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【チラシの裏】僕と彼女たちの小話  作者: 農民
書き初め、試行錯誤中
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スイッチバー

何故このような状況になっているのだろうか。


僕は先ほど初めて会った見知らぬ女性と話しながらそう思った。




今日は仕事終わりに友人と居酒屋に飲みにきていた。


酔いもまわり調子よく喋っていたのだが、友人が唐突に「スイッチバーに行こう」と言い出した。


スイッチバーとはなんぞや状態だったが、相席屋の一種らしい。


安価で入場出来るが、女性と話せるかは自分の腕次第みたいだ。


僕らはアルコールの勢いのまま、スイッチバーの場所を検索し、歩き出したのだった。




スイッチバーは地下に店を構えていた。


店内は狭く、薄暗いライティングにアップテンポな曲が流れていた。


パリピな空気に早くも帰りたくなったが、友人は「せっかく来たからには声をかけた実績は残す」と意気込んでいる。


幸いだったのがバーと銘打っているだけあってアルコールの種類がまともなのが置いてあって助かった。


よく分からない薄いカクテルしかなかったら僕は早々に退散していただろう。


ビン物はどこに行っても味が変わらないから安心できるよね。


カウンターでドリンクを受け取り、店の隅に移動した僕らは周囲を見渡した。


「すごいね」


「すごいな」


僕と友人は店の雰囲気に圧倒されていた。


どこもかしこも男女でグループが出来ており、非常に盛り上がっている。


この状況で女性に声をかける機会などあるのだろうか?


僕は難易度の高さに既に心折れていた。


しかし友人は店の隅でアルコールをチビチビ飲みながら虎視眈々と声をかける機会を探っている。


僕はそのバイタリティの高さに普通にすごいなと思った。




「あ、あの人空いた。ちょっと声かけてくる」


そう言って友人は店の隅から、中央の盛り上がっている人だかりへ向かっていった。


僕は友人を見送りアルコールを楽しんでいた。




二度と来たいとは思わないが、人生経験としては今この空間を楽しむのはアリではないだろうか。




僕はアルコールによってテーションが上がり始めていた。


ちょうどそんな時に僕の方へ女性が近づいてきた。


正直なんでこんな場所に来ているのか不思議な、若く綺麗な女性だった。


白いノースリーブのブラウスに、青いフレアスカート姿が清楚な印象を受けた。


僕は「サクラかな」と思いながら友人を見習い、話しかけた実績を作るために話しかけた。




「こんばんは、すごい人気だね」


僕はそう言って彼女に話しかけた。


若く、清楚で、綺麗な女性だ。


そんな美人の女性を男性陣がほっとくはずも無く、隅から見ていたが彼女は中央の人だかりで物凄く人気だった。


「ははっ、この店、いつもこんな感じなんですか?」


彼女は少し疲れたように笑って聞いてきた。


「僕も初めて来たから分からないな。すごいよね、雰囲気に圧倒されてるよ」


僕はおどけて笑った。


「そうなんですか、お一人ですか?」


彼女は薄い化粧をした小顔を傾け聞いてきた。


「いや、友人と来たよ。きっとあの人だかりの中にいるよ」


僕は視線を中央の人だかりに向けた。


彼女もつられて人だかりに視線を向け言った。


「私と一緒ですね。私も友人に初めてこの店に連れて来てもらったんです」


彼女は桃色に彩られた小さな唇で弧を描き、微笑んだ。


「へぇ、どの子?」


「あの三人組と喋ってる茶髪の子です」


「あの茶髪がカールしてる子?」


「そうです」


彼女の友人も目の前の彼女に負けず劣れず美人だ。


タイプが違うが、美人にはやはり美人の友人が出来るのだろうか。


「彼女も人気だね」


「あの子モテるんですよ」


「なんでこんな店に来たの?」


僕は疑問に思っていた事を口にした。


「普通に食事していたんですけど、あの子が気になるから行きたいって言い出して」


彼女の回答を聞いた僕は可笑しくなって大笑いした。


「突然ごめんね、僕と一緒だと思って」


突拍子もなく笑い出した僕を見てキョトンとしていた彼女に平謝りする。


引かれてもおかしくなかったが彼女は笑って許してくれた。


「立ってるの疲れたからスタバでも行かない?」


「いいですよ」


僕たちはそれぞれの友人と合流しコーヒーを飲みながら談笑し、連絡先を交換し帰宅した。




翌朝、起きると喉が痛かった。


久しぶりに人と喋ったせいだと思う。

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