キノコの日
「キノコの日だぁ!」
教室の扉をバンッと開け、彼女はそう叫びながら入ってきた。
「語呂感まったく無いけどね」
僕は机に座ったまま、冷静にツッコンだ。
「放課後は裏山でキノコ狩りだぁ!」
何が彼女を駆り立てるのか、狩人と化した彼女はヤル気に満ち溢れている。
「暗くなるの早いから、今日の放課後は止めておこう?危ないよ」
尋常ではない彼女に、僕はちょっとヒキ気味だ。
「ぐぬぬ、学食でキノコメニューってあったかなぁ」
彼女は一通り唸った後、腕を組み思案するように顎に手を当てた。
「豚汁にちょろっと入ってるくらいじゃない?
どうしてもキノコが食べたいの?」
いくらキノコの日と言えど、そこまで食べたくなる気が僕にはしなかった。
「食べたい!人生の限られた食事の回数で、
やっぱその日その日の意味ある物を食さないとねっ!」
彼女は目を輝かせガッツポーズしながら僕に力説してくる。
「まだ若いのに食事に関してだけは深く考えてるんだなぁ」
そう言われると何だか少し食べないともったいない気がしてきた。
「失敬なっ!君の事も食事と同じくらい深く考えてるよぉ!」
彼女は僕に近付き上目づかいで腕をブルンブルン振りながらアピールしてきた。
「喜んでいいのか悪いのか・・・とりあえず、ありがとう?
お礼に僕のキノコをご馳走しようか?」
そう言って僕は冗談っぽく笑い立ち上がってズボンのベルトをカチカチさせた。
「シメジは気分じゃないなぁ・・・」
彼女はどこか憐れむような目線で僕を見てきた。
「失礼なっ!マツタケだよっ!」
憤慨した僕は彼女に抗議をする。
「大きく出たねぇ・・・証明してみせてよぉ、ここでぇ」
彼女はニヤニヤとイヤらしく笑いながら僕を見つめてくる。
「煽ってくるねぇ・・・」
彼女の反撃に僕は怯んでしまった。
「オルゥアァァンッ!ご自慢のマツタケをここで披露してみせてよぉっ!」
怯んだ僕を嬉しそうに見た後、彼女はドヤ顔で追撃してきた。
「殴りたい、この笑顔」
いい笑顔で楽しそうに煽ってくる彼女に僕は反撃の糸口を掴めずにいた。
「ほれほれぇ!どうしたぁっ!ビビってるのかぁ!」
本当に嬉しそうなドヤ顔の彼女は全力で今を楽しんでいた。
「くっ、教室でパンツを脱ぐ勇気が僕には無いっ!」
結局僕はどうする事も出来ずに項垂れて白旗を上げた。
「完全勝利!放課後コンビニでキノコの里買ってねぇ!」
彼女は僕を負かした事がよっぽど嬉しいのか、跳び跳ねて喜びをあらわにした。
「精々卑猥に食べてくれ」
僕は悔しげに拳を握る事しか出来なかった。