旅の支度
一先ず使徒に関しての話がまとまると、次は旅の話になる。
「さてお嬢、アタイはアンタの旅に付いて行く事になった訳だが、そもそも目的はあるのかい?」
カタリナが小さく櫻を指差し問い掛ける。
「目的と言うか、取り敢えず精霊に会いに行けと言われているな。カタリナは精霊ってのが何処に居るか知ってるかい?」
「精霊と一概に言われてもねぇ…小さな精霊ならその辺にだって居るだろうし、漠然としすぎてて何て答えればいいんだか。」
「ん…?そういうものなのか…?いや、確か『主精霊に会いに行け』と言っていた。主精霊ってのは解るか?」
「あぁ、それなら有名だからね。でも正確な場所までは知らないよ?ここからだと近いのは風の精霊か水の精霊だね。」
そう言ってカタリナが懐を弄ると、服の内側からヨレヨレになった地図を取り出した。
それを広げて見せると、
「ほら、ここが今居る辺りだ。」
と指差して見せる。
恐らく世界地図であろうその上では、ファートの町はやや右下にある小さな島の中のほんの点でしかなかった。
(空から眺めた景色は島というには広い場所だと思ったものだが、全体からするとこんなにも小さいものか…まぁ日本も生きる分には充分に広い土地であっても世界から見たら小さな島国だったし、そんなものなんだろうね。)
改めて世界という規模の大きさを実感する櫻。
「で、水の精霊ってのがこの辺に居ると言われてて…。」
カタリナが指差す。するとそこは地図上では海しか見当たらない。
「一応聞くけど、この地図に載ってない土地がここにあったりは?」
「無いと思うね。水の精霊ってくらいだからやっぱり水の中に居るって事なんじゃないかな?」
「…やっぱりそうだろうねぇ…。」
その位置は陸地から結構な距離のように見える。恐らく水深もかなり深い筈だ。死なない身体であっても流石にそんな場所を闇雲に探すのも辛い。
「うん、そっちは後回しだな。」
「それじゃ次は風の精霊だね。風の精霊はこの辺りに居るって言われてる。」
次にカタリナが差したのは、この島とは海を挟んで右側に広がる大陸、その北部だ。この世界は川の字のように巨大な大陸が並んでおり、その周囲にこの島のような規模の群島が点在しているような姿をしていた。
「ふ~ん?参考までに聞きたいんだが、他の主精霊というのはどの辺に居るか解るかい?」
「あぁ。ここが光、ここが火でここが土にここが闇。」
転々と、風の精霊の位置から反時計回りに指差していくと、その配置は世界を一周するように六角形を描いている事が解る。
(地図上で見ると光と闇が其々北極と南極って感じか…地球の常識で考えれば極寒地域になるが、もしこの世界でも同じような法則ならかなり辛い旅になるな。)
「…ところで今更になるが、主精霊ってのは何なんだい?精霊というもの自体はその辺にも居るみたいな事をさっき言っていたが。」
「主精霊っていうのは精霊達の元になった6体の事だよ。」
話から溢れていたアスティアが、ここぞとばかりに入って来た。
「元?」
「うん、世界には様々な精霊が居るけど、例えばエルフ族を生み出したとされる樹木の精霊は光、風、土、水の精霊の協力で生み出されたって言われてるんだ。そういう風に主精霊達が力を分けあって子供達を生み出して、世界を作り上げていったって言われてるんだよ。」
「へぇ。アスティアは物知りだね。」
「えへへ、そうでもないよぅ…。」
櫻に褒められアスティアは顔を赤らめ笑顔を浮かべた。
「つまりは主精霊ってのがこの世界を構築した根源の存在って事なんだね。成程、確かに神として挨拶くらいはしておかなきゃならんか。」
『ふむっ』と鼻息を鳴らし、主精霊参りの意味を確認する。
「それじゃ、風の精霊に会いにいく事を当面の目標にしようかね。」
「あぁ、それが一番手っ取り早いだろうね。」
「いよいよ旅に出るんだね!ボクこの島から出た事が無いから楽しみだなぁ。」
唐突に死に、異世界で神になる事を半ば強制されて降り立った土地であったものの、これからの三人旅に櫻の心は好奇心を刺激され、その瞳には輝きが宿っていた。
「…それは兎も角として、旅をするならそれなりに準備が必要と思うんだがね…何せあたし達には蓄えが無い。カタリナ、済まんがここでも頼らせてくれんか?」
浮かれかけた心に自制をかける。すると、
「あぁ、それなら…。」
とカタリナが再び懐から取り出したのは、先程ギルドで見た書類だ。
「コイツは元々アタイら三人で分け合うモンだからね。これだけの額がありゃ余程の贅沢でもしない限りは当面は困らないよ。」
カタリナが自慢気に書類を突き出してくるものの、櫻にはそこに書かれている事が何も解らない。
「済まんが、あたしはまだこの世界の文字が読めないうえに貨幣価値も理解していないんだ。アスティア、よかったら説明してくれないかい?」
「…!うん、任せて!」
櫻に頼られアスティアの瞳が輝く。
「まずここに書かれているのは、魔獣討伐の確認と、それに貢献した者としてカタリナの名前がコレね。」
書面を指差し細く白い指が文字をなぞる。
「で、その下にギルドの偉い人達のサインが入ってて、その下には報奨金の金額が書き込まれてる。コレね。」
そう指すのはどうやら貨幣の絵のようだ。三色六種の貨幣が描かれており、その横に恐らく数字に該当するであろう文字が書かれている。
「えっとね。貨幣は銅・銀・金貨があって、其々小と大があるんだ。10小銅貨で1大銅貨、10大銅貨で1小銀貨っていう風に価値が高くなっていくよ。」
(成程、桁で貨幣が変わるのか。となると、一、十、百…大金貨だと10万か!日本じゃ10万円紙幣なんて無かったから何か凄いな!)
「ほう、成程なぁ。これは解り易い。」
「うん、簡単でしょ?それでコレが其々の貨幣何枚を貰えるかっていう数字。この書類だと大金貨の所に『5』って書いてあるから、この討伐の報酬は大金貨5枚!」
「ほ~、あの一体で50万円か…。」
「50マンエン?」
「あぁ、いや、こっちの話だ。すまんな話の腰を折って。」
「?うん。それでこの下に…ってあれ?」
「どうした?」
「カタリナ、これ、受け取り印にサイン入ってないけど、まだ報奨金は受け取ってないの?」
アスティアがカタリナを見上げて首を傾げる。
「あぁ。こんな大金を直ぐに受け取っても持ち歩くのは危ないしな。必要になってから受け取ろうと思ってたんだが、分け前と旅支度で入り用だしこれから貰いに行くか。」
カタリナが手に持った書類をくるくると丸め懐へしまう。
「またギルドへ戻るのかい?」
「あぁ、二度手間になっちまうが一緒に来て貰えるかい?どうせだから受け取ったらそのまま買い出しに繰り出そうじゃないか。」
「それはいいが、また担がれるのかい?」
「嫌だったかい?」
「いいや、あたしゃ楽で良かったがね。アスティアはどうにも結構恥ずかしかったようだし、せめてアスティアの足に合わせて歩いてくれればいいよ。」
そう言ってアスティアを見ると、担がれて町の中を駆け抜けた際に町の人々の衆目を集めた事を思い出しモジモジと顔を赤らめる。
そんな恥じらいの姿にカタリナの胸がときめくが、表面上は平静を装うと
「あ、あぁ。そういう事なら解ったよ。まぁそれ程急ぐ事でも無いし、ゆるりと行こうじゃないか。」
と膝をポンと叩き立ち上がった。
再びギルドへ向かう道中。
「それにしても魔獣討伐の報酬なんてのが出るなら、昨日森の中で倒したヤツも報告すれば良かったねぇ。」
櫻が昨日森の中で出会いアスティアが倒した魔獣を思い出し口にする。
「何!?アタイが倒したヤツの他にも同じ日に魔獣が出たのか!?」
カタリナが驚きに満ちた声を上げた。
「あぁ。あたしがアスティアと出会った森で遭遇してね。知っての通りあたしの血で強化されたアスティアが倒した訳だが、その時はそんな制度があると知らなかったもんだから放置して来ちまったよ。」
「何て勿体無い…いや、それよりも1日に二体も魔獣が現れるなんて、何かの前触れじゃなければいいんだが…。」
(そういえばアスティアも二体目の魔獣が現れた時には驚いてたね。そんなに珍しい事なのか…。)
「でも魔獣討伐で報酬を貰うには、集落に被害が及びそうな場合か、目撃情報を元にギルドとかから派遣された人達、あとは魔物ハンターの資格を持つ人が倒すんじゃないと駄目なんだよ。」
アスティアが口を挟む。
「へ?そうなのかい?」
「ん?あぁ。そうでもしなきゃ、何処かの誰かが倒したものを勝手に自分の手柄にするヤツが出てくるからね。」
「確かに言われてみればそうだが、それだと苦労して倒しても倒し損だねぇ。」
「まぁそういう場合は、せめて勿体無いと思うなら肉を食って腹のたしにでもするか、毛皮や骨なんかの使えそうなモノを回収するくらいはしても良いかもしれないね。」
「魔獣ってのになった動物を食べても身体に害は無いのかい?」
「あぁ。魔物ってのは元々普通に生活している生物に魔界の瘴気が入り込んで変化するものなんだが、その瘴気は取り付いた生物の生命活動が停止すると抜けちまうんだ。だから変化した見た目は戻らないが成分的には元の獣と大差ないんだよ。それ処か爪や牙、骨や皮膚、毛皮なんかは強靭になっていたりするから、普通の獣を狩るよりも良い素材が手に入ったりする利点すらある。」
(今カタリナも『魔界』と言ったな…。ファイアリスの話では瘴気は世界の『裏』から漏れ出すと言う事だったが、人類の間ではソレが魔界という扱いになっているのか。それで『魔物』な訳か、成程。)
「ふぅん…危険な存在とは言っても、この世に不要という訳でも無いって感じなのか。成程、出現数が少ないという割りに魔物ハンターなんて仕事が存在するのもそれに見合う価値があるからなんだろうね。」
「そうさ。魔物はアタイら魔物ハンターの飯の種でもあるしね。そこそこには出てきて貰わないと困るってもんさ。」
カタリナは自らの脇腹の辺りをパンと軽く叩いて見せる。恐らく懐にしまってある財布でも叩いて見せたのだろう。
そんな事を話しながら歩いていると、一度通り少し馴染んだ道の先にギルドの壁が見えて来た。
ギルドでの報奨金の受け取りは何の問題も無く無事に終わり、カタリナの手の中に大金貨4枚と小金貨10枚が輝く。
「ほい、これがお嬢とアスティアの分。」
そう言って大金貨1枚と小金貨5枚を其々に手渡すカタリナ。
始めて金貨を手にする櫻は、想像よりもズシリとした重さに思わず手が下がる。
「おっと、意外と重いもんなんだね。」
「だろ?こんなのそう何十枚も持ち歩くのは面倒だから、必要になる時までは受け取りを保留しておくもんなんだよ。」
そうは言うものの、チラリと見えるカタリナの強靭な腕はそんな硬貨の重量など無いに等しいかのように充分に膨らんだ革袋の中にジャラリと音を立て金貨を仕舞い込んだ。
「ボクお金を貰うのなんて何十年ぶりかなぁ…ありがとうカタリナ。」
手の中に輝く金貨にアスティアの瞳も輝いて見える。
「ははっ!これはアスティアが腹に穴を開けてまで頑張ったから貰えた金だ、礼なんて要らないよ。」
「そうだねぇ。むしろあたしがアスティアと同じだけ貰うのが割に合わないってくらいだ。何ならあたしの分もやるよ?」
「そ、そんな!ボクの方こそサクラ様にあげるよ!」
「いやいや、あたしは血をあげるくらいしか出来ないんだ、せめてコレくらいは…。」
「ボクだってサクラ様に血を貰えるだけでも有り難いのに、お金まで貰えないよ!」
そんな謎の譲り合いをカタリナは呆れた顔で眺めていた。
結局双方カタリナに渡された分を素直に受け取る事で話は収まり、いざ旅支度の為の買い物へ出掛ける事となった。
「まず、風の精霊の所に向かうとなると、ここから東に向かって山を超えて向こうにある港町の『ミウディス』で船に乗って海を渡るのが通常考えられるルートだね。普通に考えると2日くらい掛かる道のりだが、お嬢とアスティアの足を考えて3日を想定して食料と…念の為に外套とかも買っておいた方が良いかもしれないね。」
「ほ~、外套…。」
櫻の脳裏にシンプルな立て襟の、黒に裏地が赤のマント姿が浮かぶ。
「何となくアスティアに似合いそうだね。」
「え?何で?」
「いや、深い意味は無いんだ、気にしないでくれ。」
そう言ってハハと笑う櫻にアスティアは首を傾げるのだった。
周囲を見回しながら歩く一行は、ようやく旅道具を取り扱う店へと辿り着いた。
「お、ここなら必要な物は揃えられそうだな。」
カタリナが迷い無く店の中へ足を向けると、櫻とアスティアも親鴨に続く子鴨のように列になり後に続いた。
店内には様々な旅の道具が並び、目当ての外套だけでも様々な色やデザインの物が存在し、他にも革製のカバンや軽量の防具のような物まで置いてある。
櫻が意外だったのは、金属で出来たキャンプ道具のような鍋やナイフまで揃っている事だった。
(へぇ…地球に比べて文化レベルは低いものと思っていたが、金属加工なんかは大差無いレベルじゃないか…どういう文明を経てこうなったのか興味は尽きないねぇ。)
見る物全てが珍しく、店内をキョロキョロと見回す櫻の姿は傍から見れば親に連れられて買い物に来た小さな子供そのものであった。
「おーい、お嬢、アスティア。まず外套選んじまおうよ。」
カタリナの声に本来の目的を思い出しハッとする櫻。
「あぁ、そうだったね。」
慌てて外套コーナーへ向かうと、その種類に目移りしてしまう。しかし…。
「あたしに合うサイズのが殆ど無いねぇ…。」
そう、子供サイズの外套は余り種類が無かったのだ。そもそも子供が旅をする事自体この世界では珍しいのかもしれない。
「まぁこの際デザインはどうでもいいか。ようは実用性があるかどうかだし…。」
そう言って自分に合うサイズの外套を物色するのだが、そのデザインが余りに実用性とはかけ離れた、子供向けの可愛さを重視した物ばかり。中には外套としての役割りを全う出来ないのではないかという編み目構造の物まで存在する始末だ。
その中で出来るだけまともそうな物を選んだ結果…。
「ぐぬぬ…仕方無い、これで妥協しようじゃないか…。」
それはイメージしていたマントのような外套と言うよりは、まるで子供用の雨合羽のように黄色く、袖とフードの付いたデザイン。ダメ押しとばかりにフードには猫耳のような装飾まで付けられていた。
(これ材質は革で、何かを表面に塗って撥水加工がしてあるのか…ビニールのような素材は存在しないようだな。)
マジマジと黄色い外套を眺める横で、アスティアもその様子を窺いながら自分用の外套を選んでいた。
「…じゃぁ、ボクはコレにするよ。」
アスティアが手に取った外套、それは櫻の選んだ物とはサイズと色が違うだけの同じデザインの物であった。
可愛らしいピンク色のソレを広げて櫻に見せると、
「サクラ様とお揃いだよ。」
と嬉しそうに言う。
櫻に気を遣ったとも取れるし、アスティア自身が櫻とお揃いの物を選びたかったのかもしれないが、そのアスティアの笑顔は櫻の気持ちを和ませるには充分であった。
カタリナは元々旅に使用していた外套があった為に新調する事は無かったが、他にも肩掛けカバンや小さい汎用ナイフ等、様々に入り用な物を購入。
思いの外出費がかさんだものの手持ちにはまだ余裕がある。
櫻は町並みを眺めている時に、町の住人、特に女性を見ていて思う事があった。
それはアスティアの髪の飾りっけの無さだ。最初にアスティアを見た時には気にならなかったのだが、町の女性達は思い思いに髪型をアレンジしたり小物でアクセントを付けたりと、この世界にもそういう文化がある事が解ると途端にアスティアの質素さが目立つ。
折角綺麗なサラサラの金髪が、無造作に風になびく姿は少々物寂しい。櫻は周囲を見回し、手頃な生地を見つけるとこっそりと店主に声をかけた。
「この生地をこのくらいの幅でこのくらいの長さにして、いくらになる?」
「このくらいなら大銀貨1枚ってところかね?」
手の中に残る貨幣をジャラリと鳴らし、
「じゃぁそれを貰おうか。」
「はい、ありがとう。一人で買い物出来て偉いね、お嬢ちゃん。」
店員にそう言われ、何かを言い返そうかとも思ったものの、店員に悪気は無いと思うと言葉を飲み込み品物を受け取った。
旅支度でかなり時間を取られた事もあり、出発は明日以降にするとして食堂に立ち寄り夕飯を食べると、再びアスティアの屋敷へと戻る。
アスティアの部屋へ入ると荷物を置き、櫻とアスティアはベッドに腰掛けカタリナは床に座るという、最早定番のポジションに位置取った。
「アスティア、ちょっとこっちにおいで。」
櫻はそう言ってアスティアの両脇腹に手を添えて引き寄せるように力を込める。
「うん?」
アスティアもその手に導かれるように櫻の傍へと身を寄せると、
「ちょっとそっちを向いててくれるかい?」
櫻はアスティアの両耳にかかる髪の毛を掬い上げ、三つ編みを二本作り上げるとソレを後頭部まで持ってきて懐から先程買った生地を取り出した。
そしてその三つ編みに生地を絡ませ結び上げると、可愛らしい大きなリボンが出来上がりアスティアを飾った。
「へぇ、いいじゃないか。」
カタリナもその出来栄えに声が弾む。
「え?どうなってるの?」
頭の後ろに手を添えてアスティアが困惑する。
「ふふ、そこに鏡があるじゃないか。見てごらんよ。」
櫻の言葉に促されアスティアが頷き、鏡の前へ立つと背を向け振り返る。
「わぁ…。」
そこに映るのは、明るい真紅の大きなリボン。
「どうだい?折角可愛い女の子なんだ、これくらい飾っても煩くないだろう?」
カタリナに問い掛けると
「あぁ、いいねぇ。アタイももっと可愛い服を見繕ってあげたくなるよ。」
と笑顔で意気投合だ。
すると突然アスティアが櫻に飛びかかり、身体を抱き締めた。
「サクラ様…ありがとう!ボク、このリボン大事にするよ!」
「おいおい、大げさだねぇ。本当はもっと良い物をと思ったんだが、このくらいしか選べなくて済まないね。」
「ううん、そんな事無いよ。サクラ様からのプレゼント、ボク凄く嬉しい。ありがとう!」
そう言ってアスティアは櫻の唇に唇を重ね押し倒した。
(おおおぉぉおぉぉーーー!!??)
カタリナが声にならない声で拳を上げ立ち上がり二人を凝視する。
「ぷぁ、こ、こら。そんなに喜んで貰えるのは嬉しいが、落ち着け。」
慌てて唇を離しアスティアを制止する櫻。その声にアスティアも我を取り戻し慌てて身を離すと、ベッドに倒れたままの櫻の手を取り引き起こした。
「ご、ごめんなさい。あんまり嬉しくてつい…。」
(この娘は何と言うか…目の前の事に集中するとすぐ飛びかかる猫みたいな習性があるのかね?)
森での吸血の事を思い出しそんな事を考える。
「まぁ、喜んでくれて何よりだよ。それはあたしからの『これからよろしく』だと思ってくれればいいさ。」
「…うん!これから末永くよろしく!」
そう言うアスティアの表情はとても輝いていた。