スルーしてください。
スルーしてください。
これは夢だと、瞬間的に悟った。
『ミツケタ』
威圧感のある、濁った太い声だった。
炎のような黒い影が、揺らめきながら視界全体に広がっている。
『ニエ ト ナレ』
燃え上がる黒い炎の中、血のように赤い眼が、僕を見据えてくる。
『グウゥッ!ナンダ!コレハ!』
『ワレ ガ クワレル!?』
『オマエ ハ ダレ ダ?』
「そんなの、僕が教えて欲しいくらいだよ」
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僕は頭がおかしい。
そんな事は、常日頃から思っていた。
独りになると、不意に頭の中で誰かが呼ぶのだ。
何の変哲も無い時、何かアクションを起こした瞬間に。
過去が追い縋るように。
僕の名を。
叫び声や囁き声で。
それは家族であったり、友だちであったり、知らない人や、過去に一度っきり会った人や、時に自分自身であったり、様々であった。
だからその声が頭の中で響いた時、僕は特段驚いたりはしなかった。
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「これは、ダメだろ」
『なら、お前はどうするんだ?』
「どうにかしろ」
『無茶を言う、この結界に覆われている限り、我は力を使えぬのだぞ?』
「いま使ったじゃん」
『そこに気が付くとは・・・やはり天才か』
「おかしいよね?今力を使ったんだから、普通に気が付くよね?もしかして、僕、馬鹿にされてる?」