証拠
「やっぱり毒・・・っ」
ケンウッドが内偵してきた製薬工場の資料を手にしてヴィオラは怒りに震えた。
父が、母とバレットを伴って王都に戻ってから早1ヶ月。
領地の邸の使用人も、だいぶ顔ぶれが変わった。
王都から新しい使用人が入ったのだ。
母付きの侍女達は母と一緒に王都に戻ったが、それ以外の公爵家所縁の使用人達は解雇せず、そのまま残したらしい。
理由はこの新薬の件。
絶対にバレットとイザベラだけの犯行ではないだろうと見て、そのまま泳がせ、動きを監視している。
そして父の命で商会と製薬工場に影を送って内偵させた所、使途不明金が存在しており、現在そのお金の流れを探っている。
ロイドが日を増すごとに悲壮感を漂わせていた。頻繁に「ヤバい・・・ヤバい匂いがプンプンする」と報告書を見るたびに唸っている。
ロイドは気づかなかったのか?と質問したら忙しさにかまけて調べる余裕が無かったと頭を下げていた。言い訳ですね。と自嘲していたが、ロイドが忙しいのは事実だと思ったので責めはしなかった。
とにかく、ようやく人材が確保出来たので今後は伯爵家の膿を徹底的に出すのが皆の共通の使命となっている。
そしてヴィオラはというと、一階のリネン室隣の備品庫をもらい、薬の調合等が行えるように部屋を改修した。
薬草等を煮詰められるようにロイドに頼んで1人用キッチンも入れてもらったのだが、伯爵令嬢自らがコンロを扱うなんて危ない。使用人にやらせるべきと愚痴愚痴うるさくて説得するのに時間がかかった。
実際に薬を分析したい所だが、前世の世界のように成分を分析してくれる精密機械がないため、使用された材料を見て判断するしかない。
毒性があるかどうかを調べるリトマス試験紙のような便利な検査紙はあるらしいので、それをロイドに発注してもらった。
また、公爵家への内通者がいることから、ケンウッドが遮音魔法を施した魔石を部屋に設置してくれたので、おかげで情報が外に漏れない部屋仕様になっている。
とても便利なのでヴィオラとクリスフォードの部屋にも同じ魔石を設置してもらった。
そして、クリスフォードがバレットに処方された新薬を飲むフリして保管しておいたものと、ケンウッドが内偵で手に入れた新薬と成分表、各国の図鑑などで照らし合わせて調べた所、
「やっぱり毒・・・・っ」
新薬はペレジウムといって、この世界の自然の中に存在する元素の一つ。火山地帯の鉱石や土壌に多く含まれていて、結構身近に存在しているものだった。
多分、前世の世界でいうヒ素に近いかもしれない──。
土壌に含まれるので、普通に畑で取れる野菜や薬草などにも若干含まれているのだ。でもそれは健康被害が起こらないくらいの微量なもの。
そのためバレンシア王国ではメジャーな毒ではなく、火山地帯でもないことから世間に知られていない毒だと思われる。
──つまり、この毒はこの国のものではない可能性が高いということ。火山地帯でもないこの国の土壌から僅かに含まれるペレジウムだけを抽出するなんて至難の技だ。
この毒が取れやすい地帯があるとすれば、隣国グレンハーベルの北側に位置する火山地帯だと思われる。
「まさか…、グレンハーベルから密輸入してる可能性があるってことですか」
ヴィオラの見解を述べた所、ロイドの顔から血の気が引いた。
気持ちはわかる。
魔力判定の偽証の疑いがあってただでさえ一族極刑の危機に見舞われてる中で、更に毒薬の密輸入。もしこれが事実なら、どちらを取っても誰かしら極刑で死ぬ可能性が高いのだ。
「でも、よく検問所を通過できましたね。毒薬なら見つかればその場で摘発されるはずですけど」
これがこの毒の厄介な所なのだ。
ペレジウムは自然界に当たり前に存在する物質であり、微量なら健康被害を与えないというのは調べればすぐわかること。火山地帯の濃度が高いペレジウムも、健康被害に影響は与えるとしても生死を彷徨うくらいの症状が出るのは長期摂取した場合の話。
一口だけ一度口にしたところですぐに生死をさまようわけではないのだ。
なんなら農家で殺虫剤として使われていたりするので、その用途で持ち込まれたら検閲に引っかからないだろう。
ただ一つだけ例外がある。
それは熱して濃度を上げ、粉末に精製した場合。
これはティースプーン1杯で致死量に値する。
バレットはそれを、オルディアン領の製薬工場で精製した可能性が高い。
そしてその精製した毒を希釈してこの2年間クリスフォードに飲ませたのだろう。
怪しまれないギリギリの量で、若干の健康被害が出る程度の濃度を毎日飲ませ、徐々に体を弱らせた。
動機は多分、母親の魔力判定の偽証を隠蔽するため。
クリスフォードを病死させ、ヴィオラの事も何らかの方法で殺害すれば、一生バレる事はないのだから。
そしてこの新薬という名の毒が、クリスフォードの分だけな訳がない。沢山量産してるはず。
使途不明金にこの毒が関係しているかもしれない。
本当に、なんて事をしてくれたのか───。
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