主従と仲間
《サクラ~。お~い。サクラ~。》
またしても脳裏に聞き覚えのある呑気な声が響いて来た。
《ファイアリスか…何だい?》
《もう、つれないわねぇ。全然貴女から話しかけて来てくれないんだもの、私淋しいわ。》
《こっちはこっちでそれなりに忙しかったからね。それで、お前さんは暇なのかい?》
《暇という訳では無いけれど、ほら、やっぱり新神の働き具合は気になるものじゃない?》
(はぁ…あたしゃこの世界の新入社員か…。)
《働き具合と言ったって、前に教えた事以外には単にカタリナに使徒としての同行を納得して貰った事と旅に出立したという事以外に何も変化は無いからね、知らせるべき事も特に無いんだよねぇ。》
《あらあら。意外とのんびり屋さんなのね。》
《どんなペースで動く事を想定していたんだか…悪いが急ぐ理由が無いならあたしのペースはこんなもんだと思って貰うからね。》
《えぇ、別に急いで貰うつもりも無いから、その辺は好きにしていいわよ。ところで何か困った事や知りたい事は無いかしら?》
《本当は暇なんだな…?》
《うふふ、それは内緒。》
《まぁいいか。取り敢えず『裏』の世界…地上じゃ『魔界』と呼ばれているようだが、そこに関して知る限りの事を教えてくれ。それと瘴気についてもだ。》
《いいわよ~。裏の世界はねぇ…貴女の理解しやすい言葉で言うと、『地獄』なのよね。》
《『地獄』…?》
《そう、生前に悪業を重ねた魂が死後に行き着く場所。『裏』の中がどうなってるかまでは知らないけれど、そこに送られた魂は永遠の責め苦を受け続け、自我を保てなくなると他の魂と絡み合い自分の姿すら判らなくなるの。それが瘴気と呼ばれるモノの正体よ。》
《随分とエグいね。》
《そうねぇ。でもそういう罰を受ける程の事をした魂だもの、なるべくしてなった末路じゃないかしら?》
《…ま、そういう話は置いておくとするが、それじゃ何故瘴気が『表』に漏れ出てくる?》
《『表』と『裏』は本来壁によって隔たれているのだけど、長い年月で綻びが生じているのよ。小さい隙間があちこちに出来ているのね。それで、その『表』への抜け穴を見つけた瘴気は『裏』の責め苦から逃れる為にそこから逃げ出すの。》
《その穴は塞げないのか?》
《それも貴女達地上に居る神の仕事の一つなんだけど、何せ数が多くて手が回らないうえに人類の神が暫く不在だったせいで穴が増える一方だったみたいなのよね~。まったく何処に行っちゃったんだか…。》
やれやれというように溜息交じりに言うファイアリスであったが、その言葉は何処か軽い。恐らくそう深刻に考えては居ないのだろう。
(成程…何処か生き物じみた動きをすると思っていたが、元々意思のあるものだったのか…。)
《ところであたしも寝る前に瘴気を見たんだが、何かもがくようにして消えてしまった。アレは何故なんだ?》
《それは取り憑く身体が見つからずに限界を迎えたせいね。『裏』から脱走した瘴気は、神や精霊の守護がある『表』では長く存在出来ないの。それで身を隠すと同時に『表』で活動する為の身体として生物に取り憑くんだけど、魂の相性とでも言うのかしら?そういうのが合わないとなかなか入れず、手をこまねいている内に浄化されてしまうのよ。》
《ふぅん、成程ねぇ。ところで穴を塞ぐのも神の仕事と言っていたね?それは今のあたしにも出来る事なのかい?》
《う~ん、言いにくいのだけど、今の貴女って、実はどっちかと言うと穴を増やしかねない存在なのよね。》
《はぁ!?》
《主精霊達に面会をして力を貸してもらうようになって初めて神として完成すると言っても良いのだけど、今の貴女はただ単に神気を持つだけの存在。それは苦しみの中にある瘴気達にとっては自分達を救ってくれる光に見えるようなの。》
《つまり…?》
《『裏』からでも『表』の神気を感じ取れる者が居ると、救いを求めて多少強引にでも穴をこじ開けて『表』に出てくる瘴気が現れるのよ。》
(安全なファートの町付近で日に二体も魔獣が出た原因はあたしにあったかもしれないのか…。)
《でも所詮は悪業の塊、『表』に出て身体を得てしまえばもう本能の赴くままに欲望を満たすだけの存在になるわ。同情の余地は無いから始末しちゃって。》
事も無げにあっけらかんと言い放つその言葉の冷たさに、櫻は怖気を覚えた。
《…解った。情報ありがとう。恐らく昼間起きて活動している時には話相手になる事は出来んが、こうして寝てる間だったらあたしも別に問題は無い。その気があったら声をかけてくれれば世間話の相手くらいはするよ。》
《うふふ、どういたしまして、ありがとう。貴女のそういう処、好きよ。それじゃ今日はこのくらいにしておきましょ。またね~♪》
ファイアリスの楽しげな声が遠ざかって行く。
(はぁ、これってあたしの意識が覚醒してる状態なんじゃないか?あたしの脳はまともに睡眠と休養を取れてるんだろうか…?)
そんな事を考えながら櫻は意識を閉じ、夢も見ない程の深い眠りに戻った。
『フンフン』と荒い鼻息が聞こえる。
何事かと思い目を開けるとそこには、櫻とその身体に抱き付くように眠るアスティアを見守るカタリナの姿があった。
「…何をしてるんだい…?」
「や、おはよう!いやぁ、尊いものを見ると朝から気分が違うねぇ。」
ウキウキとした様子のカタリナから視線を外しテントの中を見回すと、既に日は登っているらしくテントの生地越しにも日差しが見える。
「アスティア、朝だよ。」
櫻に肩を揺すられるとアスティアも眠い目を擦り起き上がり
「あ…サクラ様おはよう。カタリナも。」
と挨拶と同時に大きく口を開けて欠伸を漏らした。
テントを出て朝日を浴び、大きく身体を伸ばすと、アスティアも真似て両腕を上げて全身に陽の光を浴びる。
テントの中が空になったのを確認したカタリナが手早くテントを片付けると、
「ほい、朝飯。これで食べやすい厚さに自分で切って食べるんだよ。」
と、燻製の塊とナイフ、それと革の水筒を手渡された。
「随分ワイルドだねぇ。」
「昨夜みたいな料理はしっかり腰を落ち着けられる夜くらいのもんだ。朝はこの程度で許してくれよ。」
「いや、別に文句がある訳じゃないから気にしなくていいさ。ただ今までこういう経験が無かったから新鮮に感じただけでね。」
そう言って燻製にナイフを入れようとしてカタリナを見ると、全く切り分ける事無く肉の塊にかぶりついて居た。
(あたしはまだまだワイルドとは程遠いんだねぇ…。)
そんな事を考えつつ燻製を頬張り朝の食事を終えた。
櫻の食事が終わると次はアスティアの番だ。
櫻の食事中ずっとその隣りに寄り添うように座っていたアスティアの肩を抱き寄せ、正面に据えると櫻は服をずらし首筋を顕にする。
「さ、おいで。」
優しく声をかけると
「いただきます。」
の声と共にアスティアは櫻に覆い被さるように抱き付き、その首筋に唇を被せた。
チロチロと首筋に舌が這う、くすぐったく、それでいてクセになりそうな快感がゾワゾワとして未だに慣れないものの嫌では無い。櫻もアスティアの背に腕を回し、互いに抱き締め合うようにしながら暫しの間アスティアの吸血が終えるのを待った。
(う~ん、素晴らしい光景だ…。)
カタリナもうんうんと頷きながらしっかりとその姿を目に焼き付けていたのだった。
折角櫻の血を飲んだという事で、少しの間アスティアが荷物持ちをする事となった。その力は凄まじくカタリナでも背負えば歩行速度は落ちていた大量の荷を軽々と持ち上げ、ダッシュするとアっと言う間にその姿が点になる程。
だが精々血の効果は10分程度という事が判ってくる。櫻とカタリナが待ち惚けていたアスティアに追いつくと、既にその荷の重さに動けなくなっていたのであった。
「うーん、飲む量によって効果時間が変わってきたりするんだろうか?」
「どうなのかなぁ?試してみた方がいい?」
「いや、それはまた今度でいいだろう。試すにしても時間を計る方法が無いと話にならないしね…。」
(そういえば時計のような物はこの世界にあるんだろうか?)
櫻が首を傾げて今まで見てきた光景を思い出す。
食堂やギルドといった人が集まる場所ならば時計のような物があれば設置されている筈。しかしそのような物を見た覚えが無い。
「なぁ、この世界では時間はどうやって知るんだい?」
荷を背負うカタリナに問い掛ける。
「ん?あぁ。『刻鳥』っていう、定期的に鳴く鳥が居るんだ。それなりに貴重な鳥で、個人で飼ってる人は余程の金持ち程度だと思うがギルドや時間に厳しい…そうだな、船の運行なんかでは組織で金を出して飼ってるよ。たまに野生のも見かけるけどね。」
「へぇ…随分変わった鳥が居るんだねぇ。ソイツは正確なのかい?」
「まぁ多分ね。刻鳥が狂ったりしたってアタイらには知りようが無いからさ。」
「確かに…。」
(という事は一分一秒という細かい時間の計り方はこの世界には無いのか…。刻鳥ってのもどういう間隔で鳴くのか解らんし、そもそもこの世界が1日24時間で回ってるとも限らんのだよなぁ。うぅむ、地球での常識が邪魔になってくる…。)
頭を抱える櫻をアスティアとカタリナは不思議そうに眺めるのだった。
歩みを進め、超えるべき山が近くなってくると自然とその裾野に木々が多くなり林のようになって来た。一応街道が続いてはいるものの、その道の状態も険しいものになる。
「ふぅ、普通はこの道のりを2日で歩くのか…。」
「何だいお嬢、もうヘバったのか?」
「ははっ、自分でもビックリだよ。まさかこんなに貧弱だなんてねぇ。」
(身体が幼くなった影響なのか、体力が尽きるのが早い!こんな身体でこれから一生…一生?死ぬ事が無いのに一生って言うのかね?まぁ延々生き続ける事になるのか…。なかなかハードだね。)
ふぅ、ふぅ、と息を漏らしながら歩く櫻。
その姿に流石に見かねたのか、カタリナがその身体を担ぎ上げると背負った荷物の上に乗せた。
「お、おい?」
「もう少し行くと湧水のある開けた場所があった筈だ。そこで休憩しよう。」
「あ、あぁ…すまんな。」
櫻の言葉にカタリナはフッと笑みを零すのみであった。
カタリナの言葉の通り、暫し歩くと木々が道を空けるかのように視界が開け、岩の隙間からチョロチョロと湧水が流れ出る小さな広場に出た。
「ここで一旦休憩をして、今晩には山の中腹辺りまで上るとしよう。アスティア、水筒に水を汲んでおいてくれないか。」
「うん、分かった。」
カタリナに手渡された空の水筒を数個握り締め、アスティアが湧水を汲みに行く。
荷と一緒に地面に下ろされた櫻は、カタリナの背で少し休めた事もあり多少は体力が回復していたものの未だに息が整っていないままであった。
(身体の損傷は即座に回復させる事が出来ても、体力そのものは休養が必要なんだね…筋トレでもすれば少しはマシになるんだろうか?しかし成長しない身体で果たして筋肉が発達したりするんだろうか…世界の事も自分の事も解らない事だらけだ。)
そんな事を考えながら草原に身を横たえ空を眺める。そよそよと流れる風に草の香りが乗り櫻の鼻をかすめると、自然と呼吸が落ち着いた気がした。空には青空が広がり雲がゆっくりと流れる。
「お水、汲んで来たよー。」
水筒を両腕で抱えアスティアが駆け寄ってくる。
「あぁ、ありがとさん。アタイは昼飯の調達をしてくるから、アスティアも少し休憩してな。」
カタリナはそう言うと、水筒を荷物の中にしまい、それは放置したままで木々の中へ姿を消してしまった。
「調達…?」
身体を横たえたままでカタリナの消えた方向に首だけを向ける。すると、そこにアスティアが添い寝をするかのように腰を下ろし横たわった。
「えへへ。ボクも一緒に休憩~。」
嬉しそうに言うその声に櫻も何となく笑顔が浮かぶ。
「…なぁ、アスティア。」
「なぁに?」
「あたしは見ての通り身体が貧弱で何の役にも立たない有様だ。神だと言われたって今出来る事はお前さん達の食料になる程度。これから先、もっと沢山の迷惑をかけてしまうかもしれない。」
「突然、何を言い出すの!?」
「いや、黙って聞いてくれ。それでも、あたしに出来る事があるなら出来る限りの事はしたいと思ってるんだ。そしてその為にはお前さん達の力が必要だ。矛盾してるようだがな。そしてお前さん達を使徒にしてしまった手前、離れる事も出来ない。だからね…。」
アスティアの瞳を見つめる櫻の表情は、何処か達観したようにも見える。
「これからの旅路は沢山頼らせて貰う。そして、あたしを沢山頼って欲しい。我儘を言い合えるようになろう。な?」
そう言ってアスティアに微笑みかけた櫻の顔は、笑顔とは裏腹に何処か不安が滲んで見えるものであった。
その苦しげな表情にアスティアは思わず櫻に覆い被さり抱き締める。
「うん。ボク、サクラ様に我儘を言うよ。だからサクラ様もボクにもっと何でも言って。きっと叶えて見せるから。」
そのアスティアの言葉に櫻は抱き締め返し応えたのだった。
「…アタイの居ない処で何やってんの…?」
突然のカタリナの声に驚き二人が跳ね起きる。
その声は怒りでは無く悲しみ。少女達の絡みを見損ねた事への悲哀であった。
「お、おぉ、お帰り。意外と早かったね。」
「あぁ。思いの外早く獲物が見つかったもんでね。」
まだ少し不機嫌な声で手に持っている物を掲げて見せる。
カタリナの手に握られていた物は、ウサギ程の大きさの小動物であった。見た目はリスに似ているだろうか、四足歩行動物特有のシッカリした後ろ足と小さな前足。長い尻尾を掴み3匹ブラ下げて居るが恐らく締めた後なのだろう、それらは微動だにしない。
「それを食うのかい?」
「それ以外に何があるのさ?コイツの肉は臭みが無くて美味いよ~。」
そう言ってカタリナは荷物からナイフを取り出すと、何も躊躇う事無くその皮を剥ぎ、見る間に綺麗な剥き身が出来上がった。
その内の2体に木の枝から削り出した串を打ち、焚き火の用意をする。
「ん?2匹だけなのか。1匹は晩にでも食うのかい?」
「いや、まさか。コイツらは新鮮な内に食わなきゃ勿体無いってもんさ。」
そう言ってカタリナはペロリと舌舐めずりをすると、おもむろに皮を剥いだだけの生肉にかぶりついたではないか。
ブチブチとした音を立て肉が引き裂かれ、まだ内部に溜まっている血液が吹き出すがカタリナは全く気にする事無くソレを咀嚼すると、
「かぁ~!やっぱり新鮮な生肉は堪らないね!」
と満足気に貪り続けた。
見る間に一匹を食べ終えると、そこに残ったのは見事に骨のみ。内臓も脳みそも残さず平らげたのである。お陰でカタリナは返り血で口の回りが赤く染まる有様。
呆気に取られ言葉も出ない櫻。
「わぁ~。ライカンスロープって獲物を生で食べるって聞いてはいたけど、本当にそうやって食べるんだね。でも血がちょっと勿体無いなぁ…。」
溢れて地面に染み込んだ血に、指を咥えて物欲しそうに呟くアスティア。
(気にする処はそこなのか…。というかそうか、あの時の舌舐めずりはそういう事だった訳だ。)
カタリナに血を与えた時の事を思い出し、その時の様子に合点が行った櫻。
「ん?それじゃこの串打ちした2匹は?」
「それはお嬢とアタイで1匹ずつさ。生で食うのは勿論美味いが、焼いた物はソレはソレで別の味わいがあるからね。」
「成程ねぇ。アスティアもあたしの血だけじゃなくカタリナの血を貰ったら違う味を楽しめるんじゃないか?」
「え?」
突然の櫻の提案に驚きの声を上げるアスティア。ちらりとカタリナを見ると『バッチコイ』とばかりに目を輝かせているではないか。しかし…。
「う~ん、ボクはサクラ様の血だけで充分かな。」
と、はにかみ断る。その言葉を聞いたカタリナは見るからに残念そうな表情を浮かべていた。
(まぁカタリナの血は何となくだが脂っこいイメージがあるしね。)
何となしに遠慮した理由を思い浮かべる。
そうこうしていると、火にかけた肉から良い匂いが漂い始めてくる。ポタポタと肉汁が滴り始め、火の中に落ちると『ジュゥ』という音と共に香りが広がる。
「そろそろいいかな。」
カタリナは荷物から木製のボウルを取り出し、肉を串から抜いてその上に乗せ櫻に差し出した。
流石に焼きたての肉は熱くて手掴みでは無理のようで、カタリナも同様にボウルに取ると、これまた木で出来たフォークを取り出し櫻にも手渡す。
「さ、食っちまおう。熱い内に食わないと勿体無いからね。」
「あぁ。頂きます。」
肉の塊にフォークをブスリと刺し、そのまま口に運ぶ。『ムシッ』と骨から剥がれる肉は豚肉のような獣肉と言うよりは鶏肉に近い食感で、直火焼きな事もあり外はカリっとしながら中に行く程レアになっていくが、しっかり火は通っているようだ。
ホフホフと口の中に空気を含みながら熱い肉を頬張ると、肉汁の旨みが頬の内側にジンワリと広がった。
「うん、こりゃ美味いね。何て言う動物なんだい?」
「コイツは『リト』って言ってね。世界中の森に住んでて猟師の昼飯になる事が多いんだ。繁殖力も強いからいくら獲っても居なくならないし、アタイらにとって有り難い存在だよ。」
「へぇ…それじゃこれからも世話になるかもしれないね。」
「あぁ。今回は焼いただけだが、香草と合わせて蒸し焼きにしたりしてもまた別の味わいがある。今度獲る時にでも考えてみるか。」
「それは楽しみだ…と言いたい処なんだが、流石にこの大きさ1匹分はあたしには少し量が多いね。アスティア、食べるかい?」
「え?ボクはいいよ。」
「だよねぇ…済まんがカタリナ、あたしの食べさしだが、食ってくれんか?」
「ん?あぁ問題無いが、何だいお嬢、食が細いねぇ。」
「少なく見積もってもこのサイズはあたしの胃袋と同じかそれ以上だよ…。」
呆れ笑いを浮かべつつ、食事を楽しく終えると少しの食休みを挟んで旅の再開となった。
太陽は既に真上を越え、傾きつつある。超えるべき山はそこまで高い訳では無いものの、未舗装の斜面というのはどうして進みも遅くなってしまうものだ。徐々に周囲の木々が低くなり、生える草花の種類も変わってくる。体力の配分を考えながらゆっくりと登っていくと、カタリナの予定通りと言うべきか、中腹より少し上辺りで周囲が暗くなってきてしまった。
「これ以上暗くなると山道は危険だ。今日はここで休むとしよう。」
カタリナが道から逸れ、適当に平地になっている辺りを見つけるとそこに荷を下ろしテントを用意し始めた。