衣替え
「冬服も可愛いね」
僕は目新しい冬服姿の彼女に声をかけた。
「少し暑いわ」
イスに座る彼女は心なしか少しグッタリとしていた。
「台風一過の見事な秋晴れだものね」
久しぶりに晴れた今日は太陽の光りが燦々と降り注ぎ、
日差しのもとでは汗ばむ陽気な天気だった。
「朝はちょうどいいと思ったのだけれど、やっぱり昼間はまだ暑いわね」
彼女は頬杖をつき、手を団扇代りにパタパタと扇いだ。
「脱いだら?」
僕は何かを期待するような視線を彼女に送る。
「脱がないわ」
彼女はにべもなく断ってきた。
「なんで?」
僕は純粋無垢な子どものように、清んだ目で彼女を見つめる。
「鼻の下、伸びてるもの」
彼女は呆れた表情をしながら、僕の顔を指さしてきた。
「元から!元からだから!」
僕は抗議するように机をバンバン叩いた。
「そういえばずっといやらしい顔してたわね」
彼女は意地悪げに笑って肩をすくめた。
「失敬な!君といる時だけだよ!」
僕は断固とした抗議を表すため、拳を握り振り上げる。
「たまには凛々しい顔も見てみたいものだわ」
彼女は意味ありげに流し目で振ってきた。
「これでどう?」
僕は今旬の映画俳優を意識して表情を作った。
「貴方は役者には向いて無いわ」
彼女は期待外れだとばかりに、やれやれと首を振った。
「でしょうね!」
憤慨した僕は、変顔して彼女を笑わそうとした。
「野球拳をしよう」
変顔を続ける僕は、ピクリとも笑わない彼女にそう提案した。
「野球拳?ジャンケンして負けたら脱いでいくやつ?」
彼女はいぶかしんだ表情をした。
「そうそう」
彼女からは、こいつまた変な事言い出したな、
と言う感じがありありと伝わってくる。
「夏服の貴方と冬服の私とでは条件が違うわよ」
彼女は端からやる気が無いように足を組み直した。
「ハンデは必要だろ?」
僕はニヤリと笑い彼女を挑発する。
「そこまで言うならいいわ、やりましょう」
珍しく彼女は僕の挑発に乗り立ち上がった。
「手加減はしないよ?」
僕は指を鳴らしながら挑発を繰り返す。
「確率の問題よ」
彼女はその艶やかな美しい髪をかきあげ、僕を迎え撃つ。
「脱ぎたてのパンストを頂くよ」
僕は舌舐めずりして下品に笑う。
「出来るものならね」
彼女は涼しい顔をして、僕の正面に立った。
「それじゃあ、始めるよ?・・・よよいのよい!じゃんけんぽん!」
結果、僕の勝ちだった。
「ぐへへ、幸先がいいぜ」
僕はヨダレを拭う仕草をする。
「たまたまよ、たまたま」
そう言いながら、彼女は悔しそうに上着を脱いだ。
それからしばらく野球拳を続けたが、僕の連戦連勝だった。
「貴方、ズルしてないでしょうね?」
一回一回脱ぐ毎に、彼女は徐々に顔を赤くしていった。
脱ぐ仕草は非常に色気があり、
恥ずかしげにゆっくりと脱いでいく彼女の姿に、
僕は言い様のない興奮を覚えた。
「してないよぉー、強いて言うなら日頃の行いが良いからかな?」
実を言うと、僕はこの勝負に負ける気がしなかった。
何故ならこんな時のために昔鍛えた動体視力のお陰で、
彼女が何を出すかを確認してから僕はグーチョキパーを判断していた。
要は後出しみたいなものである。
「・・・目をつむりなさい」
ブラウスとスカート姿の彼女はジト目で僕に言ってきた。
あ、これはバレたな。
僕は言われた通り目をつむって野球拳を続けた。
当然の如く、見えなければ分かるはずもなく、
僕はあっという間にパンツ一丁にされた。
「この辺で勘弁しといてあげるわ」
勝ち誇る彼女は、制服を脱いだおかげか、
スッキリと晴れ晴れとした表情をしていた。




