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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊の愛し子〜』
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深まる謎 side レイガルド騎士団長




──時は少し遡る。




「アメリを捕縛した?」


「はい。野営地の襲撃中に不審な女を見つけたので尋問したところ、行方不明になっていたフォルスター侯爵家の元侍女だと判明したので捕縛しました」




行方不明になっていた重要参考人のアメリが野営地に現れた。


部下の話によると、鳥型の魔物の群れは騎士たちを捕食対象として襲っていたにも関わらず、何故かアメリには寄り付きもしなかったらしい。



「押収した物の中にこれが……」



部下が差し出した物は香炉と魔道具らしきネックレスだった。どういうものかはわからないが、これらから放たれる気が悪いものであることだけはわかる。


とても禍々しいその気配にレイガルドは背中にひんやりとした汗が流れた。



「どう見てもろくなもんじゃないな……。厳重に保管してアメリと共に王都に送ろう。王太子殿下に判断を仰ぐ。アメリにも自害防止の処置をしておけ」


「御意」


「──それから、ルカディオにはアメリの存在は伏せておけ」


「はい。既にそのように手配してあります」




(ダミアン夫妻を直接破滅に追いやった疑いのあるアメリが同じ敷地内にいると知ったら、ルカディオは我を忘れて暴走するかもしれないからな……)





今回の魔物による野営地の襲撃は不自然な点が多かった。


部下の合図で現場に駆けつければ、魔物と化した木々のつるに体を拘束されそうになっている部下たちがいた。



しかもそのつるは神経毒を含む厄介なもので、既に何人かが毒にやられて地面に倒れ伏していた。


生物の少ない北の領土で食人木の魔物はわりと有名だが、人里近くの低山に生息しているのを見たのはこれが初めてだった。



危険指定区域外で出現した魔物は必ず国に報告義務がある。それにも関わらず、レイガルドの知る限り情報は一切回っていない。


しかも生体数が一体だけではなく、視界に入る木々全てだ。こんな群れを成した食人木を見たのも初めてだった。



蜘蛛の巣の糸のように四方からつるが伸び、騎士たちに毒を浴びせてその身に喰らいつこうとする様はまるで蛇のようで、数の多さに苦戦を強いられた。


更に野営地の方では鳥型の魔物の群れが襲ったという。


こんなピンポイントの場所で二種族の群れが集まるなど、スタンピード以外では希な現象である。




しかも、すぐ麓にある村ではなく、騎士団を狙ったかのように襲ってきたのだ。



すべてが不自然すぎる──





「人為的……と捉えた方が自然だよな。だが魔物を操るなんて可能なのか?」



独りごちながら、レイガルドの脳裏にアメリの姿が浮かぶ。



(十中八九あの女が絡んでいるんだろうな。ルカディオが狙いなのか? それとも騎士団そのものが──?)





自分の理解の及ばない現象の数々に嘆息し、レイガルドは王太子に向けた報告書を書いて早馬を飛ばした。



騎士団が北の森への視察に向かうと同時に、アメリを乗せた荷馬車が王都へ向かう。


アメリの取り調べにあたったのは王太子アイザックとオルディアン伯爵のエイダン。


二人の高魔力保持者による万全の体制で行われた取り調べにも関わらず、核心をつく情報を引き出せないまま、アメリは謎の死を遂げた。


例の窒息死した医者と全く同じ死に方だった。

自害防止魔法をかけていたのにだ──




『邪神さま……っ……な、ぜ……あの女より私の方がずっと……お慕いして……尽くした……のに……っ』



悲痛な声でそう言い残し、もがき苦しみながら息絶えたという。



押収品である香炉と魔道具のネックレスに関しては、詳しい鑑定をするためにグレンハーベル帝国の魔法師団に送られた。


帝国での鑑定により、それらは邪神教の神具であると決定づけられ、香炉──魔香の神具は魔物を操る道具であり、ネックレスは魔物たちの主を定める証のようなものではないかという見解だった。



つまり、騎士団を襲った魔物たちはアメリが仕向けたことになり、彼女は邪神教の信者だった。


そして神具の存在により、数年前に北の森で突如発生した

中規模スタンピードも、邪神教の仕業である線が濃厚となった。



(邪神教とは一体何なんだ? 一連の事件はこのカルト宗団によるテロ攻撃なのか?)



どういう経緯でアメリがフォルスター侯爵家に入り込み、ダミアン夫妻を薬漬けにしたのか。目的は何なのか。


それらすべては謎のまま、事件は幕を閉じた。



アメリの犯行によって出会ったルカディオとリリティアがきっかけで、いずれバレンシア王国に暗雲が立ち込めることになるなど、レイガルドには知る由もなかった。





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