5歳 初めての恋
王宮に近い王都の一等地にあるタウンハウス。
季節の花々が咲き誇る美しい庭園に、景色に似つかわしくない悲痛な声が微かに聞こえる。
邸の裏手の片隅に小さな女の子が蹲り、声を押し殺して泣いていた。
「どうして泣いてるの?」
突然聞こえてきた幼い声に体がビクつく。
震えながら辺りを見回し警戒する少女。
すると邸の生垣の下から器用に体を滑らせて、自分と同じ5歳くらいの赤毛の男の子が敷地内に入ってきた。
「何で泣いてるの?怒られたの?」
子供特有の無遠慮な問いかけに少女はたじろぎながらも頷いて答える。
「お母様は、私の事なんてどうでもいいの。お兄様だけが好きなの。私も同じ誕生日なのに、プレゼントもケーキも無いの」
思い出して、少女はまたポロポロと大きな瞳から涙を溢した。
「今日誕生日なの?何歳?」
「5歳・・・」
「僕も5歳だよ!同じだね!・・・あっ、そうだ!ちょっと待って!」
そう言いながら少年は自分の服の全てのポケットを漁り出す。そして何かを見つけ、少女の手のひらにそれを乗せた。
「・・・チョコチップクッキー?」
「後で食べようと思ってたおやつだけど、あげる!誕生日おめでとう!」
「・・・・・・・・・」
「あれ?クッキー嫌い?」
ふるふると首を横に振り、少女はそのクッキーを大事そうに胸に抱えた。
「ねえ、名前なんていうの?」
「・・・ヴィオラ」
「ヴィオラか!僕はルカディオだよ!隣の家に住んでるんだ。よろしくね!ヴィオラ」
ルカディオはニカっと、眩しい太陽のような笑みを見せて、再び「誕生日おめでとう!ヴィオラ」と祝いの言葉を少女に贈った。
「ありがとう、ルカディオ」
先程まで悲痛な声で涙を流していたヴィオラは、ルカディオの明るい笑顔に釣られて、ふわりと花が咲いた様に笑った。
「わあ・・・」
初めて見るその笑顔に、ルカディオの頬が染まる。
今まで誕生日に「おめでとう」と言ってくれたのは、双子の兄だけだった。でも今年から兄以外にも祝ってくれる人が増えた。
夕焼けを連想するような綺麗な赤髪に、エメラルドグリーンの瞳を持つ凛々しい顔をした男の子。
これがヴィオラとルカディオの初めての出会いであり、2人の初めての恋だった。
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