京の納涼床
「この店?雰囲気あるね」
そう言って彼女は微笑んだ。
僕たちは京都に旅行へ来たので京都らしいことをしたいと思い、納涼床で夕食を食べることにした。
泊まるホテルとは別に、趣のある旅館でディナーを予約していたのだ。
「ここが京都の納涼床かぁ、雰囲気良いね」
通された席はテラス席が川辺にあり、日が落ちた夕暮れにひんやりとした風がゆるく吹いていた。
そばを流れる川には夏らしい意匠を凝らした装飾が涼しげにライトアップされムードがあった。
そんな背景に浴衣姿の彼女を見た。
淡いピンクの花柄を選んだ彼女は普段下ろしている長い髪を結い上げ、うなじがあらわになっていた。
普段とは違う彼女の姿に僕は見とれていた。
「どうしたの?もしかして、見惚れていた?」
彼女は悪戯っぽく笑う。
「あ、いや、雰囲気あるなと思って」
僕は図星を突かれ、慌てて答えた。
「ふーん、まぁいいわ」
彼女は少し拗ねたような顔をしたがタイミング良く料理が運ばれてきた。
彼女は拗ねた表情から一転して運ばれた料理を見て目を輝かせた。
「盛り付けが綺麗!すごく美味しそう!」
彼女の機嫌がなおり、一安心した僕は朗らかに笑った。
「じゃあ乾杯、頂こう」
1品ずつ運ばれてくる京料理は見た目華やかに味も繊細で美味であった。
時折ふく風が心地よく、会話も弾みながら楽しい時間を過ごした。
帰り際、楽しげに隣を歩く彼女に僕は言いたかった言葉を口にした。
「浴衣、似合ってるよ」
僕は所在なさげに頭をかきながら言った。
彼女は一瞬キョトンとしていたが、笑顔で答えてくれた。
「もう、やっと言ってくれた」
僕はもう一度、頭をかいたのだった。