お盆
「山崎さんは、夏休みは何か予定はありますか?」
夕食を食べながら、来週の休みの話をする。
「実家に行くのと、お墓参りに行こうと思ってます。まぁどちらも日帰りですが。」
実家といっても、車ですぐのところ。墓参りも日帰りで行けるところである。
「高木さんは予定はあるのですか?帰省とか。」
「そうですね・・・母からは顔を出すように言われているのですが・・」
「せっかくだから帰るのはどうですか?」
帰りたくない理由があるのだろうか。
「まぁ1日くらいは帰ろうかと思います。」
「ハナちゃんなら預かりますから大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。でもまぁ1泊くらいで戻る予定にします。」
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実家に戻ると、両親と近所に住んでいる妹夫婦に歓迎された。
両親は・・年老いているがまだ元気そうではある。
パソコンの調子が悪いとかで、見てほしいといわれた。
「それで、相変わらずあの家で一人で暮らしているのかい。」
「まぁ・・ね。雫もいるから寂しくはないけれど。」
高木さんのことは、話さないでいる。
どんな関係と話しにくいからだ。
「だが、一人であんな広い家で大変だろう。こちらに帰ってきてもいいんだぞ。」
「通勤が大変になるからなぁ・・・」
「まぁそうかもしれないけれど。」
両親もかなりな年だから、心配ではあるが。
実家は駅から自転車で20分ほど。通勤時間が長くなりそうだ。
それはちょっと困る。
「まぁ、考えておいてくれ。」
「そうだね、もうちょっとしたら定年だし。」
「あぁ。もうそんな年か?」
「もう定年まで10年もないよ。」
年を取ったものだ。
まぁ妹が近くに住んでいるから、両親はそれほど心配ではないのだが。
昼ご飯を一緒に食べ、夕方になるころに家に戻る。
雫とハナちゃんは縁側でくつろいでいた。
エアコンをつけてきたとはいえ、暑くないだろうか。
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(高木さん視点)
母の家では、義父も母も歓迎してくれた。
また、義父の連れ後である子供もいろいろ話しかけてきてくれる。
「お母さん、そのあと体調は大丈夫なの?」
「もう全然大丈夫よ、心配しないでね。」
「手術をしたんだから。無理しないでね。」
「で、こちらには何時までいるの?」
「明日には帰るわよ。」
「ゆっくりしていけばいいのに・・」
「猫も待っているしね。明日には帰るわよ。」
「猫を飼ってるの?どんな猫?」
それから、スマホで撮った写真をみんなに見せる。
ハナちゃんは大人気である。
「あれ?この猫も飼っているの?」
あ・・・
ハナちゃんの写真に雫ちゃんも映っているものがあった。
「これは・・友達の猫ちゃんですよ。ハナちゃんと仲がいいの。」
山崎さんのこと、なんといえばよいのか。
友達・・・?
その夜、母の家に泊めていただいた。
お客さん用の部屋のようである。
ここは、母の家。
でも、私の家ではない。
ここでは私はお客さん。母の家族の家ではあるけれど。
母と私はもう家族ではないのだろう。
では、私の家族はどこにいるんだろう。誰なんだろう。
眠りにつくとき、脳裏に・・
キラキラとした瞳で見つめてくるハナちゃんと。
雫ちゃんを膝に抱いて微笑んでくる山崎さんの顔が浮かんだ。
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ここは、高台になってきて見晴らしがよい。
夏の日差しは熱いが、木々を通ってきた風は少し心地よい。
「雫は元気にしているよ。ちょっと足腰が弱ってきたようだけれど。」
話しかける。
線香の香りが漂っている。
「最近は階段の上り下りがつらくなってきたようでね。夜は和室で寝るようにしたよ。」
「まぁ、私もあと何年生きられるかわからないけどね。」
手を合わせる。
少し、奥さんのことを思い出して目頭が熱くなる。
いつまでも、忘れられるものではないな。
「じゃあ、また来るよ。」
もう一度手を合わせる。
次に来るのは、秋のお彼岸だろう。
君の好きなお菓子でも供えられたらいいのだけど。
最近はカラスや動物が荒らすということで禁止らしい。
仕方がないので、家の写真の前にお供えするので許してほしい。
家に帰る途中で、お菓子屋さんによって帰ろう・・・




