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同行の条件

 あっという間にアスティアの屋敷前まで到着したカタリナ。

 身を(かが)め片膝を着くと、その両肩から櫻とアスティアが軽やかな身のこなしで地面に着地する。

「ありがとう、本当に早く着いたよ。」

「どういたしまして。それで?話だけならここでも周囲に人影は無さそうだけど。」

「いや、ここまで来たんだから屋敷の中で話そう。」

 そう言って櫻は、まるで早く身を隠したいかのように足早に屋敷の中へ駆けて行く。アスティアがその後を小走りに追いかけると、カタリナも続いた。


 アスティアの部屋へ戻ると、昨日と同じように櫻とアスティアはベッドの上、カタリナは床に座り向き合う形になる。

「で、少し考える猶予を貰ったと思ったんだが随分と急に来たもんだね?何かあったのかい?」

 カタリナが当然の疑問を口にする。

「あぁ…これはあたしも昨晩知った事で、決して隠していた訳では無いという事は解って欲しいんだがね…。」

 櫻はそう前置きをしてから、昨晩ファイアリスに聞いた神の血肉を得る事の代償についての説明をした。

「…そんな訳で、知らなかったとは言えお前さんには取り返しのつかない事をさせてしまった…アスティアも、本当に済まない。」

 櫻は床に降り、二人に向かい深々と土下座をした。それはそうだろう。アスティアは旅の同道を承諾してくれたうえに日々の食事として血液を与える為それ程深刻な事では無いとは言え、そんなリスクがある等聞かされて居なかった。カタリナに至っては使徒となる事すらも寝耳に水だった所にこんな事を聞かされては不条理も甚だしい。

「あたしにはお前さん達を使徒とした責任がある。出来ればどんな事でもして償いたい処だが、神としてこの地に降りた以上はその務めとして世界を巡らなきゃならん。カタリナ…本当に済まんとは思うが、あたし達と旅を共にしてくれんか…?」

 申し訳無く神妙な櫻。そんな様子を見てカタリナが頭を掻く。

「…はぁ。確かに今の話は余りに不条理で、アタイもちょっと怒りが湧いたね。」

「ちょっと!サクラ様がこんなに謝ってるのに!」

「いや、いいんだアスティア。あたしは罰を受けても仕方無い事をした。カタリナの気の済むようにさせたい。アスティア、お前さんもあたしに(いか)る権利があるんだぞ?」

「そんな!?ボクはサクラ様と一緒に居られる理由が増えて嬉しいくらいだよ!?」

 二人のやり取りをカタリナが眺める。

 するとカタリナは『ポンッ』と膝を叩き

「なぁお嬢ちゃん。出来る事なら何でもしてくれる覚悟があるんだよな?」

 何処か不敵な笑みを浮かべそう言った。

「…?あ、あぁ。あたしの役割りが阻害されないのであれば、な。」

「ふん…お嬢ちゃんは確か、人の心の中を覗けると言っていたね?それならアタイが何を望んでいるかを見てごらんよ。そしてソレを受け入れるって言うんなら、使徒になった件についてはチャラにしてやる。」

 カタリナは櫻の言った読心術の真偽を確かめると共に、櫻の覚悟を試す為に敢えて言葉にせずこのような方法に出た。

「…解った。それじゃ覗かせてもらうよ?」

 どんな無理難題を押し付けられるのか、櫻は不安が渦巻く中カタリナの心の中を覗き込む。すると…

「…!?」

 櫻の目がまん丸と見開かれ、その表情は驚きと呆れで間の抜けたものとなった。

「いや、ちょっと待て…。あたしはこれでも良い。でもアスティアを巻き込むのは…。」

「サクラ様、どうしたの?ボク、サクラ様の為なら何でも我慢出来るよ!?ボクが必要なら遠慮しないで言って!」

 思わず蟀谷(こめかみ)を押さえ困惑する櫻を見てカタリナも驚きの表情を浮かべる。

「へぇ…心を読む事が出来るってのは本当だったんだね…。」

「あぁ。それじゃ確認も兼ねて、お前さんの望みをアスティアにも聞いてもらおうか…。アスティアにはそれを拒否する権利がある。アスティアがそれを拒否した場合には妥協するか、別の案を出してくれると有り難い。」

「まぁしょうがないね。」

 カタリナも無理強いをするつもりは無いようで思いの外素直だ。

 そうして櫻の口から語られたカタリナの要望は大きく三つ。


① アスティアの食事、つまり吸血の際にはカタリナがそれを眺める事を許可する。

② 櫻とアスティアをカタリナの着せ替え人形とする事を許可する。

③ カタリナの入浴時は櫻とアスティアも一緒に入る。


 というものであった。

「へ…?そんなのでいいの…?」

 櫻の口から語られたカタリナの要望に、アスティアが拍子抜けしたような声を漏らす。

「そんなの…って、あたしは兎も角アスティアは完璧に巻き込まれてるだけなんだよ?嫌なら嫌ってハッキリ言いなよ?」

「ん~?別に嫌がる程の事じゃないと思うけどなぁ?血を飲むのを見られるの別に恥ずかしい事じゃないし、普段はこんな服ばかり着てるけど色んな服を着るの嫌いじゃないよ。それにお風呂はみんなで入った方が楽しいじゃない。」

「そ、そうかぃ?お前さんがそう言ってくれるなら有り難いし助かるんだが…それじゃソレを了承するという事でカタリナ、お前さんは旅に同道してくれるという事で良いんだね?」

「あぁ。こんなに簡単に話がまとまってくれるのは助かるねぇ。これからの旅は楽しそうだ!」

 上機嫌なカタリナと、条件に拍子抜けし安堵の表情のアスティア。そんな二人を見て櫻も一先(ひとま)ず胸を撫で下ろすのだった。

「そういえばカタリナ。お前さんは魔物ハンターという職業らしいが、この辺の者じゃないんだろう?町を渡り歩いてるのかい?」

「ん?あぁそうだよ。アタイはギルドに所属してるけど、魔物の発生なんてそんなに多くないからね。自分から探しに行かないとなかなか見つからない事もあって色んな町を巡ってるのさ。」

「そんな不安定な仕事を何で選んだんだい?」

「一つは一攫千金狙いかな。魔物の討伐は賞金が高いんだ。それを一人でやれれば一気に大金が舞い込む!その快感が堪らないんだよねぇ。」

「ほ~。一つは、という事は他にも目的があるのかい?」

「あぁ。更に一つは自分を鍛えられる事。アタイの種族、ライカンスロープは元々身体能力が高い種族だけど、アタイはそれを活かしてもっと強くなりたいんだ。特にどこまで強くって目標は無いけど、強くなれるだけなりたいって感じかな。」

「随分と()ての無さそうな目標だねぇ。」

「最後は、色んな土地を巡ると色んな人や景色に出会える、旅の楽しさってヤツだね。そのお陰でお嬢ちゃんやアスティアちゃんに出会えたとも言える訳だ。」

「成程ねぇ。ところでその『お嬢ちゃん』ってのは一体何なんだい?」

「ん?あぁ、昨日アンタ自身が言ってたじゃないか、『さる貴族の令嬢だ』って。」

「いや、あれはあの場を誤魔化す単なるでまかせで…。」

「んな事ぁ解ってるさ。でも見た目だって整った顔立ちに綺麗な真っ白い髪で如何にも特別な感じだし、喋ったり作法さえ見られなきゃお嬢様ってのは十分通じると思うけどね。」

「そりゃどうも。だが恐らくだがあたしはこう見えてもお前さんより歳上なんだ、ちゃん付けはどうにもくすぐったくてしょうがないんだよね。」

「へぇ?そりゃ意外だ…だがまぁ神様ともなれば人の常識なんて通じないのも道理なのかね?」

 カタリナはそう言って顎に手を当て少し考える。

「…それじゃぁ、『お嬢』と呼ぶ事にしようか。」

「あまり変わらんじゃないか。何でアスティアは名前で呼んであたしはお嬢なんだい?」

「う~ん、何でだろう?単純に最初のイメージかねぇ?あの血を与えられた時に受けた印象が、気の強いお嬢様って感じがしたんだ。だからアタイの中でそんなイメージが固まっちまったんだろうね。」

「…ま、それでもいいか。何はともあれこれから宜しく頼むよ、カタリナ。」

「こちらこそ。アスティアちゃんも、これからよろしくな!」

「う、うん。こちらこそよろしく。でもボクも『ちゃん』は要らないかな?一応歳上だし…。」

「え!?そうなの!?こんな見た目でアタイが最年少かい…世界は広いねぇ…。解った、それじゃアスティアと呼ばせてもらうよ。」

「うん、いいよ。ボクもカタリナって呼ばせてもらうね。」

 こうしてカタリナに使徒として旅の同道を承認してもらう事に成功した櫻。

(やれやれ、世直し旅にお供が二人…(すけ)さんと(かく)さんを得たようだねぇ。)

 そんな事を考えながら二人のやり取りを眺めるのだった。


「さてカタリナ、早速なんだが頼みがあってな。」

 櫻がベッドの上へ座り直す。

「ん?何だい改まって。」

「先程説明した通り、定期的にあたしの血肉を得ないと使徒は禁断症状を起こすという事らしいのだが、実際どの程度の期間摂取を絶つ事によってソレが起きるのかが解らない。そこで物は試しという事で、カタリナには済まないと思うが一度禁断症状とやらが出るまであたしの血肉の摂取を絶ってみて欲しいんだ。」

「それはまぁ…確かに知っておくべき事ではあるな。でもそれが個人差があったり、下手をすれば摂取の頻度によって依存度が高まって間隔が短くなるようなものだったら、一度試した程度じゃ参考程度にしかならなくないか?」

「まぁね。だが個人差があるとしても、その対象はお前さんだけのようなものだし、それこそ先ずは試さないと間隔が短くなるかどうかも解ったものじゃないからね。やらない理由が無いって訳だ。」

 カタリナは少し考える。

「…ま、そうだね。アタイも自分がどうなるか解らないのは不安の種だ。いいよ、試してみよう。」

 こうしてカタリナの櫻絶ちが始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆ハッピーですし、尊いです〜 というか、カタリナさんは完璧に自制できるプロですね!夜這いとか要求しないとは(笑)
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