休日の一幕
「今日さ、街で〈素敵なタイツを穿いた人〉に出会ったんだ」
「普通、〈タイツを穿いた素敵な人〉じゃない?」
「それだとタイツが引き立て役になってしまうでしょ?」
「衣類はその人の魅力を引き立てるために存在していると思うのだけれどねぇ」
「タイツに失礼だろ!?タイツだって生きているんだぞっ!」
「残念ながら現行の人類社会では、タイツに権利は認められていないのよ?」
「くそっ、生まれてくる時代を間違えたか!」
「そうねぇ、その思考は時代を先取りし過ぎねぇ」
「まっ、君のタイツに出会えたから、この時代も悪くないかな?」
「たまには素直にトキメかせてはくれないのかしらねぇ」
「話を戻すけどね、
街で素敵なタイツに出会った僕は、フラフラと蛾蝶のように、
タイツの後に釣られて歩いたんだ」
「よく通報されなかったわねぇ」
「ちょっとの間、
夢遊病者のように意識がタイツに囚われていたんだけど、
不意にタイツが僕に語りかけてきたんだ」
「なんて?私にも理解出来るように話してくれない?」
「タイツはこう語りかけてきたんだ。
『人の子よ、タイツは追うものではない、求めるものだ』と」
「黄色い救急車を呼びましょうか?」
「そこで僕はハッとしたんだ。僕の信仰は、今、試されているのだと」
「ちゃんと思い止まったの?」
「人を犯罪者予備軍のように見るのは止めてもらえるかな?
僕は、素敵なタイツに出会わせてくれた人に、
二礼二拍一礼を以て感謝を表し、
最後の一礼時にはタイツ神に祈りを捧げたよ」
「後ろを歩いていた貴方の急な奇行を目の当たりにした人は可哀想ねぇ」
「もちろん、気がつかれないようにやったさ」
「手際の良さに常習性を感じるわねぇ・・・」
「信心深き信徒なら、当然さ」
「しかしいつも、私のタイツが~とか言ってるくせに、
そうやっていつも浮気してるのね?」
「安心して、そのタイツを穿いていた人は男性だったから」
「都会には色んな人が居るのねぇ」