不機嫌
雫が和室の隅で座って、こちらを見ている。
「うわあ、ほんとにぬいぐるみみたいでかわいいですね。」
しっぽを、ぱたっ・・ぱたっ・・と降っている。
「雫は人見知りだから、そばには寄ってこないと思うよ。」
あらかじめ伝えておいたことを再度言っておく。
雫は、じっとこちらを見ている。
眉間にしわが寄っている。
見ている・・というより、にらんでいる。
しっぽをぱたっぱたっと降るしぐさ。
どうみても、《《もの凄く不機嫌》》である。
近づくと危険である。
雫は、もともと人見知りではあるがここまで不機嫌になるのは珍しい。
今日、同僚である高木さんが家にやってきたのは、猫を飼っている環境を実際に見せてほしいと頼んできたからである。
本当はもう一人の同僚も一緒に見に来るはずであったのだが急遽トラブルで残業しなくてはならなくなり、高木さんだけ来訪している。
リビングのケージを見てもらったり。胸肉をゆでたのをご飯としてケージに置いたり。(まったく食べてくれなかった)
水を複数の場所に置いてあるのも見せたり。
それぞれ見せるたびに感心していた。
ひととおり、見終わったあと、和室で日本茶を飲んでいるところである。
「ぜんぜん獣臭かったり臭いがしないんですね。」
「トイレをちゃんときれいにしていれば臭いは全くしないよ。雄と雌では違うかもしれないけど。」
「猫ベッドがあちこちにあるんですね、、、」
「これは毎年買い足していくうちに少しずつ増えた結果。ほんとはこんなに要らないかもしれないよ。」
勝手に捨てると不機嫌になるから減らないのである。
「ペットがいるともっと臭いがしたり、散らかったりするかと思っていたんですが・・・全くそんなことはないんですね。安心しました。」
「そうだね、うちの雫はきれい好きだしいたずらもしないからその点は安心だね。」
「困ることってないんですか?」
「どの猫もそうなんだけど、時々胃にたまった毛玉とかを吐き戻すから、それは覚悟が必要だね。」
「へえ・・・そうなんですか。」
「あと、猫を飼うときにもっとも覚悟が必要なことがあるんだけど。」
「なんですか?」
「猫は長生きするときには20歳以上になるから、その間はずっと面倒を見なければならないってこと。その間は、ずっと家族として一緒に暮らす覚悟が必要だね。」
「・・・そうですね。」
「それさえ覚悟ができれば、素敵な家族になってくれると思うよ。」
その間、雫はじ~~~~~っと監視を続けるのであった。
「今日はありがとうございました。」
「車で送っていくよ。」
「それでは、お願いします。」
「じゃあ、雫。ちょっと出かけてくるよ。」
玄関を出るときに声をかけて、扉を閉めた。
庭を通って車のあるガレージに行く途中に高木さんが感心したように話してきた。
「素敵なおうちですね。庭も広くてきれいで。」
「賃貸なんだけどね。」
「でも素敵です。ため息が出るほど。」
縁側の窓から、雫がこちらを見ている。
まだ監視しているんだろうか。
高木さんの案内で、彼女の自宅近くというところまで送っていき、自宅に戻ってきた。
雫はまだ縁側で見張っていた。
家に入って声をかける。
「雫、ただいま。」
出てこない。
どうやら拗ねているらしい。
そんなにこの家にお客が来るのが嫌だったのだろうか。




