大掃除
「終業式やっと終わったけど、明日から冬休みって感じがしないね」
僕は生徒会室の大掃除を手伝いながら、彼女に話しかけた。
「私はもうクリスマスが差し迫っている事の方が実感しないわ」
制服姿の彼女は上着を脱いで腕捲りをしており、熱心に窓ガラスを拭きながら答えた。
「あー、分かる・・・大掃除してたら年末の事ばかり考えちゃうよね」
同じく窓を拭いていた僕は、水で洗った雑巾を絞っていた。
「手伝わせて悪いわね」
彼女の声には少しトゲがあった。
「別にそういう意味で言った訳じゃないんだけどね・・・
・・・それにこの生徒会室には何かとお世話になったし」
生徒会室の大掃除を手伝う事になんら不満の無い僕は、
フランクに肩を竦めながら彼女と並んで窓を拭き始めた。
「いやらしい事してくる時、いつもここだったものねぇ」
彼女はニヤニヤ笑いながら、隣から肩を軽くぶつけてきた。
「誘ってきたのは君だろ?」
窓を拭きながら僕も、彼女の肩をトンッと軽く叩き返した。
「あら?紳士が淑女のせいにしてもいいの?」
彼女は相変わらずからかうように、ニヤニヤと笑いっぱなしだ。
「そんなにスカート折ってたら、言いたくもなるよ」
僕はジト目で彼女のスカートを見つめた。
「いつもこうでしょ?」
彼女は得意気にフフンッと鼻を鳴らした。
「終業式の挨拶で壇上に上がった時、膝下だったじゃん!」
僕は思わず窓を拭いていた手を止めて、彼女のスカートを指差しながら大声をあげた。
「そうだったかしら?
・・・手が届かないわ、イスになってちょうだい」
窓を拭き続けていた彼女は、上部に手を伸ばそうと数回背伸びをしたが届かず、
何ら迷い無く自然に頭のネジが外れているとしか思えない発言をした。
「僕が土台になる必要ある?普通にイスがあるのに?」
僕は混乱して彼女とイスを交互に見た。
「踏んであげるって言ってんのよ、言わせないで恥ずかしい」
本当に恥ずかしいのか、頬を紅くして上目づかいで僕をうらめしそうに見つめてきた。
「はいっ、よろこんでぇっ!」
彼女のパッチリとした大きな瞳が潤んでいるのを見た瞬間、
僕はすぐさま四つん這いになった。
上履きを脱ぎ、ゆっくりと僕の背に彼女が乗る。
「重くない?」
上から彼女のか細い声が聞こえてくる。
タイツ越しに感じられる彼女の体温と柔らかな足裏の感触を、
僕は全神経を背に集中させて感じていた。
顔を上に向ければ、きっとさぞかし絶景を見られるに違いないだろうが、
何となくフェアな気がしなくて僕は頭を上げようとは思わなかった。
「最高だよ!このお返しはクリスマスにするから、楽しみにしといてね!」
その代わり、僕の気持ちを伝えるべく、大袈裟にサムズアップした。
もちろん凄く良い笑顔だが、彼女からは見えないだろう。
「ふふっ・・・期待せずに楽しみにしてるわよ、私のサンタさん」
彼女は呆れながらも楽しげな笑い声をあげ、僕の背中を足でフミフミした。