電車の君
番外編です。
テイストが少し違います。
毎朝の通学に使う電車で、僕は彼女と出会う。
女子高の制服に身を包んだ彼女は、
他者と一線を画す美しさを放っており、
楚々として牡丹のように座りながら、
いつも読書をしている。
電車に乗り込んだ僕は、
彼女を見つけると素知らぬ顔で彼女の前に立ち、
車窓から外を眺めるふりをしながら、
彼女をチラチラと見るのが朝の楽しみであった。
時折、
亜麻色の艶やかなロングヘアーがさらさらと顔に流れ、
その度に白魚のような細く美しい指で、
ゆっくりと髪を耳へかける仕草が僕のお気に入りだった。
彼女に声をかける勇気も無く、
視線すら交わった事が無いが、
僕はただ見ているだけで、その日の活力が湧いてきた。
だが今日は彼女の様子が少し違っていた。
読みかけの本を開いたまま、
ウトウトと居眠りをしており、
卵形の顔をコックリコックリと可愛らしく揺らしていた。
寝ているので普段とは違い、
彼女の愛らしい姿を、ほっこりとしながら存分に眺めていたが、
いつも彼女が降りる駅に電車が着いても、
彼女は一向に起きる気配が無かった。
数瞬、
迷ったが、僕は勇気を出して彼女の肩を優しく叩いた。
「降りる駅だよ」
僕はドキドキしながら彼女に触れ、声をかけた。
彼女はハッとして起き上がる。
まだ半分寝ているのであろう、
読みかけの本を落とし、
条件反射のみで、勢い良く電車を降りていった。
彼女が降りた直後、電車のドアが閉まる。
駅に降りた彼女は、僕を見ていた。
彼女のパッチリとした大きな瞳と目が合うと、
彼女は深く会釈をした。
僕は手を振り、彼女に応えた。
電車が動き出し、駅のホームを緩やかに過ぎ行く。
車窓から彼女が見えなくなるまで、
彼女はずっとお辞儀をしたままだった。
律儀な彼女の一面を知る事ができ、
かつ勇気を出して交流を持てた達成感で、
僕の気分は高揚していた。
彼女の落としていった本を拾い上げ、彼女が座っていた席に座る。
彼女がどんな本を読んでいたのか気になり、本を開いた。
花のような甘い香りが残る座席で、
僕は高鳴る胸を抑えながら、本をめくった。