発熱③
夜の9時。
ようやく、山崎さんの容体は落ち着いてきた。
苦しそうだった息は、ようやく押しついた呼吸になっていた。
熱を測ると38.6度。
まだ高いが、下がってきてはいる。
そんな時。
山崎さんは、目をさましたようだった。
「高木さん?」
「はい、山崎さん。体調はどうですか?」
「大丈夫です。」
大丈夫なわけはない。
「ごめんなさい、高木さんに迷惑をかけてしまって・・・」
「いえ、普段私が迷惑をおかけしているので大丈夫ですよ。」
「そんなことないですよ・・・それより、そろそろ帰らないとハナちゃんが心配しますよ・・・」
自分のことより、私のことを心配する。
きっとそうだろうと思っていた。
「そうですね・・・じゃあ、一度帰りましょうか。でもまた来ますね。」
「無理しないでください。私は大丈夫ですから・・・」
「わかりました」
その後、アプリでタクシーを呼んで、自宅に向かった。
便利な世の中である。
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自宅に戻ると、玄関でハナちゃんが待っていた。
留守番電話を入れていたが、心配だったのだろうか。
「ごめんね、またすぐに山崎さんの家に行かなきゃいけないの。」
「ニャア!」
するとハナちゃんはリビングに走っていく。
リビングに行くと、キャリーの中に自分から入っている。
ほんと、頭の良いいい子になった。
「ハナちゃんも行く?」
「ニャ!」
当たり前でしょ。という感じで見上げてくる。
私の着替えをカバンに押し込んで、ハナちゃんの入ったキャリーをもって。
家の前に待たせていた、タクシーに乗り込む。
「すみません。さっきの家に戻ってください。」
「わかりました。」
山崎さんは、私がすぐに戻って来るとは思っていなかったかもしれないけれど。
病気の人をほっといておけはしないのだ。




