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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪質なポーション作りのお陰で生き延びました。

なんやかんやしていたら、生き延びることが出来ました。

作者: 櫻塚森

“お前の婚姻が纏まった。”

一年以上ぶりに父親と言うものに呼び出された。

ここに来たのも久しくて目に眩しい。

入ってきた時に見たのは、豪華絢爛、権力の象徴とも言える謁見の間。

頭を上げることは許されず、まぁ、押さえつけられるからだけど。

離宮の更に奥にある森の小屋で質素な生活をしていた自分には眩し過ぎる空間だから見なくて済むならそれでいいけど、ちと痛い。

「悪質なポーションしか作れぬお前には過ぎた話だ。粛々と準備に取りかかれ。」

母親が死んだのは13年前。あの時に自分を取り囲む環境が変わった。いや、根っこのところは変わってないのだろうか。まず、最初に王城から追い出された。乳母夫妻と共に暮らし始めたのは城から馬で数時間かかる距離にある西の離宮だった。元王立騎士団の隊長にまでなった乳母の夫は、父親の近衛を断ったことで、母親の近衛と言う閑職に追いやられた。しがない隣国、敗戦国の第6王女と言う地位にあった母親は見た目と魔力保有量の多さだけは良かったために報奨としてこの国に与えられたものだった。

美しい、まだ14歳の王女を手込めにしたのが、目の前の、ふんぞり返っている父親だった。そして、母親に嫉妬し、呆れ返る程の、殺すまでには至らない程の虐めをしていたのが、父親の正妻である王妃だった。15歳で母となった隣国の王女は体を壊し、臥せるようになり、衰弱していった。実際は正妻から毒を盛られていたからだが。

父親は、自分を生んだせいで母親が衰弱したのだと正妻を庇い、母親が死ぬと同時に城から追い出した。

母親が生まれた隣国は魔法国家で母親は王女の中でも魔力保有量が多く、癒しの力に長けていた。その力に目を付けていたのだろう、母親は父親の相手以外に良質なポーションを作る歯車の一つでもあった。他国への侵略を繰り返していたこの国にとって癒しの力は喉から手が出る程欲しいスキルであり、母亡き後、周囲の自分への期待は膨らんだが、自分の魔力保有量が常人の1/5程しかないと判明したことで父親はアッサリ自分を追いやることにした。

隣国から母親に付く為に現れた乳母からは教養と魔法を、乳母に一目惚れし共に離宮へと来た元騎士団長には剣術を叩き込まれた。

「良いですか、あなた様が生き残るには、この国から出るしかないのです。来るべき日に備えて、強かに暮らしましょう。」

何処へでも共に行くと誓ってくれた乳母夫妻は、3年前、王命で戦争へと駆り出され、亡くなったと聞いた。世界情勢など耳に入らない環境でひたすら剣と魔法の腕を上げ、悪質なポーションをわざと作って差し出す生活をしていた自分は、そろそろ国を出て冒険者にでもなるか。なんて考えていた。

乳母曰く、

「魔力は、努力次第で増やせます。器が大きければ大きいほど魔力が貯まるには時間を要します。日々の鍛練を忘れず、自然に囲まれ、生命の息吹を感じなさい。」

などと、夢物語のことを言われたが、離宮と森での生活は周囲にある魔素を取り込み、魔力を増やすにはもってこいな環境だった。

「まがりなりにも、この国上位の魔力保有量を誇る父親と魔力保有量に関しては化け物クラスだった姫様のお子であるあなた様が常人の1/5など、笑止千万!生まれたときの保有量で魔力の大きさを測るなんて愚か者の所業、かといって姫様のように駒にされるなど癪ですから、今後強いられるだろうポーション作りは思い切り手を抜きなさい!」

乳母は怖かった。

「国に仕える騎士など捨て駒だ、なるなら、冒険者がいいと思うぞ、で、俺らを養ってくれ。」

来るべき日を夢見て元騎士団長は言った。

16になれば、親の鎖から解き放たれ成人と見なされる。この国独特の風習で法律により、父親の所有物である自分が自由になるまで後3日だったのになぁ。

犯罪人のように両脇を捕捉され退場させられることになった。チラリと横目で他称家族を見てみると、あれ?王族減ってない?確か、自分の上には5人の王子と3人の王女がいたはず。それが、王女はともかく、王子で、まともに立っているのは一人だけで、もう一人は満身創痍だし、もう一人は遠隔鏡と言う魔法道具で部屋からの参加みたいだ。

ふんぞり返っている父親も帰り際にチラリと見たけど窶れてたな。

「この部屋で身支度を整えて下さい。服は掛けてあるモノをとのことです。」

連行された先は何の変哲もない部屋。使用人らしき女が2人、忌々しげにこちらを見ていた。

「湯浴みをして、その汚れた体を綺麗にしてください。ご希望なら手伝いますが、」

ツンケンした態度で睨み付けてくる彼女達に自分の身支度は自分ですると告げた。

あからさまに見下げた笑いを一つ頂いた。

「一時間程でお迎えに上がります。」

言葉だけは丁寧に女達は出ていった。

『どゆこと?』

影から出てきたのは一匹の黒猫。

「さぁね、でもまぁ、城から出られる見たいだから、嬉しいな。」

ボロい服を脱ぎ捨てながら風呂場へと行く。

湯気など立っていない寒々とした浴室。

「変わってないな。」

可笑しくて笑ってしまったが、貯められた水に手をかざし、願う。湯気が立ち始めまた笑顔になった。

『ホントに入るの?』

風呂嫌いのルナが尋ねてくる。

「小屋には風呂なんてなかったし、ヴォルフ達が居なくなった後に離宮のは壊わされてたからね。」

石鹸は置いてくれてたラッキー!

『風呂中の影には入りたくない、って、泡が飛んでる!やだっ!』

「ごめん、ごめん。ねぇ、ルナ、何か色々分からない状況なんだ、仕入れてきてよ、情報。」

面倒くさいと言う表情を見せるルナ。露骨な表情見せる猫なんてお前くらいだ。

「またたび酒…作ってあげようかなぁ。」

『行ってきます!』

ルナは使い魔だ。

乳母夫妻と入れ替わるようにやって来た。まぁ、王家の森に住む魔物で最初は自分を食べる気満々だったのを調伏したのだ。結構、強かったよ。自分の離宮と対をなす東の離宮が半壊するくらい、魔物討伐に王族の近衛が来てたけど足元にも及ばなくて、そうそう王妃お気に入りのイケスカナイ騎士さんなんか手足食われてたし。騎士さん達を半殺しにして、此方の離宮にまで手を伸ばそうとしてたから調伏したんだ。自分の実力を見る良い機会だった。

父親の付けた隠密の目も誤魔化せる程の幻視魔法も上手くいったし。この戦いをヴォルフが見たらきっと褒めてくれるに違いない。

無駄に長くなった髪を掻き上げる。あー、湯船って気持ちいいね、先に石鹸で体洗ってて正解。じゃないと今頃湯は真っ黒だろう。

んっ?地震かな、ちょっと今揺れたね。……ま、いいか。

『たたいま~、』

「お帰り、どうだった?」

答えないルナ。

『湿気、や!』

やれやれ……。

仕方ないなぁ。湯から出て風魔法で体と髪を乾かす。

テーブルに置いてある水と茶葉を鑑定し毒ではないことを確認。水を沸かして茶を淹れた。

『そんな、魔法バンバン使って大丈夫?』

ルナにこの部屋の空間を城から少し切り離していることを教えた。

「防音、防聴、防視魔法をかけて、中の様子が探られないように結界張ったから大丈夫。見張ってるヤツには、水風呂で平然と過ごし、水だしの薄い茶を飲んでるようにしか見えてないだろうね、」

ルナの顎を撫でる。

ルナから、この国が戦争に負けたことを知った。

「へぇ、」

先の戦いで隣国、つまり母親の祖国とは和平交渉が行われていた。母の母国は敗戦国じゃなかったのか。そう言えば、先の戦争のことにシスティーナが、何回かキレてたな。原因?怖くて聞けなかったのは察してほしい。

長引く戦況に疲弊する両国。領土を広げることに躍起になっていたこの国は、戦争を仕掛けない代わりに癒しの力を持つ王女を寄越せと隣国に迫った。つまり、隣国には攻め込まないが、他国に攻め込むには駒を癒すための力が必要だと言うことだった。

隣国は、不可侵と良質な鉱物の輸出を条件として、癒しの力を持つ第6王女を嫁がせた。まだ年若く成人していないため正式な側妃となるのは、成人してからとの条約を結んだはずだった。

まぁ、蓋を開けてみれば、自国の平和のために犠牲となった母親は、14で無理矢理華を散らし、今自分が作り出したような部屋での監禁を余儀なくされ一生を終えたわけだけど。乳母のシスティーナは母を盾に取られ身動きが出来なくなった当時の自分を責めていた。当時の自分に鑑定魔法のスキルがあれば毒を見抜けたのにとも言って、抜けがないようにとシスティーナによる魔法訓練は地獄でした。

まぁ、彼女もこっちに来てから独学で魔法スキルを磨き抜いたみたいだからなぁ。

祖国には、母親は、息災であることが伝えられてはいたが、さすがに死んだことは隠し通せなかった。

産後の日立ちによる体力低下、その上での毒による殺害なんてことがバレたら、当時母の祖国とは反対にある隣国と戦争をしていたこの国は挟み撃ちにされかねない。生まれた自分のことも伏せられていた。

「えっ?ヴォルフとシスティーナ、生きてたの?」

『そ、あの2人、戦争をブッチして母君の祖国にコッソリ亡命して、ぜーんぶ、ばらしたんだって。』

ただでは、死なない人達だと思ったけど。

『で、激おこの、あんたのお父ちゃんに、こっちの国の王子2人の率いる軍を根絶やして、向こうの国と共謀して、2番目と5番目の王子を半殺しにしたんだって。』

母の祖国とは不可侵条約結んでなかったっけ?

『第3王子が、祖国の辺境伯の令嬢に恋慕して、断られて、生意気だ!って怒って、お兄さん達が邪魔だった第4王子が2つの軍がいれば、辺境なんて、どうってことないんじゃね?って感じで戦争を吹っ掛けたんだって。バカだよねー!』

またたび酒は、今度と言うことで、またたびの実をルナに与えた。短時間で凄いなと褒めると照れてたのが可愛かった。

『ジオン、顔、久しぶりに見た~!』

だからって、顔に飛び付くなよ。風呂のお陰で灰色だった髪は母親譲りの銀髪に。前髪で隠れていた左右色の違う瞳も露にした。右は母の青、左は納得し難い父親譲りの紫。

「派手だなぁ、色彩。」

森で過ごすには目立つ色は普段から、更に奥にある野山を駆け回ることで薄汚れていた。

「おっ。」

いつまでも真っ裸とはいかないので服を着る。着ていたボロとは格段に肌触りがいい。

『カッコいい~。』

「ありがと、そろそろ時間だし、影に入っておいで、」

しゅるるとルナが消えると同時にドアがノックされた。

「用意は出来ました……か……。」

了承の返事前に扉開けるのはマナー違反じゃね?

今年、16歳、成人となる自分は成長期にあたる。用意されていた服は少々きつめだけど、しゃがんで破けはしまい。

「行くのは、さっきの謁見の間かな?」

答えない使用人の女に代わり騎士に尋ねる。 

「…は、はい!こ、こちらへ。」

絨毯の敷かれた廊下を戻る。

視界の端に映ったものにギョッとした。

城の広い中庭に翼を折り畳んだドラゴンがいた。もしかして、さっきの地震、これが着陸した衝撃?

「この国にドラゴン使いいたのかい?」

何気に尋ねると騎士はばつの悪そうな顔をした。

「いえ、あれは……隣国、魔法国家ネヘレニア第3王子殿下の騎獣だそうです。」

「へぇ、教えてくれてありがとね。」

以後は会話もなく進み、扉が開くと皆の視線が突き刺さった。

父親を含めた他称家族は一様にキョトン顔だ。

一番に我に返ったのは、一番上の他称兄。皇太子っての。

「誰だ!貴様は、断りもなく!」

「誰って、第6王子のジオンですけど?」

さっきとは見た目は違うけど、あ、オーラの元に戻してたわ。ざわつく広間。

壇上の王妃の顔色ヤバし。

にしても、気になるのは広間の王座近くで立っている男。スゲー男前。誰?

「なるほど、妹に良く似ている。」

良く通る声。背も高いなぁ。

「お初にお目にかかります。エルドフィア国、第6王子、ジオン・エルドフィア?です。」

名前、合ってるよな?

「我が名は、グレン、グレン・ネヘレニアだ。会いたかったぞ、甥っ子殿。」

「はぁ、それはどうも……、ところで、私が婿入りするのは、ネヘレニア国ですか?」

「婿入り?」

グレン殿下の眉間にシワが寄った。

「エルドフィア国王よ、婿入りとはどういうことだ?」

父親を始めとした幹部達がオロオロしている所に声がかかった。

「ジオン殿下は私と結婚するのです!」

嘘でえ。視線の先にいたのは、でっぷりとした、年の頃は、おばあ、いやおばちゃん世代の婦人。頬染めてらっしゃるけど、グレン殿下の発するオーラに気付いてないの?

「ここに、婚姻届があります!ジオン殿下は私のものよ!」

響く声。えー?サインとかしてませんけど。

ボッと音を立てて、婦人の掲げる婚姻届とやらが燃えて灰となった。

「王よ、これでよいな?」

おおっ、この圧迫感。王女や使用人達は失神している。

「先の戦争で、エルドフィア国が敗北一歩手前と言う時点で、此方から和平交渉を提案したのは、他ならぬ民のためだ。何を勘違いしたのか、我が国の王女を欲するなど国を滅ぼされても仕方ないところだ。我らはエルドフィアの条件など無視できたのだ、妹がそちらの交渉材料に名乗りを上げたのは、エルドフィア国の民がこれ以上、我が国に蹂躙されぬためだ。妹の慈悲を取り違えた愚か者め、我がネヘレニアは、他国に対して不可侵を掲げてきた。それは圧倒的な力を有しているからだ!人は人の国で争っていればよいだろう!」

殿下、こえぇ……。

皆、ガクブルだけど。

「敗戦国には、国と王家の存続をゆるす、自治も今通りとする。しかし、この国に広がるエルドフィアに都合のいい歴史は修正してもらうぞ。もちろん、被害者であり、妹の血を引くジオンは返してもらう。」

青い顔をした面々を残し、母親の祖国に旅立った。

まさか、ドラゴンの背中に乗るとは思わなかったけどね。


さて、新しい生活の始まりだ!


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