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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊の愛し子〜』
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今の自分に出来ること


「邪神がこの国にいるのかどうかはわからないが、エイダン殿が王太子から聞いた話では、入学式で第二王子と偽聖女が接触し、一瞬で第二王子を骨抜きにしたらしい」


「何だそれ。また危ない薬でも使われた?」


「わからない。とにかくヴィオラとクリスフォードはその偽聖女とはなるべく関わらないでくれ。いつ邪神がその女に接触しているのか、こちらは情報が何もない」


「名前は? 学科はどこですか?」


「貴族科だ。名前はリリティア・サネット。サネット男爵が外に囲っていた平民の愛人の娘で、光属性の魔力が目覚めたのをきっかけに男爵家の養子に入ったらしい」


「貴族科なら校舎が違うから、ほとんど会わないのでは?」



「だといいんだがなぁ……なんか嫌な予感するんだよな」



ノアが腕を組みながら眉間に皺を寄せて考え込む。



「嫌な予感?」


「魔法士科に第二王子の側近候補がいるだろ」


「あー、そういえばいましたね。魔法士団長の息子だっけ。確か名前はセナ・シーケンス」


「あ……もしかして入学式後のクラスで女子たちが囲っていた人?」


「そう、そいつ」



(藍色の髪と銀色の瞳を持つ美形で、将来有望な侯爵令息って騒いでたな……)



「ああ。それで実はな……第二王子と側近候補たちが、偽聖女の学園内での護衛に任命されたらしい」


「げ……それはつまり、シーケンス侯爵令息を通して偽聖女がこっちの校舎に来る可能性があるってことだよね」


「そういうことだ。──それに……」



そこで言葉を区切り、ノアがヴィオラに視線を送る。その視線の意味にヴィオラよりもクリスフォードが先に気づいた。



「──なるほど。第二王子の側近候補にはルカディオもいたね」


「…………っ」




その名前に体が跳ねる。



「ヴィオラ……本当に辛いなら、無理に学園に行かなくてもいいぞ。お前が一番優先するべきなのは自分の心と体だ」


「そうだね。無理しないでいいよ。ヴィオ」


「でも……貴族の子供が学園に通うのはこの国の義務です」


「そんなものはどうとでもなる。俺が王太子に口利きしてもいい」



──……本当に、もう以前の二人には戻れないのだろうか。



このまま学園を休めば、これ以上傷つかないで済むかもしれない。


でも、これまでそうやってルカディオと会えない日が続いたせいで、二人は収拾がつかないほどに拗れてしまった。



ヴィオラがまた邸に引き篭れば、ルカディオとの和解は永遠に来ないような気がする。行き着く先は婚約破棄か、愛のない結婚生活。



愛のない家庭がどんなに悲しく辛いものか、今世でも前世のミオの記憶でも、ヴィオラは嫌というほど分かっている。


あんな冷たい家庭を、ルカディオと築きたくない。



だからといって、今すぐ婚約解消だと気持ちを振り切ることもできない。




(だって、……まだどうしようもなく好きなんだもの)



長年抱いていた熱い想いは、もう既にヴィオラの一部となっていた。ルカディオとの出会いがあったからこそ、今のヴィオラがいる。


ルカディオと出会い、彼に愛されたあの日々がなければ、今頃あの絶望の日々の中で命を繋いでいられる自信はなかった。


ルカディオの存在があったからこそ、クリスフォードとも本当の兄妹になることが出来たし、義母の仕打ちに耐えることができた。



大袈裟でもなんでもなく、ルカディオが今日までヴィオラを生かしてきたのだ。幼い子供だったとしても、ヴィオラにとっては本気の恋だった。



だからこそ、その彼からの拒絶は一瞬でヴィオラの心を砕いた。



痛くて苦しい。


それでも心はルカディオを求めてしまう。




ノアに促されて気持ちを全部吐き出した後、見えてきたことがある。それは、ヴィオラはまだ何もしていないこと。


ルカディオのために、二人の未来のために、自分はまだ何もしていない。ルカディオとちゃんとした会話もできていない。


たった一度会って拒絶されたからといって、その一度の会話だけで未来を決めてもいいのだろうか。



ヴィオラはあの事件のルカディオの苦しみを知らない。


会えなかった日々をどんな風に過ごし、どうしてあのような彼に変わってしまったのか、何も知らない。



婚約者なのに、何も。





「──大丈夫。私、ちゃんと学園に行きます」


「ヴィオ」


「──私ね、強くなりたくて魔法訓練続けてきたの。ただ守られるだけの足手纏いな人間じゃなくて、大事な人を守れる人間になりたかった。でも……ルカが一番辛い時に私は助けてあげられなかった。だからルカは怒ってるんだよね」


「違う。フォルスター侯爵家の事件はヴィオは何も悪くない! あのバカが八つ当たりしてるだけだよ」


「でも、ルカはきっと助けて欲しかったんだよ。だからあの日、オルディアン領に来たんだよ」




(そしてあの日、私はルカを傷つけたのだろう)




「──ヴィオはお人好しすぎる」


「そんなことない。ルカのこと嘘つきって何度も罵った」


「事実じゃないか。今度本人にも言ってやりなよ。裏切り者ってね」


「でも、ルカも私に対してそう思ってるんだなって気づいたの。だからノア様のことをあんな言い方したんだと思う」


「──それは俺も、申し訳ないとしか言えないな……。かといってお前たちと距離を置くのは無理だしな」




いろんなしがらみでヴィオラたちも好きに動けない。ルカディオが偽聖女サイドにいる以上、近づくのは困難を極めるだろう。





「私たちが、魔力をしっかりコントロール出来るようになればいいんですよね?」


「ヴィオラ……?」



ノアを真っ直ぐに見つめ、決意を固める。



「サボってごめんなさい。私、明日からまた特訓を受けます。私さえしっかりすれば、ルカと話しても大丈夫ですよね?」


「ヴィオ、特訓は止めないけどアイツに近づけば必然的に偽聖女と邪神に近づく事になるんだ。それは許可できないよ」


「でもお兄様、それは言い換えればルカも危険な立場にいるってことでしょう? ルカも邪神の悪意に晒されて、不幸な出来事に巻き込まれるかもしれない。私はそれを遠くで黙って見てるなんて嫌なの」



二人の未来をどうするかは、やれることを全てやり尽くしてからでも遅くはない。



「僕は、ヴィオに傷ついて欲しくないよ。なのに守らせてもくれないの?」


「十分守ってもらってる。お兄様が側にいて味方になってくれるから、どんなに傷ついてもこうしてまた奮い立つことができるの。心配してくれてありがとう、お兄様。これからも私の味方でいてね」



ヴィオラが微笑みながらお礼を言うと、クリスフォードは盛大なため息をついて肩をすくめた。



「わかったよ。でも、あまりに目に余るようならルカディオをぶん殴るからね」



そう言ってクリスフォードはヴィオラの頭を撫でた。そんな兄妹の様子を見て不貞腐れる人物が一人。



「俺は蚊帳の外か?」


「ノア様? え?怒ってる?」


「違うよヴィオラ。あれは怒ってるんじゃなくて仲間外れにされて拗ねてるだけだよ。ヴィオと仲良しな僕に嫉妬してるんだよ」


「え? 拗ねてる……?」


「クリス!」



戯れ合うような二人の姿を眺めながらクスリと笑った時、ヴィオラは部屋に篭っていた時の昏い気持ちが軽くなっている事に気づいた。



そのきっかけはきっと、ノアが気持ちを吐き出させてくれたからだろう。


八つ当たりじみたドロドロとした気持ちをノアにぶつけ、大声で泣いてしまった。それでもノアは呆れることも怒ることもせず、ただ優しく抱きしめて背中を撫で続けてくれた。


その温もりに、とても安心したのを覚えている。



(ノア様は、私のもう一人のお兄様みたいな方ね)



「ノア様、私がこうして気持ちの整理が出来たのは、ノア様が私の気持ちを聞いてくれたおかげです。本当にありがとうございます」



ヴィオラが心からの笑みを贈ると、ノアも顔を綻ばせ、ヴィオラの頭を撫でた。



「ヴィオラは一人で抱え込んで頑張り過ぎるところがあるから、もっと俺たちに甘えていいんだよ。俺もクリスも、ヴィオラを傷つける者は許さない。俺たちが守るよ」


「でも、守られるだけなのは嫌なのです」


「じゃあ、師匠としてしっかり鍛えてやろう。それもヴィオラを守る盾になるからな」


「……はいっ!お願いします!」





自分にはまだ出来ることがある。


自分は一人じゃない。




それだけが、この時のヴィオラを支えていた。



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