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戦う理由

「それで? ()ずお前さんの考えってのを聞かせてくれるかい?」

 町の中、隣を歩くカタリナに視線を上げ、櫻が問い掛ける。

「ん~…取り敢えず人気(ひとけ)の無い場所に行って、ソレが出来るかどうかの確認だね。」

 そう言うとカタリナは櫻達を先導するように大通りを海へ向かい、港に出ると周囲を見回した。

「お嬢、済まないけど『風の意識』で余り人気(ひとけ)の無い場所を探してくれるかい?」

「ん? あぁ、()いよ?」

 言うが早いか、櫻はアスティアに身体を預け瞳を閉じると、意識は風になり空へと舞い上がる。そうして広がった視界から地上を見下ろすと、港を南下した少し先に防風林(ぼうふうりん)のような雑木林(ぞうきばやし)を挟んで人気(ひとけ)の無い砂浜が見えた。

 意識を戻しそれを伝えると、

「よし、それじゃちょいとそこまで行ってみるか。」

 と、カタリナは櫻とアスティアを肩に抱え上げ小走りに駆け出したのだった。


「も~…(みんな)見てたじゃない…恥ずかしい~…。」

 砂浜に到着し、やっと下ろして貰えたアスティアが、道中の視線を思い出し赤らめた顔を両手で覆う。

「ははっ、あの感じも懐かしいね。…それで、何をするんだい?」

 櫻は海から吹く風を全身で浴びるように両腕を広げ、白い髪とスカートを(なび)かせていた。

「アタイさ、前にお嬢から光の力を(まと)わせて貰った事が有っただろ? あの応用で、アタイだけを風の力で飛ばす事は出来ないかと思ってね。ほら、お嬢の周りに寄って一緒に飛んだ事は今までにも有ったけど、個別にソレが出来るかって事。」

 カタリナはそう言って指を空に向けてクルクルと回して見せた。

「う~ん…恐らく出来ない事は無いだろうが、ただ光の力を(まと)わせていただけの場合とは違って、空を飛ぶとなったら自分の意思で動く事は出来ないと思うぞ。」

 そう言って櫻は風の能力(ちから)を使い、カタリナの身体を持ち上げて見せる。

「おぉ…本当に出来た…流石(さすが)、風の主精霊(しゅせいれい)能力(ちから)だね。」

 手足をフラフラとさせながらカタリナは感心したように言う。

「そのままお嬢も飛べるかい?」

「あぁ、それくらいなら問題無い。」

 軽く言うと、櫻もふわりと風を(まと)い、少しばかり砂を巻き上げながらその足が地面から離れた。

「よしよし、ここまでは()い感じだ。」

 自分に言い聞かせるようにカタリナが呟く。

「それじゃ次は、お嬢、アタイの頭の中を覗いてくれないか。」

「はいよ、それじゃ失礼して…。」

 そうして覗き込んだ頭の中、カタリナの思考が流れ込んで来た。

成程(なるほど)ね。」

 理解したと櫻が頷くと、カタリナもそれを受けて頷いて見せ、それと同時にカタリナの身体が空を舞う。右へ、左へ、上へ、下へ…その動きに合わせるようにしてカタリナは攻撃の『型』を取ると、それはまるで空に居る見えない敵へ攻撃を繰り出すようであった。


 (しばら)くして二人が砂浜へ足を着けると、それを見守っていたアスティアと(みこと)もその(そば)へと小走りに駆け寄って来た。

「お帰りなさい、サクラ様。」

「あぁ、ただいま。」

 櫻を背後から抱くアスティアの頬を、海風で冷えた櫻の(てのひら)がソッと()でる。

「それでカタリナ、一体何をしていたのですか?」

 (みこと)も櫻の(そば)へ控えながら、カタリナへ視線を向けた。

「海の上で鳥の魔獣と戦う方法を試してたんだ。取り()えずの第一案だったんだけど…まさかここまですんなり出来るとは()い意味で予想外だったね。」

 カタリナの考えた作戦。それはカタリナ自身も空での戦いに参加する為に自身の思考を櫻に読んで貰い、それに合わせて櫻がコントロールするというものであった。

「だがこのやり方では飛ばす事が出来るのは一人で限界だね。」

 櫻は腕を組んで鼻で息を逃がす。

「あぁ、それなんだけどね。今回はミコトには留守番をして貰おうかと思ってるんだ。」

「…何故(なぜ)ですか?」

 突然に提案されたその言葉に、(みこと)は一瞬驚くと少々不満気(ふまんげ)な声を漏らした。

「魔魚の方はアイツらに任せるとして、魔獣の方はアタイが前衛になるつもりだ。アスティアにはアタイの隙を埋める役割り、お嬢にはアタイの考えを読んで貰って適宜(てきぎ)遠方からの補助をして欲しい。」

「あぁ、その作戦は()いと思うよ。」

「で、そうなるとミコトにはして欲しい事が有ってさ…。」

「私に? 何でしょう?」

 (みこと)は自身を小さく指差し小首を(かし)げた。


 そして翌日…。ギルドへと向かう櫻達の中、カタリナの肩には大きな荷袋が(かつ)がれていた。


「よぅ、逃げずに来たみたいだね。」

 ギルドへ顔を出した櫻達を待ち構えていたかのように、ビビ達三人が依頼掲示板の前に揃って居た。

「そういうアンタらも、昨夜(ゆうべ)は少しは我慢出来たみたいじゃないか?」

「ふふっ、お陰で欲求不満でさ。この依頼が終わったらまた(しばら)くはこの()達を可愛がるさ。」

 そう言ってビビは両脇に控える二人を抱き寄せる。カタリナはそんな様子を何処(どこ)か複雑な表情で見つめ、アスティアは何故(なぜ)か対抗心を()き出しにして、櫻の頭に顎を乗せるようにして背後から抱き締めた。

「…(ところ)で、一人足りないんじゃないか? と言うか、まさかその子供まで連れて行くのか?」

 ビビが櫻を指差してそう言うように、櫻達の中に(みこと)の姿が見当たらない。

「あぁ、ミコトにはちょっと用事を頼んで有ってね。海に出るのはアタイ達三人だ。」

「オマエ、やっぱり人でなしだな…こんな子供を戦いに使うつもりかよ。」

 途端にビビ達の視線が鋭くカタリナに向けられる。その表情は明らかに嫌悪(けんお)軽蔑(けいべつ)に満ちていた。しかしそんな双方の間に櫻が割って入る。

「まぁ待ちな。お前さんらがあたしを心配してくれるのは有り難いが、あたしだって別に嫌々付いて行く訳じゃないんだ。」

「だけど…。嬢ちゃん、ハンターに付いて回ってたんなら魔物の恐ろしさは知ってるだろう? 少しの油断が命取りになるんだ、遊び気分で付いて来られたってコッチも迷惑だよ。」

勿論(もちろん)知ってるさ。そしてあたしも(ぶん)(わきま)えてるつもりだよ。足手纏(あしでまと)いになるつもりは無いし、そうなるようなら見捨ててくれて構わん。」

 両手を腰に当て、自信満々に胸を張るその小さな身体に、ビビ達は納得の行かない表情を浮かべる。しかし、

「分かった。嬢ちゃんのやりたいようにやりな。」

 大きく溜め息を漏らしながらそう言うビビに、両脇の二人も気遣うように身を寄せる。

「ただし、アタシらはアタシらの獲物に専念するからね。助けを期待するんじゃないよ。」

「了解だ。お互いに自分達のやるべき事をする、それで()いだろう?」

「…あぁ。そうだね。」

 ビビはフッと陰りの有る微笑(びしょう)を浮かべると、もうこれ以上は言う事は無いと依頼書を手に取りギルドカウンターへと向かった。


 その頃、宿の一室では、(みこと)が人前に出る事の出来ない姿を掛布で隠すようにしてベッドの上に横たわり、枕の横に居るケセランと共に留守番をしていた。


(ひま)です…。)

 ボーッと天井を眺める(みこと)

(ひま)…私は何時(いつ)から『(ひま)』を感じるようになったのでしょう…? ただの道具だった筈の私が、こんな気持ちを覚えるなんて…。)

 顔を横に向けると、そこには真っ白な身体を小さく上下させ寝息を漏らすケセランの姿。(みこと)は『ふっ』と微笑(ほほえ)みを浮かべ、そんなケセランを眺めるのだった。


 それから少々して、櫻達は港へと到着していた。


「は~…ただ『船』とだけ聞いてたが…これはなかなか…。」

 櫻が息を漏らしながら波に揺られるソレを眺める。目の前で上下するその船は、双胴船(そうどうせん)のような独特の形をした物であった。

 木造ながら船首や下部等の主要な箇所を通常よりも念入りに金属で補強してあり、用途としては明らかに漁の為の物では無い。そして不思議なのは、操舵室のような物が存在せず、(ふち)に落下防止用に付けられた手摺(てす)り以外には平らに開けた広々とした甲板、その中央に在るメインマスト以外に左右にも前後2枚ずつの小さなマストが立てられている事だ。

「何だい? この不思議な船は…。」

 ビビ達が先に乗り込み、櫻達が後に続きながらキョロキョロと眺めると、

「へへ。見た事無いだろ、こんなの。スーが使い(やす)いように改良した、アタシらの為の船さ。」

 と、ビビは自慢気に鼻の下を指の背で(こす)る。

「スーが?」

「そっ。っていうかアナタ達は(おか)に忘れ物は無い? もう船を出すわよ?」

 そう言ってスーが船の後部へと移動すると、そこに据え付けられた手すり付きの椅子へと腰を下ろした。

 櫻達は一度互いに顔を見合わせると、スーへ向き大きく(うなず)く。スーもまた、それを受けて(うなず)くと、両手を正面へ(かざ)すように伸ばした。

 すると船の上にそよそよとした風が流れ始め、それを受けた帆が膨らんだかと思うと船は素直に前進を始めた。

「へ~、精霊術士(せいれいじゅつし)だったのか。」

 カタリナが腕を組み感心したように(こぼ)す。

成程(なるほど)、こういう使い方も有るのか…しかし、こんな事をしては直ぐに精気(せいき)切れを起こしてしまわないか? 魔魚が出るのは随分と沖なんだろう?」

「あはは、別にずっとこうしてる訳じゃないよ。沖に出て風を(つか)まえられたらワタシの役目は終わり。後は普通の船と同じく帆と、船尾の(かじ)を調整するだけだよ。」

 スーは椅子に座ったまま、その更に後ろにアンが控え、その手には舵取りの為の物であろうグリップが握られている。ビビは帆の角度を調整し、スーが適宜(てきぎ)風を送る。まるで三人が一つの機関のように操船はスムーズだ。


「…(ところ)でお前さん達、何で女三人だけで魔物ハンターなんてしてるんだい?」

「あ? 別にいいだろ、そんな事。お互いに都合が有るだけだ、違うか?」

 櫻の言葉に、突然ビビは機嫌を損ねたように眉間(みけん)(しわ)を寄せた。しかし櫻はそんな事はものともしないように、

「まぁまぁ、どうせまだ魔物の出現報告が有った海域までは時間が掛かるんだろう? 少しの間だが一緒に仕事をするんだ、ちょっと(くらい)互いの事を知るのも悪くは無いだろ。」

 と、ニッとした笑顔を浮かべて見せた。

「オマエ、あの時もそうだったけど全然アタシらに物怖(ものお)じしないね…。」

 余りに余裕の態度を崩さない櫻に、ビビ達も何処(どこ)毒気(どくけ)を抜かれたのか肩の力が抜ける。

「…そこまで言うなら、()ずオマエらが何でこんな子供連れで旅をしてるのか説明しなよ。そしたらアタシらの事も少しは話してやるさ。」

「あぁ、()いとも。とは言っても話せる事と話せない事が有るのは理解しておくれ。」

 少しばかり困ったように眉を下げる櫻に、ビビ達は一旦顔を見合わせると小さく頷いて見せた。


 そうして櫻は神の事、使徒の事は誤魔化しつつ、旅の目的を精霊殿(せいれいでん)の巡礼とし、自身が旅の中心人物である事を告げた。カタリナ達の態度から薄々そうではないかと気付いてはいたビビ達であったが、いざその事実を本人から聞かされると改めて驚きの表情を浮かべた。


「そんな訳で、風と光の精霊殿(せいれいでん)には行ったんでね、次は火の精霊殿(せいれいでん)へ向かいたいんだが、この依頼だろう? お前さん達が居てくれて助かったと本当に感謝してるさ。」

「風の精霊殿(せいれいでん)は兎も角…光の精霊殿(せいれいでん)って言ったら北の極寒地域じゃないか。そんな場所にまで行って、一体何を…いや、それは話せないんだったね。」

 呆れたように言うと、ビビは肩を(すく)めて首を横に振った。

「とは言え、そこまでの根性が有ってもどうせ水の精霊殿(せいれいでん)には流石に辿り着けないだろ? 何せ海の底に在るって話だからね。」

「へ? 魚人族でも行けないような場所なのかい?」

「無理無理。ウチらだって流石に光も届かないような海底までは行けないよ。」

 驚く櫻にアンが口を(はさ)むと、ビビとスーも『うんうん』と頷く。

(おいおい…本当に過去の人類の神は自力で水の主精霊(しゅせいれい)の元へ行ったのかい?)

 (なか)ば呆れたように空を見上げ、見える筈の無いファイアリスの姿を天に見る。その表情(かお)はまるで苦労する櫻を見て楽しんでいるような満面の笑顔であった。


「じゃぁ次はアタシらの事か…。とは言っても、アタシらの目的なんて単純なモノでね。」

 ビビはそう言うと腰に手を当て、肩で大きく溜め息を()く。そして一瞬、口にするのを躊躇(ためら)うようにして吐き出したその言葉。


「『復讐』さ。」


「復讐…?」

 反芻(はんすう)するように口にした櫻に、少しばかりバツの悪そうな表情を浮かべ言葉を続けるビビ。

「そう、アタシらの両親は同じ船に乗る漁師仲間でね。男親ばかりだったけど優しい人達だったんだ。だけど有る時、漁に出ていた父さん達の船は魔魚に襲われて沈み、父さん達は帰って来なかった…。」

「とは言っても、漁師なら良く有る話。ワタシ達は凄く悲しんだけど、それだけならまだ三人で頑張って行こうって思えたわ。」

「だけど、ソレはウチらに待ってた最悪の生活の始まりでしか無かったんだ。」

 語る(ごと)に三人の表情が曇って行くのが見て(わか)る。ビビは『すぅ~…』と大きく息を吸い込み、何かに覚悟するように話を続ける。

「その頃アタシらはまだ10歳。とても子供だけで生きて行く事は出来なかった。そんな時に孤児(みなしご)になったアタシらを引き取ると名乗り出た男が居てね…。」


 そう語り出した話の内容。それは、ビビ達がまだ孤児に戻った方がマシだったのではないかと思えるものであった。


 男は貴族という程の家柄は無いものの町の中でも有数の金持ちで、表向きの顔は何の変哲も無い商人だったと言う。しかし迎え入れられたビビ達を待っていたのは、子供を『道具』として扱う過酷な日々であった。

 食事は日々、具の殆ど入っていない残り物のような薄味のスープと、三人で分ける一つのテサ。外に出る事は(かな)わず、屋敷の中の『雑務』をこなす為の労働力。それがビビ達を引き取った本当の目的だったのだ。


「ふふ…身体の隅々まで『道具』として色々使われちまってね…。アタシらは三人で(なぐさ)め合って何とか頑張ったよ。」

 何処(どこ)か遠くを見ながらも、ビビは()を動かし航路に気を配りながら話を続ける。


 過酷な日々の中、何とか耐えて生きて来たビビ達。しかしその忍耐の()が切れる時が来た。それは、ビビの体調に異変が生じた事が発端(ほったん)だった。

 屋敷の廊下で嘔吐(おうと)したビビは、主人にとある部屋へ一人で来るようにと呼び出された。そして訪れたその部屋。それは明らかに普通の部屋では無い。外部に音の漏れないよう、そして逃げられないように地下に造られたその部屋で、ビビは全裸に()かれると無骨な木製の台の上に身体を大の字に開くように縛り付けられ、猿轡(さるぐつわ)()まされる。

 男の手には四本の爪のような器具。ソレがランプの灯りに不気味に光ると、何の準備も無く突然に秘部から胎内へと刺し込まれた。

 塞がれた口、しかし喉からは激しい悲鳴が漏れた。余りの激痛にボロボロと涙が(こぼ)れ、両手を強く握り締めながら唯一動く首を振り乱して抵抗の意思を示した。しかしそんなものは無駄だった。

 ブチブチと音を立て、男の手に内臓が一握りされ抜き出されたのだ。体内に残る激痛と喪失感、そして目の前に見える信じがたい光景に、ビビはグルリと白目を()くと同時に気を失った。

 その時だった。扉が『バンッ!』と激しい音を立てて破られると、そこにはアンとスーの姿が()った。

 男は勝手な行動をした『道具』に怒声を浴びせる。しかし二人にはそんな声は聞こえなかった。目の前の光景に理性が音を立てて崩れて行く。

 二人は吠えるような声を上げると、周囲に()った手頃な物を手に取り男に襲い掛かった。男は手にした臓物(ぞうもつ)を投げつけて抵抗を試みたが、そんなもので止まる二人では無かった。激しい殴打(おうだ)音が部屋の中に響き、程無(ほどな)くしてその中にグチャグチャという水音が混じり始める。

 やがて、ハァハァと息を上げる二人の前には、血溜まりの中で肉塊となった『物』が転がっていた。そしてその時になってやっと自分達のした事に気付いた二人は、目の前の物体に喉奥から込み上げた嘔吐物(おうとぶつ)(こら)える事無く撒き散らした。

 目からは何故(なぜ)なのか涙が()()なく(あふ)れ、しかしそんなものには構って居られないと二人は顔を見合わせ(うなず)くと、口元を(ぬぐ)いビビを助け出した。

 局部から大量の出血をしていたビビは身体が冷たくなっていた。二人は急いで医者の元へと運び、縫合(ほうごう)して貰う事で何とか大量出血を食い止め一命を取り留める事には成功したものの、それから数日、ビビは生死の境を彷徨(さまよ)う事となった。

 温かな感触に包まれ目を覚ましたビビは、その両脇にアンとスーが素肌を(さら)し身を寄せている事に気付き、驚きの声を上げた。それは力無く弱々しいものであったが、その声にビビの生存を確認した二人は喜び、三人で熱く情熱的な口付けを交わし、生命(いのち)を確かめ合ったのだった。


「…その男を手に掛けた事については、何も言われなかったのかい?」

 悲し()な表情を浮かべ櫻に(すが)り付くアスティアの髪を()でながら、複雑な表情を浮かべ櫻が問い掛ける。

「ん~? まぁ色々言われたさ。『人殺し!』『恩知らず!』『魔物になるぞ!』ってね。でも、アタシらの言葉を信じてくれて(かば)ってくれる人も沢山居たよ。」

「だけどワタシ達のせいで町の人達の意見が割れて、(みんな)がギスギスするのは、ワタシ達自身も気持ち()いモノじゃないから…。」

「だからウチらは町を出る事にしたんだ。そして生きる目的を作った。」

「目的…?」

 櫻が首を(かし)げると、ビビ達は一様に(うなず)いて見せた。

「あぁ。『魔魚を殺し続ける』ってね。」

 そう言ってビビがニカリと歯を見せて笑う。

「あの男を始末してあの生活から(のが)れても、何も前には進めなかったんだ。だから、全ての元凶となった魔魚を…世界中でってのは流石に無理が有るからね、アタシらの前に現れたヤツだけでも、アタシらの手で…殺してやる!」

 グッと力強く(こぶし)を握り締めるビビ。その手は今も怒りを抱えて居るのだろうか、ワナワナと震えていた。

「…成程(なるほど)…それが『復讐』か。」

勿論(もちろん)こんな事は単なる八つ当たりって理解はしてるさ。でも、この(ぬぐ)い切れない感情をぶつける相手としてコレ以上に最適な相手は居ないだろう?」

 握った(こぶし)をパッと開いてビビが苦笑(にがわら)いを浮かべた。櫻は『ふぅ』と肩を大きく揺らして息を吐くと、そんな様子にカタリナが視線を向ける。

「だけど、随分と深い処まで話してくれたもんだね。お嬢は色々と内緒にしてる部分だって有ったってのに、気前が良いじゃないか。」

「ふふっ、オマエがその子らを道具のように扱ってるんじゃないかと心配でね。アタシらの本気を知って貰いたかったのさ。」

 ニヤリとした視線をカタリナへ向ける。

「気遣い感謝するよ。でも安心しておくれ。この旅も、それに(ともな)う戦いも、その(ほとん)どはあたしが自ら決めた事だ。カタリナ達はそんなあたしを助けてくれる、頼もしい仲間さ。」

 胸を張ってそう断言する櫻に、ビビ達は顔を見合わせると少々苦い笑顔を浮かべ肩を(すく)めた。そしてそれ以上はもう何も口出しをする事は無かった。

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