。
壊れた母と、片手で数える程しか会ったことがない薄情な父と、親に愛されない可哀想な双子の妹。
この歪な家庭の中で、
その種はいつ芽吹くのか。
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