忍び寄る side ルカディオ
「え!?北の森に魔物が大量発生!?」
「そうなの。既に旦那様は討伐隊を率いて現地に向かったからしばらく邸には戻ってこないわ」
朝食の時に母から聞かされたのは北部の領民が受けた悲惨な被害報告だった。
森の付近にある村のいくつかが被害に遭い、その内の一つが壊滅状態だという情報を得て国が重く受け止め、急遽討伐隊を編成して早朝に現地に向かったらしい。
「・・・大丈夫でしょうか。ついこの前治癒魔法士のエイダン様が隣国に行ってしまって不在なのに」
「大丈夫よ。旦那様は強い人よ。他にも優秀な治癒魔法士様は沢山いるわ。彼らも医療班を編成して討伐隊に同行してくれてるみたいだから。私達はここで旦那様の帰りを待ちましょう」
「はい、分かりました」
「奥様、お食事中申し訳ありません。新しい侍女見習いが入りましたのでご挨拶して宜しいでしょうか」
「ええ、いいわよ」
「アメリと申します。精一杯務めさせていただきますのでよろしくお願い致します」
「今は旦那様が討伐に向かっていて何かと慌ただしくなるかもしれないけれど、宜しくね」
「はい。尽力させていただきます」
討伐隊が出征してから2週間後、
その知らせは届いた。
「奥様!」
庭先でお茶をしながらルカディオの稽古を眺めていた母セレシアの元に家令が走り寄る。
「どうしたのデイビッド」
「い・・・今、王宮から早馬が来て、旦那様が大怪我を負われた為、すぐに王宮に来るようにと・・・」
「何ですって!」
「母上落ち着いて!すぐに王宮に向かう準備を」
「そ、そうね・・・っ、早く行かなくちゃ・・・、ああっ、なんてことなの・・・っ」
ルカディオは今にも取り乱しそうな母を宥め、馬車に乗り込み王宮へ向かう。
王宮の医療処置室に入ると、部屋のベッドが満床になるほど怪我人で溢れ返っていた。
消毒の匂いと血の臭いが混ざり合い、嘔吐きそうになるのをグッと堪える。
そして部屋の一番奥のベッド横に、副団長が座っているのが見えた。
「レイガルド副団長!」
「・・・っ、ルカディオ!セレシア様!こっちだ!」
急いで彼の元に向かうと首から下全体を包帯で巻かれた父が横たわっていた。
その顔は血の気がなくなっていて生きているのか死んでいるのかわからないほど生気が感じられなかった。
「ダミアン様!!」
「父上!」
急いで父に駆け寄り声をかけるが何も反応が返ってこない。手を握るとあまりの冷たさに恐怖を感じた。
「レイガルド様・・・父はなんで」
「・・・・・・ずっと、計画通り討伐は順調に進んでいたんだが、最後に突然ワイバーンが出てきて新人騎士を襲ったんだ。ダミアンはその奇襲でケガを負った部下達を助ける為に一人でワイバーンと対峙した。俺達が加勢に来た時には既に敵は退治されていたがダミアンも全身傷だらけで腹を食いちぎられていた・・・。だが一緒に高位魔法が使える治癒魔法士も連れていたのが幸いして一命を取り留めたんだ。それでも血を多く失っているからまだ意識は戻っていない」
「そう・・・ですか」
(父上は、団長として体を張って部下と領民を守ったんだな)
レイガルドから父の武勇を聞き、ルカディオは自分の父を心の中で讃えた。その騎士としての生き様に尊敬の念を抱いた。だから自分も父のような騎士になりたいと夢を見るのは当然のことだったと思う。
そして父にとっての母のように、自分にも守りたい存在ができた。
脳裏に花のようにふわりと笑うヴィオラの姿が浮かぶ。その笑顔を思い浮かべるだけで冷えた心に熱が灯った。父の傍らで涙を流す母の肩に手を添える。
「母上。大丈夫です。父上は母上や俺を置いていなくなったりしない。すぐに目覚めてくれますよ」
「そうね。ルカディオ。私は騎士の妻だもの。しっかりしなくてはね」
─────数日後、父は目覚めた。
この時のルカディオは、また元通りの生活に戻るのだと何の疑いもなく思っていた。
悪意はその足元まで忍び寄り、自分達の背中に手を伸ばそうとしていたのに、それに気づかなかった。
もしこの時に気づいていれば、
今でもヴィオラは、
自分の隣で笑ってくれていたんだろうか───。
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