本戎
「今年の〈福男〉にはなれなかったよ」
背後からした彼女の気配に、僕は振り向きながら言葉を発した。
「あら残念、貴方足は速かったわよね?」
やって来たのはやはり彼女だった。
これで人違いだったら、かなり恥ずかしい。
彼女は僕の肩を撫でると僕の隣に座った。
喧騒から少し離れた神社の境内に、二人して並んで座る。
「スタート位置が同じなら易々と負ける気はしないけどね・・・
みんなやる気と自信があって速いからね、あれは最初のスタート位置でほぼ決まるよ」
「そうなの?その無理を覆してこそ、男の子じゃないの?」
「無茶を仰る・・・スーパーマンじゃないと不可能だよ」
「貴方は<不可能を可能にする男>じゃないの?」
「エンデュミオンの鷹かよ、宇宙の塵になっちゃうよ・・・
まぁ、来年は仮面でも被って気合入れとこうかな」
「何故仮面なの?」
「様式美、かな?」
「ふーん、よく分からないわ」
「色々あるんだよ・・・遅くなったけど、君の〈福娘〉衣装も似合ってるよ」
「この格好は寒いわ」
「なんでタイツ穿いてるの?」
「寒いから」
「それはそれでアリだけど・・・ちょっとミスマッチかな?」
「じゃあ脱いでくるわ」
「せっかくだし、ここで脱げば?」
「ここで?・・・誰か来ちゃうわよ」
「誰も来やしないさ」
「そうかしら?
んー・・・もし誰か来たら守ってね?」
「君のタイツは死守するよ」
「わ・た・し・を守るのよ」
「守る守るしっかり守っちゃうよ?
ほら、誰か来る前に早く脱ご?」
「期待した顔しちゃって」
「は・や・く!は・や・く!」
「そんなに急かさないで・・・
あら、ちょっと脱ぎづらいわ、手伝ってちょうだい?」
「おっほぉーっ、どう手伝えばよろしいでしょうか?」
「貴方に任せるわ」
「じゃあもう一回、きちんと穿き直してもらえる?」
「なんでよ、面倒くさいわ」
「ダメか・・・」
「なにモタモタしてるの、もう私だけで脱いじゃうわよ?」
「わあぁーっ!待って待って!それでは失礼して」
「手つきがやらしいわ」
「これはしょうがないよ」
「もう焦らさないで、くずぐったいわ」
「えぇーい!上手に脱がしました!」
「さむっ」
「あ、タイツ温かい!もらっていい?」
「返しなさい」
「えぇーっ!ちょうどお腹空いてたのに!」
「タイツは食べ物じゃないわよ?後で屋台物買ってあげるから我慢しなさい」
「アーンしてくれる?」
「ホント、甘えん坊さんねぇ」
このあと滅茶苦茶アーンした。