自分と他人

作者：たかさば

　他人と、暮らし始めた。

　他人が、自分と同じ空間に、いる。

　他人が、自分と同じ時間を、過ごす。

　他人が、自分と同じ感情を、共にする。

　他人が、自分とは違う感情を、持つ。

　他人が、自分を、変えてゆく。

　他人が教えてくれた、常識を知る。

　他人が望んだ、展開を受け入れる。

　他人が、私の常識を知る。

　他人が、私の望みを叶える。

　他人が、私の常識を拒む。

　他人が、私の望まない展開をもたらす。

　他人と、自分の、関係。

　他人と、自分は、別の、存在。

　他人は、自分ではない。

　他人は、自分ではないから、自分の思い通りにならない。

　他人は、自分と共にいる、自分ではない存在だ。

　他人を変えることは、できない。

　他人は、自分ではないから。

　他人は、他人でしかないから。

　自分は、自分だ。

　自分は、他人ではないから、変えることができる。

　自分は、自分の思うように、自分を変えることができる。

　自分は、自分の思うように、自分を変えることができない場合もある。

　他人と暮らす時、自分を変えなければいけない場面に遭遇する。

　他人と暮らすという事は、受け入れなければいけない事が増えるという事だ。

　他人と暮らすという事は、自分の常識を変えなければいけない事が増えるという事だ。

　他人のルールを、自分が共有する。

　自分の中に、他人の常識が割り込んでくる。

　自分の中に、他人の希望が乗り込んでくる。

　自分の中に、他人の欲求が圧し掛かってくる。

　自分のルールを、他人が共有する。

　他人の中に、自分の常識を割り込ませようとする。

　他人の中に、自分の希望をねじ込もうとする。

　他人の中に、自分の欲求を押し込もうとする。

　他人は、自分ではない。

　自分の常識は、他人の常識ではない。

　自分が、他人の常識を受け入れようと考える事は、できる。

　他人が、自分の常識を受け入れようと考えるとは、限らない。

　自分が変わっていくたびに、自分の中に入り込んだ他人が、どんどん大きく膨らんでいく。

　自分が変わっていくだけで、他人は変わっていかない。

　自分が変わっていくだけで、他人は何一つ変わろうとしない。

　他人は、自分のように、自分を変えない。

　他人は、自分のように、自分を変えてしまう事をしない。

　他人は、自分のように、自分を変えて他人に寄り添う事をしない。

　自分が変わり果てていくのを感じながら、他人と暮らす。

　自分が他人の常識に染まっていくのを感じながら、変わっていく。

　自分の言葉が蔑ろにされていくのを感じながら、変わっていく。

　自分の感情が押し潰されていくのを感じながら、変わっていく。

　他人が喜ぶ姿を見ながら、自分はただただ卑屈になっていく。

　……変わるのは、自分だけなのだ。

　自分を変え続けて、ふと、気が付くと。

　どこにも、自分自身がいないことに、気が付いた。

　どこにも、自分自身を出せなくなっていることに、気が付いた。

　自分は、他人の中に、取りこまれてしまったのだ。

　自分の人生なのに、他人が支配している。

　自分の人生なのに、他人がいないと成り立たない。

　他人がいなくなり、自分が残った時。

　自分は、何をしていいのか、わからなくなった。

　他人がいなくなった自分は、自分のするべき事が、わからない。

　自分のしたい事が、見つからない。

　自分のしたかった事が、思い出せない。

　自分が、わからない。

　自分が、どこにもいない。

　自分が、どこにも、いない。

　自分を、探せない。

　自分を、探したくない。

　自分を、探したところで。

　自分など、探さない方が。

　……自分を無くした、ただの抜け殻は。

　今日も、ぼんやりと、時間を……潰す。