イビキ
「はっ!」
僕は自分のイビキ声に驚き、目を覚ました。
「え?え?・・・もしかして、僕、イビキかいてた?」
誰に言うわけでもなく、僕は独りごちる。
「あら?今頃気づいたの?」
彼女はクスクス笑いながら僕に話しかける。
「・・・マジ?僕ってイビキかくの?」
彼女は可笑しそうにしながらも、笑ったら悪いと思っているのか、その小さな口を透明感のある手で覆って笑いを抑えようとしている。
「たまにかいてるわよ。最初は叩き起こしてやろうと思ってたけど、もう慣れたわ」
張りのある唇を綺麗な手で隠す彼女だが、釣り上がったモチモチとした頬と、垂れ下がった大きな目が笑っていることを隠しきれていない。
「・・・ショックなんだけど」
彼女はプフッっとその可憐な唇から息を吹き出した。
「なにショック受けてるの、生理現象じゃない?」
「いや、今まで自分がイビキをかいてるなんて考えた事も無かったからさ・・・この衝撃は受け止めきれないよ。ましてや自分のイビキに驚いて起きるって相当じゃない?」
僕は自分の身に起こった出来事を受け止めきれずに狼狽えていた。
そんな僕の姿がよっぽど滑稽だったのだろう。
彼女はとうとう笑っていることを誤魔化さなくなった。
「あっはっはっ!確かに相当ね!・・・私もイビキをかいてるのかしら?」
機嫌良く笑っていた彼女は、突然深刻そうに聞いてきた。
「僕の知る限り無いよ」
僕がそう言うと彼女はあからさまに安心していた。
「そう、良かった。でも、私がイビキをかき始めてもお互い様だからね?」
彼女は白く細い指で僕の肩を突きながらウィンクしてきた。
「お揃いになるから、かいてもいいよ?」
僕もお返しにお茶目にウィンクしてみた。
「そのお揃いは、出来ればやめておきたいわ」
彼女は苦笑しながら、もう一度僕の肩を突いた。