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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第二章 〜点と線 / 隠された力〜
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崩壊の兆し sideエイダン



(―――――好きだ)



彼女を見たら、一瞬で惹きつけられる。



それほどまでにマリーベルは、どんな女性よりも美しく、その身に纏う空気が清らかだった。



そしてどこか憂いを帯びた笑顔に、エイダンは心臓を鷲掴みにされた。




その憂いの答えはすぐにわかった。


マリーベルはマッケンリー公爵と政略結婚した前妻との子供で、夫婦の間に愛はなく、前妻が妊娠した途端に公爵は愛人を囲い、妻子とは別居していた。


貴族の中ではありふれた話だ。



だがマリーベルが5歳の時、

前妻の乗った馬車が賊に襲撃され、亡くなった。



それからマリーベルの生活が一変した。


公爵が愛人と2人の間に生まれた庶子を邸に迎え入れ、後妻にしてからマリーベルは3人に冷遇されて育つ様になる。



これも、政略結婚の成れの果てとしてはよくある話だ。



──しかし本人にとっては、よくある話で流されてはたまったものではないだろう。



虐げられ、心をズタズタに傷つけられているマリーベルにとっては、現在進行形の地獄なのだから。



正当な公爵家の血筋でありながら、婿を取って公爵家を継ぐ事を許されず、政略目的で格下の家に厄介払いされた。




そんな、よくある話がマリーベルの実情だった。




でもマリーベルは、清らかな魔力のままだった。


そんな酷な環境にいればいくらでも人格が歪む機会はあっただろうに、マリーベルの周りの空気は綺麗なままだった。


綺麗で、可哀想で、でも心を曇らせる事のない芯の強さを持っている。そんなひたむきで可憐な女性を、愛してしまうのは必然だったと思う。



マリーベル17歳、エイダン19歳。



エイダンの、人生で初めての恋だった。





婚約後、花嫁修行としてオルディアン領の事業経営を学ぶため、マリーベルは週に何度か伯爵家に訪れるようになった。


未来の嫁が格上の公爵令嬢で最初の方は母もやりづらそうにしていたが、マリーベルが優秀で穏やかな性格なのもあり、次第に母とも打ち解けて教育は順調に進んでいった。



だが、肝心のエイダンとの仲が全く進展しなかった。




女性経験はそれなりにある。


でも欲を解消するだけの後腐れのない一夜限りの関係ばかりで、1人の女性に向き合った事は一度もなかった。


閨経験を積んでいても恋愛初心者のエイダンには、どう口説いていいのか全くわからなかったのだ。だからエイダンに出来る事は下手なかけ引き等の小細工はせず、ストレートに想いを伝える事だけだった。



だが育った環境のせいか、自己肯定感が低いマリーベルには、男女が見惚れる程の美貌を持つエイダンの愛をなかなか信じてもらう事ができなかった。




「婚約の相手がイザベラではなく私でごめんなさい」




婚約して半年くらい経ってから、マリーベルは何かにつけてエイダンにそう謝るようになった。


エイダンがマリーベルの義妹であるイザベラを望んだ事など一度もないのに、何度も愛してるのはマリーベルだと言っているのに、政略のためだと思い込んでいるマリーベルがもどかしかった。



なぜそう思い込んでいる?



どうすれば伝わる?どうすれば信じてもらえる?

どうすればまた出会った頃のような素の笑顔を見せてくれる?



社交嫌いで恋愛の仕方もわからないエイダンには、何をどうすればいいのかわからず、空回りするばかりだった。



今思えば、この頃からイザベラが暗躍していたのだろう。



あの女はマリーベルとの顔合わせの時から熱を帯びた視線をこちらに向けてきていた。姉の婚約者に平気で秋波を送ってくる女など阿婆擦れだと相場が決まっている。


エイダンはイザベラに対しては最低限の対応しかしなかった。愛するマリーベルに誤解されたくなかったからだ。


政略結婚の相手として接するマリーベルと、愛する恋人のように接するエイダンの心の距離は埋まらないまま、結婚式を迎えた。




結婚したからといって、


身体を繋げたからといって、



安心してはいけなかったのだ。




夫婦の時間はこれから沢山あると、

楽観してはダメだったのだ。






悪意は既に、自分達を取り囲んでいたのに──。

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◆婚約者の浮気現場を見た悪役令嬢は、逃亡中にジャージを着た魔王に拾われる。

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