クリスマス~お誘い~
「もうクリスマス一色だね」
僕は下校途中に商店街へ入ると、隣を歩く彼女に話しかけた。
「本当ね」
僕と肩を並べて歩く彼女は、
クリスマスムードで賑やかに装飾された商店街を見渡しながら答えた。
「二十四の日、何か予定ある?」
僕はなんとなしに自然な風を装いながら、
その実スゴく緊張して彼女に探りを入れた。
「クリスマス・イブの日、とは言わないの?」
隣を歩く彼女は意地悪げな表情を浮かべ、僕の腕をツンツンとつついてきた。
「いや、そうなんだけどね?
クリスマス・イブって言っちゃうと警戒されるかと思って・・・
・・・数多の葛藤の末、僕がゆるぅーく探るようにジャブを打ったのに対して、
ストレートで顔面狙うのは止めてもらえる?
男子高校生的に考えて」
僕の言いたい事など、お見通しであろう彼女に対して、
気恥ずかしくなり、拗ねたように抗議した。
「ようやくクリスマスに誘ってきたかと思えば、随分とウジウジ悩んでたのねぇ」
僕の子どものような反応に、彼女はヤレヤレとそのなだらかな肩を竦めた。
「クリスマス・イブだよ?
年に一度の特別な日なんだよ?
この日をどう過ごすかで、男子高校生としての格が問われるんだよ?」
「もう子どもじゃないんだから、普通の日と変わりないでしょ?」
「違うよ!クリスマス・イブはチキンとケーキ食べてプレゼント交換する日なの!」
「それは二十五日のクリスマスの日でしょ?」
「そうだっけ?正直二十四も五も変わりないから、覚えてないや」
「日本人らしい、曖昧な感性ねぇ」
彼女の溢したタメ息は、外気の冷たさによって白く広がった。
「そ・ん・な・こ・と・よりクリスマス・イブは、どこか行きたい所ある?」
僕は会話の勢いから『ここだ!』と思い、
しれっとオーケーをもらった体で彼女の要望を聞き出そうとする。
「え?なんで一緒に出掛ける前提なの?
私はまだ、予定が空いているとは答えて無いわよ?」
彼女はキョトンとした表情で僕を見つめてきた。
「ちょ、いま焦らされると普通に焦る・・・御予定はお有りで?」
僕は揉み手しながら、下から彼女を覗きこんだ。
「クリスマスは毎年家族とゆっくり過ごすの」
「マジかぁ・・・」
僕は身体中から力が抜けて、思わず天を仰いだ。
「ふふっ、そんなにヘコまないの・・・
・・・クリスマスは家族と過ごすのだけれど、
クリスマス・イブはまだ予定空いてるのよねー、誰か誘ってくれないのかしらー?」
「落としてから上げる、これが悪女のテクニックか・・・」
「あら、そういえばイブの日は友だちに
クリスマス・パーティーしようと誘われてるんだったわ
・・・予定があると断っていたのだけれど、
誰かさんが誘ってくれないから、そちらに行こうかしら?」
彼女はトンッと軽やかにバックステップして僕から距離を取った。
そして後ろ手を組み上半身を軽く倒し、上目づかいで意地悪な事を言ってきた。
女の子って分からない。
「クリスマス・イブの日、僕とデートして下さい」
僕は右手を差し出し、ストレートな言葉で勝負に出る。
差し出した手が、緊張で震えているのを自覚した。
そんな僕の手を彼女は両手で優しく包み込んできた。
「はい、喜んで」
蕾が花開く瞬間の如く、彼女は嬉しそうに美しく微笑んだ。