バタフライエフェクト2
「ヴィオ・・・帰ってくるの待ってるな」
「うん、行ってくるね!」
出発の日、再びルカディオが伯爵家に見送りに来ていた。
この2日間、今まで離れていた分2人は同じ時間を過ごし、頻繁に甘い雰囲気に持っていこうとするルカディオにヴィオラはたじたじになっていた。
そして何度もクリスフォードが邪魔に入っては男2人が口喧嘩をし、ヴィオラがそれを諌め、最後は3人で笑い合う。そんな昔のような時間を過ごした。
束の間の幸せ───。
馬車の前で未だ心配そうに眉を下げているルカディオに、ヴィオラはひしと抱きついて甘えた。
「夢の為に、頑張ってくるね」
「うん。俺も頑張る」
「・・・ヴィオ。さっさと行くよ!」
馬車の中から不機嫌そうなクリスフォードの声が聞こえ、慌ててヴィオが体を離す。
また邪魔をされたルカディオはチッと舌打ちをし、クリスフォードに不満げな視線を向けた。
「このくそシスコンめ」
「脳筋バカよりはマシじゃない?」
また2人が睨み合った所で、ヴィオラは他に同行する大人達も待たせている事に気づき、名残惜しいがルカディオに別れを告げる。
「じゃあルカ!行ってきます」
「ああ。いってらっしゃい」
微笑み合い、体を馬車に向けて乗り込もうとしたその時、
「ヴィオ!」
ルカディオに名を呼ばれて後ろに体を引き寄せられ、顔を上に向けられる。
「あ」と気づいた時には彼に口付けをされていた。
時間にしてはほんの数秒だが、周りの人間達は思いもよらない子供の行動に目を見開いている。
ルカディオは驚愕しているクリスフォードにドヤ顔を向けて「ヴィオは俺のだ」と牽制した。
ヴィオラは人前で、よりにもよってクリスフォードとエイダンの前で口付けされた事に羞恥で顔が赤くなり、
「ルカのばか!」
と馬車に乗り込んで身を隠した。
「ヴィオ!?」
ヴィオラの反応で一気に顔を青くしたルカディオの肩に、大人の男の手が乗る。
振り返ると美しい顔立ちのエイダンが余り見せない笑顔をルカディオに向けていた。その冷たい笑みは驚くほどクリスフォードに似ていて、心なしか周りの空気が冷たくて肌寒くなった気がする。
「ルカディオ、君達にはまだちょっと早いと思うから、婚姻まではちゃんと清く正しい交際を頼むよ。わかったかい?」
「・・・・・・はい」
それ以外の返答を許さない雰囲気に呑まれ、ルカディオは承諾せざるを得なかった。
大人達が次々に後方の馬車に乗り込み、出発準備を進める中、捨てられた子犬のような顔で馬車を眺めるルカディオ。
馬車の小窓は開いているが、クリスフォードの顔しか見えない。ヴィオラは未だ赤い顔を両手で隠し、顔を下に向けている。
「だからお前は脳筋バカなんだよ。バーカ」
「ヴィオ・・・嫌いにならないで」
寂しそうな声に根負けしてヴィオラは顔を上げた。
「嫌いになんかならないよ。大好き」
「ヴィオ!」
バン!!
「・・・っ、クリス!」
ルカディオが身を乗り出して再びヴィオラに触れようとした所でクリスフォードが小窓を閉め、ルカディオの侵入を阻んだ。
「この下り何回やるつもり?暑苦しい。皆待ってんだよ。もう出発するよ」
「このシスコン野郎めっ、またしても邪魔しやがって!」
「ルカ、もうそろそろ行くね。本当に皆待ってるから」
「わかった・・・。気をつけてな」
「うん。いってきます!」
そうして、ヴィオラ一行はグレンハーベル帝国へと向かった。
王都から国境検問所へは馬車で3日間。国境を越えた所で魔法士団の迎えの人達と合流し、そこから1週間かけて帝都シルヴェストルへと向かう。
医療支援派遣団として皇帝陛下に謁見した後に魔法士団に向かい、そこで魔法士団長に面会する予定らしい。
───旅は長い。
これから、ヴィオラ達の運命を変える出来事が待っている。もう足元まで迫っている。
双子は寄り添い、手を繋ぎ、流れる景色を眺めた。双子の2人が領地に向かう景色以外を見れたのは今回が初めてだ。
クリスフォードは病弱で外出が難しく、ヴィオラは虐待の醜聞が漏れるのを恐れた義母が外に出る事を許さなかった。
2人の世界は、ずっと狭いままだったのだ。
それが今、見たことのない新しい景色が目の前に広がっている。本来なら心弾ませてもいいはずなのに、心にずっと重たい重石が乗ったままだった。
「大丈夫、だよね」
「たぶん・・・」
本当は、すごく怖い──。
自分達が思っていたよりも遥かに脆い地盤の上に立っていた事に最近気がついた。
それも、既にいつ崩れ落ちるかわからない地盤の上に。
正直、ここからどう覆すのか見当もつかない。
私達は生き残れるのだろうか。
死にたくない。──怖い。
ミオからヴィオラに転生して、大事な人達ができて、薬師の夢もできて、今度こそ自分の人生謳歌するんだと決めたのに、大人達の勝手な陰謀に未来を潰されようとしている。
それが怖くて、──悔しい。
クリスフォードも同じようで、ヴィオラの手を握る指に力が篭もる。
子供の自分達にできる事は何もない。
ただ、運命に身を任せるしかない。
ただ、祈るしかない。
どうか、
運命が自分達の味方になってくれますように───。
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