書きたかったのは、ミカンを甘々に食べさせてくれる話
「ミカン剥いて」
「急になに?」
「綺麗にミカン剥いて」
「普通にイヤなのだけれど」
「ピンセットでミカン剥いて」
「すぐネットのニュースに影響される・・・貴方の悪い所よ?」
「流行に敏感と言って欲しいね」
「エンタメ系ばかりで社会系は全く見ないくせに」
「その事に関しましては見解相違と認識しておりまして、
事実関係を確認し、会談を重ねまして意見の擦り合わせを図りたいと考えております」
「適当な事言ってるんじゃないわよ・・・今開かれている国会の議題は?」
「・・・全国民、〈タイツ着用の義務付け〉かな?」
「その事が国会で審議されるようになったら日本は終わりよ?」
「そうだね、審議する必要もないね・・・
与党も野党もみんな仲良く肩を組んで、満場一致で可決されるに決まってるもんね」
「そんな国会中継、見てみたいわねぇ」
「あっ、法律違反してる!」
「貴方の頭の中だけの法律は現実世界では適用されないわよ?
それに貴方の理論に照らし合わせても、私はタイツを着用しているから問題は無くて、
タイツを着用していない貴方が法律違反になるのよ?」
「タイツ法第九条、
君のような美少女は三十デニール以下の黒タイツを穿かなければならない」
「寒いわよ」
「なお、<国家タイツ師>の許可を得た者はこのかぎりでない」
「なによ、国家タイツ師って」
「えぇーっ!ご存知無いぃっ!?錬金術師並みに有名なのにぃっ!?」
「貴方の中だけでね」
「実は僕も<国家タイツ師>の一人なんだ・・・人呼んで、〈鋼のタイツ師〉!」
「怒られるわよ?」
「あれは僕がまだ子どもだった頃、
無邪気にタイツと戯れていると、無慈悲な大人にタイツを奪われてしまった。
無知な子どもだった僕はタイツを求める余り、
タイツ師の中で禁忌とされている〈タイツ錬成〉を試み失敗に終わった。
ミシンを左足の上に落とし壊してしまったのだ・・・
その時、呟いた言葉が『持っていかれた・・・!』だった。
数年後、
立派に育った僕は最年少<国家タイツ師>に任命されるため総理官邸に赴いていた。
任命時、総理から胸にかけた懐中時計の事を聞かれた。
懐中時計には昔壊したミシンのパーツを中に入れていたのだ、
あの日の後悔を忘れないために。
その事を総理に話すといたく感激し、
僕の二つ名は〈鋼のタイツ師〉になったのだった」
「マルパクリじゃない、頭が痛くなってきたわ・・・
・・・もうミカンを剥いてあげるから静かにしてちょうだい」
「んん?ナニを剥いてくれるって?」
「豆粒ドチビの最年少<国家タイツ師>様は、
さぞかしアチラも小さいのでしょうねぇ」
「確認してみる?」
「ど・う・で・も・いいから、その手に持ったミカンを早く寄越しなさい」
「はぁーい」
昨日と今日に書きたかった話は、彼女たちにミカンを甘々に食べさせてもらう話でした。