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見知らぬ世界

 次に櫻が意識を取り戻した時、その視界に広がるのは果ての無い真っ白な空間だった。

(何だいここは…?)

 辺りを見回しても何も見当たらない。地平線や水平線がある訳でも無く只管(ひたすら)に視界が広がり、それはまるで一枚の平面な世界が延々と続くようであった。

『ここは一体…。』

 声に出して違和感に気付く。

 聞き覚えのある自分の声では無い。

 いや、それ処か、腹に入る力も、声帯を通る空気も感じられない。

 思わず自分の喉に手を伸ばそうとするが、そもそも身体の感覚が無い事に気付いた。

『コレは一体どういう事だい?』

 確かめるように再び声に出しつつ周囲を窺う。

 すると霞む地平の彼方から光の玉のような物が物凄い速度で近付いてくるのが見えた。

(あれは…?)

 目を細めるような感覚でその光に意識を向けると、ソレは櫻の前まで来て静かに静止した。

 そして一際大きく輝きを増したかと思うと、その光は徐々に人のような姿へと変貌を遂げる。

 それは美しい女性の姿をとり、櫻に向け優しい微笑みを向けた。

 美しく輝く長い銀の髪に優し気な瞳。清潔感と言うよりももっと清らかなモノを感じる真っ白な、それでいて光り輝いて居るようにも見える不思議な…強いて言うならば古代ギリシャ風の衣服を身に纏い、その手には色とりどりの宝石のような物が散りばめられた杖を携えている。

『ようこそ。無事にコチラに来られたようで何よりです。』

 口は動いていない。しかしその澄んだ声は櫻にハッキリと聞こえた。

(…イマイチ状況が飲み込めないが…。)

 身体の無い櫻の意識が目の前の女性を見据える。

(…!?読めない…!?)

『ふふ、貴女(あなた)の能力、読心術(どくしんじゅつ)は私には効きませんよ。私、これでも神様なので。』

 櫻…春乃櫻(はるの さくら)は、相手の記憶や考えを読み取る事が出来る超能力・読心術を持つ超能力者であった。しかし目の前の女性にはその能力が通じない。

 ニコリと微笑みながら軽いノリで耳を疑う言葉を吐く。

(突然出てきて何を言ってるんだ、この女は?)

 余りに怪しい目の前の女性に不信感が募る。しかし実際に櫻の持つ特殊能力である読心術は通用しない。

『…話を聞かせてくれるかい?』

 覚悟を決めて声をかける。

『はい、勿論。貴女のそういう所、良いですわね。』

 ニコニコとした表情は変えずに声を弾ませ応えた。

『ではまず、自己紹介から。私の名はファイアリスと申します。この世界の主神をしております。』

 余りに突飛な事を言われ、櫻は身体が無いにも拘らず目を丸くするように呆れた。

 しかし今目の前で起きている全ての事が今までの経験では測る事の出来ない物である事は事実。

『あ~…うん、続けて?』

 先ずは大人しく情報を得る事を選択する。

『お気づきかもしれませんが、貴女は死にました。』

 考えたくなかった事実をキッパリと突き付けられた。

(あぁ、うん。やっぱりそうか…。)

『という事は、アンタが神様って事はここはあの世ってヤツか。随分殺風景なもんだねぇ。あたしの知ってるあの世ってのはもっとこう、蓮の花とか花畑があるもんだったが。』

 少しばかり諦めがついてしまった櫻は大人しく対話をする事に決めた。

『貴女の言っているあの世は、貴女が元居た世界のモノですね。ここは私の世界ですので、貴女が知っているモノとは違うと思います。』

『…済まんが、もう少し根本から説明してくれんか?』

『そうですね。では世界というものから説明致しましょう。』

 そう言うと、その女神…ファイアリスは杖を(かざ)す。すると今まで真っ白だった空間一面に立体映像のようなものが浮かび上がり、その中を無数の泡のようなものが漂う。

『貴女は宇宙が一つでは無いという話を聞いた事はありませんか?』

『多元宇宙論とかいう、SFによくあるヤツか?』

『まぁ、概念としてはそんな風に捉えて頂いて結構です。世界は複数在り、普通は決して交わらない。しかし確かに存在しており、近くに在るのです。』

 立体映像の中で複数の球体のようなものが寄り集まっているソレは、無数の宇宙だった。

『その世界には其々に世界そのものを管理する神が同時に産まれるのですが、この世界では私がその管理神、つまり主神なのです。』

 ファイアリスが世界の一つを指差し微笑む。

『さてそこで貴女がここに居る理由について触れましょう。』

 そう言うと突然椅子とテーブルが現れ、寛ぎ始めた。

『貴女はご自身でも理解している通り、貴女の居た世界で飛行機事故に遭い、能力(ちから)を酷使し過ぎて力尽きたのですが…。』

 櫻はその言葉を聞き、改めてその事実を受け入れる。

『その身を挺して見ず知らずの大勢の人々の命を救った気高い心に私は感心致しました。』

『はぁ?』

 神様に褒められるのは悪い気はしないが、何故別世界の神が?と疑問が尽きない。

 そんな事を考えていると、光の玉のようだった櫻の存在が人間のような形に変化し始めた。

『おぉ?』

 伸びた腕を曲げ、四肢の感覚を確かめる。

『あら、どうやら此方(こちら)の世界へ順応を始めたようね。良かったわ。』

 ファイアリスが嬉しそうに言うと、テーブルの傍にもう一脚の椅子を用意した。

 まだ辛うじて人間の形を取るだけの、光の棒人間のような姿ではあったが、一先ず椅子に腰掛ける。

『それでね、私の世界のとある惑星で今、神に欠員が出ているのよ。』

 目の前にパっと出現した紅茶のような何かを飲みながら話を続ける。

『そんな時に貴女のように、他者の為に命をかけられる人材を見つけたの。そこで貴女の居た世界の神と交渉して貴女を譲って貰おうと思ったのだけれど…。』

 ふぅと溜息をつきながら手に持ったカップを置いた。

『貴女自身がまだあの世界に未練を持ち、死にたくないと強く願っていたのね。』

 そう言って櫻を控えめに指差す。

 言われてみれば確かに未練はあったかもしれないと首を捻る。

『それに貴女の元の世界の神も貴重な人材である貴女を出来れば手放したく無かったの。』

『貴重な人材?』

『そう、貴女のその能力、読心術と、その能力を活用した能力コピー、それは数ある宇宙の中でもそうそう誕生するものでは無いの。』

 ファイアリスが瞳を輝かせて熱弁する。

(読心術だけじゃなくコピーの事まで承知か。)

 櫻の超能力・読心術は単に記憶や思考を読むだけでは無く、他の特殊能力者の能力を一時的にコピーする事が出来る。墜落する飛行機を支えた能力(ちから)も、念動力者である幹雄(みきお)の能力をコピーして行使したものであった。

『ちょっと待て。この能力(ちから)はアンタ達神様が授けたモノじゃないのかい?』

 驚きに声が跳ね上がる。

『まさか。いくら世界を管理するとは言っても生まれてくる命に特別な扱いなんてしないし、出来ないわ。その能力は貴女が生きる中で自ら身に付けたモノなのよ?』

 当たり前のように言い放つ。

『そこで、私は貴女の命を助ける代わりに存在を分けて貰おうと持ちかけたわ。』

 何て事を簡単に言ってくれるのかと櫻が呆れる。

『既に命を落とした貴女の『死』を他世界に分ける事で貴女の元の世界での死を薄める事にして、代わりに此方の世界にも来て貰う事となったの。』

『成程、此方の世界に来た経緯(いきさつ)は何となく理解した…。』

 頭を抱えつつも状況を受け入れるしかない櫻は自分を納得させる為に言葉にした。

『で?そこから神様の欠員とやらの話になるという事は、あたしは神様でもやるのかい?』

 半ば冗談のように言うと

『えぇ、話が早くて助かるわ。』

 と笑顔で返され、言葉を失う。

『…拒否権は…?』

『あるにはあるけれど、それならもう今ここに居る貴女の存在は消えるだけになってしまうわよ?』

 さも当たり前とでも言うように言ってのけた。

(死んだと思ったら助かって、かと思えば選択肢は無しか…。)

『じゃぁ一応聞くが、神様ってのは何をやるもんなんだい?』

 覚悟を決める。

『特に何と言う事も無いわ。単に世界のバランスが極端に崩れないように見守り、必要なら手を下すだけの簡単なものよ。』

『サラっと言ってくれるね…。』

『貴女には欠員になっている人類の神をやってもらいたいの。ほんの少し空席だった間に最近ちょっと管理が甘くなってたみたいで困ってたのよね。』

 テーブルに頬杖をついて溜息を吐く女神。

(神って割に随分人間臭いもんだねぇ。)

『まぁ分かったよ。他に選択肢が無いって事もあるが、知らない世界を見てみるのは面白そうだ。出来るかどうかは保証しないが、やってみようじゃないか。』

 腹の決まった櫻がハッキリとした声で答えると、ファイアリスの表情が明るくなる。

 ガッと両手を掴み

『まぁ、ありがとう!きっとそう言ってくれると思ってたわ!』

 瞳を輝かせ、ぶんぶんと手を振る。

『それじゃ早速!』

 そう言うと杖を(かざ)

『行ってらっしゃ~い♪』

 その言葉と共に櫻は光に包まれた。

はい、またタイトルに掛からない内容です。


本当ならここまでをプロローグにするべきかとも思いましたが、一つの場面として切りが良かった事もありこのような構成になりました。

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