一区切りの雨
「雨の、良い匂いがする」
パラパラと降り始めた雨に、彼女はそう呟いた。
「久しぶりに降ったね」
シトシトと降る雨は緩やかに大地へ染み込んでゆき、
ゆったりとした時の流れを感じさせられた。
このところ慌ただしい日々が続いていたが、一区切りをつけるような天気に、
僕の胸の中で、どこか安堵感が広がっていた。
「カフェの窓際席に行きたいなぁ」
「分かる、のんびりとコーヒーでも飲みながらボーッとしていたいよね」
彼女も僕と同じ気持ちなようで独り言のように言葉を吐いた後、ため息を溢した。
「ねぇ、カフェに行こうよぉ」
彼女は思い立ったようにハッと顔を上げ、僕の方を見つめてきた。
彼女の大きな瞳は煌めいており、星でも入っているかのようだ。
「ナイスアイデアだけど、雨降ってたらどこも混んでるんじゃない?」
僕は、暗に混んでる所へ行く事に、否定的なニュアンスを彼女に伝える。
「んぅー、それじゃあ自販機で何か飲み物買って、二人で雨を見てようかぁ」
彼女は何かを考える仕草のようにアゴに人差し指を当て、可愛らしく小首を傾げた。
その仕草一つにしても、可憐な唇を突きだしてる辺り、非常にあざといと思った。
「いいけど、寒くない?」
この雨が雪に変わる心配は無いが、
外に居続けるには少し肌寒く感じるくらいの気温だった。
「ひっついてれば、寒くないよぉ!」
そう言って彼女は、僕の腕に抱きついてきた。
彼女の豊かな胸の感触を直に感じられ、僕は鼻の下が伸びるのを自覚した。
「なに飲む?奢るよ」
この発言は、
決して彼女の胸の感触を得たから出た発言で無い事をここに明記しておく。
「やったぁっ!私ぃ、コーンスープがいいっ!」
彼女は目を輝かせ、嬉しそうにニコニコと笑いながら、
より強く、僕の腕に抱きついてきた。
「コーンのつぶつぶ、最後まで落ちてこないヤツじゃん」
「それをどうにかして食べるのがいいのぉ」
そんな他愛もない会話をしながら自販機で飲み物を買い、
近くのベンチに並んで座り、静かに降る雨を二人して眺め続けた。
僕と彼女の距離はゼロセンチメートルで、少しも寒くはなかった。