帽子の君
コーヒーチェーン店で一休みする。
案内させた席は対面二人用だった。
座る席の奥にハンドバックを置き、対面の席に帽子を置いた。
帽子は座ると見えない位置になるので帰りに忘れないようにしよう。
アイスコーヒーを注文し、携帯をチェックをする。
もちろん何の連絡もない。
運ばれてきたコーヒーに砂糖を多めに入れる。
少し歩き疲れた。
疲労には糖分が必要だ。
ミルクはいれない。太る気がするからだ。
甘い飲み物を飲み、人心地つく。
体が席に沈み、全身から力が抜ける。
少し眠くなってきた。
僕は首を垂れ目を閉じ、意識を手離した。
不意に意識が覚醒する。
腕時計で時間を確認する。
・・・十分弱か。
少しの間寝ていたようだ。
無意識にハンドバックに手が伸びる。
きちんとあるようでなによりだ。
顔をあげると対面の席に人が座っていた。
席に置いていた僕の帽子を頭に被り、微笑みながらこちらを見ていた。
亜麻色の髪が美しい少女だった。
「おはよう」
楽しげな少女の声を聞いて、寝ぼけていた僕はようやく彼女が誰だか分かった。
「おはよう、かな?起こしてくれればよかったのに」
「いいえ、これで良かったの」
彼女は何が楽しいのか笑いながら首を降る。
「何か頼んだ?」
「まだよ、起きてから一緒に頼もうと思って」
彼女は僕の帽子を被り直す仕草をしながら言った。
「そっか・・・じゃあパンケーキでも食べる?」
「そうね、でもここのパンケーキ大きいじゃない?食べきれないわ」
そういって彼女ははにかんだ。
「確かにでかいね・・・はんぶんこしようか」
「それがいいわ。苺が乗ってるのにしましょう」
彼女は僕の帽子をその亜麻色の髪が一番映える位置を確認したようで満足げに頷いた。
「いいよ、じゃあ注文しよう」
アイスコーヒーの氷が涼やかな声をあげる。
はいはい、飲み物もちゃんと頼みますよ。