発熱②
(高木さん視点)
その日、山崎さんは会社を休んだ。
朝、熱が出たので休むとの連絡が来たとのことだった。
大丈夫かな。一人暮らしだし。
夕方、定時で会社をあがり、様子を見に行くことにした。
山崎さんの家の最寄の駅で降りて、駅にあるスーパーでパックのおかゆやスポーツドリンクを買い込む。
エコバッグにそれらを入れて、歩いて山崎さんの家に向かった。
さっき、電車の中でメールしたけれど返事はなかった。
寝ているのかな?
まぁ寝ていたら起こすのも悪いし・・・
一戸建ての門扉の前まで来た。
チャイムを鳴らそうかな・・どうしよう・・・
そう考えていた時に、家の中から猫の鳴き声がした。
「にゃあ~!にゃあ~!」
「にゃあ~!にゃあ~!」
雫ちゃんの声。でも、普通じゃない。
門扉を開けて玄関に向かった。
「にゃあ~!にゃあ~!」
「にゃあ~!にゃあ~!」
「山崎さん!聞こえますか?」
扉をたたいてみる。
返事はない。
試しに扉を引っ張ってみた。
開いた・・・鍵はかかっていなかった。
扉を開けたその先には、山崎さんが廊下で倒れていた。
その横には雫ちゃんが鳴いている。
「山崎さん!聞こえますか?」
息はあるようである。でも、肩に触れると熱い。
体をゆすって、もう一度声をかける。
「山崎さん!山崎さん!しっかりしてください」
すると、ようやく目をうっすらとあけた。
「し・・雫・・?」
山崎さんの目には心配そうに見つめる雫ちゃんが見えたのだろう。
「大丈夫ですか、山崎さん。」
すると、こちらに首を向けてもうろうとするまなざしで見てきた。
「あ・・・高木さん・・・」
「すごい熱ですよ、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい・・・ついこんなところで寝てしまったらしい・・・」
「ちょっと待っていてください。」
寝室は2階らしいけど、とても持ち上げる自信はなかった。
1階の和室の押し入れを開けてみると、客用と思われる布団が入っていた。
勝手に、和室にしいて、廊下に戻る。
「さぁ。こっちに来てください。」
山崎さんを腕を取って、なんとか和室の布団に寝かしつけた。
冷蔵庫を勝手にあさり、冷凍庫に保冷枕を発見。
それと保冷剤をいくつか持って、洗面所からタオルをいくつか借りる。
保冷枕をタオルでくるんで頭の下に。
保冷剤をハンカチでくるんでわきの下に。
タオルを濡らして、保冷剤をくるんで額の上に乗せる。
「すみません・・・ご迷惑をかけて」
「いいですよ、体温計ありますか?」
「リビングのテーブルの上に・・」
体温計を持ってきて熱を測る。
39.2度。
救急車を呼ぶか迷う。
もう少し様子を見ることにする。
やがて、山崎さんは寝息を立て始める。
その枕元では心配そうな雫ちゃん。
「雫ちゃん、大丈夫だからね」




