閉まらないウエスト
「あれ・・・入らない?」
そう僕が呟いたのは去年買ったの短パンをはこうとした時だった。
腰まで上がるのだが、ファスナーが途中で上がらなくなるのだ。
「そりゃそうよ、君、明らかに太ったもの」
彼女が笑いながら近づいて来た。
そして正面から僕の腹の肉をつかみ、悪戯に笑った。
「去年はこんな断層なかったでしょ?まったく何でここまで貯め込んだのやら」
そう言って彼女は僕の贅肉を引っ張る。
地味に痛い。
「君の手料理が美味しいからついつい食べ過ぎちゃってさ」
僕は白くきめ細やかな彼女のおでこにキスをする。
「もう、私のせいだって言うの?」
彼女はふくれながらも照れ臭そうに笑いながら抱きついてきた。
僕も抱きしめ返し彼女の感触を楽しむ。
ふと、悪戯心が湧き上がってきた。
「あれ、太った?」
僕は悪戯心が命ずるまま口にする。
すると彼女は勢いよく僕から離れた。
「ちょっ!なんてこと言うのよ!太ってないわよっ!」
彼女は顔を真っ赤にしながら全力で否定してきた。
期待通りの反応でちょっと面白かった。
「なに笑ってるのよ!どこが太ったのか言ってみなさいよっ!」
彼女はカンカンに怒っている。
彼女の機嫌がこれ以上悪くならないように僕は早めに降参する。
「ごめんごめん、冗談だよ」
僕は平謝りするが彼女はぷりぷりと怒っている。
「言っていい冗談と悪い冗談があるでしょ!?今のは悪い方だよ!」
全身で怒っているアピールをする彼女をなだめる方法を考える。
僕は怒れる猛獣を刺激しないように、ゆっくりと彼女に近づき、両脇に手を入れ彼女も持ち上げた。
「ほら、軽い軽い」
僕は顔をなるべく爽やかに笑う事を心がける。
持ち上げた状態で彼女と見つめ合う。
「もう、子どもじゃないわ」
彼女は怒った表情からはにかんだ表情に切り替わった。
僕は一安心し彼女を抱き寄せた。
「ごめんごめん、君は太ってないよ」
そう言いながらも抱きしめた僕の腕は急激な筋肉使用によりプルプルと震えていた。
僕は心の中で少し太ったかな、と思っていた。