台地の死闘
崖の上の台地には一つの小さな人影。櫻がポツンと佇む姿が在った。
(ふふ…意外と緊張するもんだね…。)
陽の光は温かく、風通しの良い衣服を着ているにも関わらず体温の上昇を感じると言うのに、思わず冷や汗が浮きブルルと身震いをしてしまう。
周囲を見回すが台地が広がる以外には誰の姿も無い景色を眺めると、ふぅと一つ溜め息を吐いた。
それはほんの1鳴き程前…。
「来て貰うって、待ち構えるのかい?」
「そ。魔獣とは言っても基本的には元の獣の習性が根本に有るからね、グイルィの場合は餌に困らない限りは活動の場をそこまで大きく外れる事は無い。恐らくコイツ等もそれを知ってたから活動範囲であるこの上で戦ったんだろう。」
並べられたハンター達に目を向ける。
「つまり餌を用意して待っていれば向こうから来てくれると言う事か。」
「そういう事。それでその餌っていうのは…。」
「まぁ当然、あたしだろうね。」
櫻は『はぁ』と諦めに似た溜め息を漏らし、困ったような笑顔を浮かべた。
「話が早くて助かるねぇ。」
「前にも釣り餌役はやったからね。こういう手が有ると解ればそりゃぁ想像に難くないさ。」
やれやれと首を振って見せると、カタリナも苦笑いを浮かべて見せた。
「だ、駄目だよ!またサクラ様を危ない目に遭わせるつもり!?」
「そうです。ご主人様を危険な目に遭わせるのは私も賛成出来ません。」
アスティアと命は櫻とカタリナの間に入ると櫻を庇うようにその姿をカタリナの視界から隠した。
「いや、だってさ…小さい子供の、しかも女の子の肉は肉食獣の大好物だ。お嬢以上に餌に適してるのは居ないよ?」
「それならボクだって、ミコトだってギリギリ囮は出来るじゃない!カタリナはスジっぽいから無理かもしれないけどさ…。」
「ちょっ!それはアタイだって傷付くよ!?」
普段は筋肉をこれ見よがしに自慢するカタリナであったが、女扱いされない事にはショックを受けるらしい。
そんなやり取りに少しばかり張っていた気が緩み、櫻の表情から険が取れると目の前のアスティアと命の腰にポンと手を添えた。
「二人共有り難う。でも大丈夫だよ。あたしは死なないからね。あたしとしちゃぁ、二人が囮になって怪我をしたりする方が嫌だ。だからこの案はあたしが受けるよ。」
「サクラ様…。」「ご主人様…。」
二人の心配する声が重なる。
「なぁに、一度見た事の有る相手なら何とかなるさ。それにあたしも以前の何も出来ないあたしじゃない。」
そう言うと櫻は掌に風を巻き起こし、ニコリとして見せた。
「う~…サクラ様がそう言うなら…本当は嫌だけど、解ったよ…。」
プゥっと頬を膨らませるアスティア。
「なぁに、餌にはなって貰うけど別にお嬢に危険な目に遭って欲しい訳じゃないんだ。獲物が掛かったらアタイが飛び出してやるさ。」
グッと腕に力を込め力こぶを作って見せるカタリナ。しかし櫻はそんなカタリナに首を横に振って見せた。
「いや、あたしだけで良いよ。」
「「え!?」」
思いがけぬ櫻の言葉に三人が揃って驚きの声を上げる。
「何言ってんだいお嬢!?」
「何って、餌で誘き寄せるってのは本来相手の油断を誘う方法だろう?上は隠れる場所も無いような台地だよ?カタリナが居たらいくら猪突猛進な魔物だって警戒しちまうだろうさ。」
「それは…。」
櫻の指摘にグッと言葉を飲む。
「それにこんな開けた場所で相手が一体なら、あたしが全力を出しても周囲に被害が及ぶ事も無い。一人で行く方が理に適ってるのさ。」
「…確かに、お嬢の能力を全開で使えるなら並みの魔獣程度なら余裕か。解ったよ、お嬢に任せる。でも油断はするなよ?」
「解ってるって、心配性だねぇ。」
「あぁ、後、出来たらなるべく傷付けずに倒してくれると助かるね。金と食糧が同時に手に入って助かる。」
「…お前さん…あたしの身を案じるならそれは思ってても言うもんじゃないよ…。」
櫻は呆れ顔を浮かべ、ハハと軽く笑いを零すのだった。
頭上のケセランをアスティアへと手渡すと
「さて、それじゃ行って来るよ。」
櫻の衣服が風に靡き身体がふわりと地面から離れる。
「サクラ様、気を付けてね?」
「ご主人様、ご武運を。どうかご無事で。」
心配するアスティアと命へ微笑みを向けると、櫻はカタリナへ一つ頷いて見せ、その身を跳ね上げ瞬く間に地面が遠のいた。
ハンター達が倒れていた台地へと降り立つと空を見上げる。上空には魔物ではないグイルィ達が獲物を探して鳴き声を上げながら旋回を続けている姿が確認出来たが、視認出来る限りには魔獣の姿は見受けられなかった。
ふと地面に目を向ける。少し離れた場所には既に地面に染み込み乾燥した血溜まりの跡。櫻はツカツカとその場に近付くと片膝を着きソッとその痕跡に手を添え瞳を閉じ神経を研ぎ澄ませる。
(…居ない…か…?)
精霊を感じ取る要領で犠牲者の魂を感じ取ろうとした櫻であったが、知覚する事は出来なかった。だがその時、櫻自身もそれが何かはハッキリとしない感覚がその方角を指し示した。
「…あっちか?」
感じるままにその方角へと足を向けると不意に身体の中へ何かが引き込まれるように入るのが判った。
(そうか、仲間が居る場所を教えてくれたのか。)
身体の中に居る魂が仲間の魂を迎えに向かわせた事を理解した櫻は、そのままの感覚に身を任せ再び先程のように足を動かすと程なくしてまた一人の魂を迎え入れる。
しかしその二人目を迎え入れた後はピタリと感覚が働かなくなった。
(…?二人だけなのか?最低でも後二人の犠牲者が居たが…全員が全員、地に留まる訳では無いという事かね?まぁそれならそれで良い事だ。)
口元に手を添え『ふむ』と頷くと、
「さて、それじゃぁ仇が来るまで待たせて貰うとしようかね。」
身の内に吐き出される負の念に流されないように明るい声を上げ、ググッと腕を空へと伸ばし気合を入れるのだった。
そうして時が経つ。
「…まだ来ないのかい…いい加減暑さで参っちまいそうだよ…。」
(麦わら帽子みたいなモンでも有れば良かったんだけどねぇ。流石に旅に必要とは思わなかったから買ってなかったのは失敗だったか。次の町に着いたらカタリナに買って貰おう…。)
暑さに参りかけ、肩をガクリと落としたその時。
(…?)
突然周囲の風の音が大きくなったように感じ、辺りに目を向ける。
(風が出て来たか…?いや、違うな。)
空を見上げると先程まで上空で旋回し、けたたましく鳴き声を上げていたグイルィの群れが姿を消していたのだ。そしてその理由は直ぐに理解出来た。
高速で接近する巨大な影が櫻の頭上へとその姿を現し、その巨体に見合わぬ小回りで櫻の上空を旋回し始めたのだ。
「やっと来たかい。待ちかねたよ。」
その姿にニヤリと笑みを浮かべると、蟀谷から一筋の汗が垂れる。
魔獣はその強大な力を得ても尚、獣としての本能なのか周囲を警戒するように旋回を続けていたが、獲物が眼下の小さな動物だけだと認識すると両足の爪を大きく広げ急降下して来た。
その速度はまさに一瞬と呼べる程に距離を詰め、櫻の視界が魔獣の足の指一本で埋まる程の接近を許してしまう。
(早い…!?)
想像以上の俊敏さに驚きつつも、地面を蹴り後方へと飛び退くと同時に、櫻は自身の周囲に風の壁を巻き上げ、済んでの処で鋭い爪を弾き上げた。
そして接近されて気付くその魔獣の大きさ。
姿こそはファートの町で見た魔獣と似たようなものであったが、そのサイズはそれよりも二回りは大きい。身体から漏れ出る瘴気も色濃く禍々しさを増していた。
(前に見たヤツより『熟成』の進んだヤツか…!)
風の壁によって爪を防がれた魔獣は、驚きと混乱で櫻から距離を取ると高度を上げ、再び獲物を捕らえるチャンスを狙って旋回を始めた。
そんな魔獣の姿を見上げる櫻。
(アスティアは戦いの経験も無いままであんなのを相手に頑張ってくれたのか…あたしもいつまでも護られてばかりじゃ恰好が付かないね!)
気合を乗せ、両腕を交互に振り上げるとその指先から風の刃が魔獣目掛けて放たれた。
しかし魔獣は大きく羽ばたくと無数の羽根を翼から発射して風の刃を掻き消した。そして櫻の視界が羽根で覆われた次の瞬間、舞い散る羽根の隙間から覗く空に魔獣の姿は見えなくなっていた。
(…!?消えた!?)
驚く櫻。しかしその行き先は直ぐに理解する事になる。
『ザクリ』と左の眼球を貫く爪が櫻の頭を背後から押さえ付けその身体を地面へと押し倒したのだ。
「…うあぁぁぁ!!!」
突然の事に一瞬何が起きたのか理解出来ず、その後に襲って来た激しい痛みに悲鳴が上がる。
しかし魔獣はそんな獲物の鳴き声等意に介さず次に足を押さえ付けると、鋭い爪が食い込み華奢な太腿を貫通する。そして体重を乗せしっかりと獲物を固定すると嘴をパカと開き櫻の右腕を咥え込み、ミチミチと音を立て引き千切り始めたではないか。
「ああぁぁぁ…ぐうぅぅ…!!」
言葉にならない程の痛み。しかしそれに負けぬ程の怒りが櫻の中に湧き上がる。それは櫻だけのものでは無かった。櫻の内に居た魂達の怒り、恨み、そのような感情が櫻の気力を高める。
魔獣の重量に既に首の骨は折れ、メキメキと頭骨が圧し潰される痛みの中で歯を食いしばり、残った片目がキッと強い意思を見せると、咥え込まれ既に千切れる寸前の腕の先から口腔目掛けて鋭い旋風を放った。
『ギュアァァァァ!!??』
唐突に口腔内を切り裂かれた魔獣は堪らずその口を開くと、櫻の右腕は根元からブツリと千切れ地面へと転がる。しかし口の中から血を撒き散らしながらも魔獣は未だに櫻を手放そうとはせず、大きく羽ばたくとそのまま空へと持ち上げた。
獲物を手放すまいと頭と足を掴む魔獣の鋭い爪が更に深く食い込み、足の骨はボキボキと音を立てて折れ、頭骨がメリッという鈍い音と共に砕かれるかと思われた。しかしその時
「…カタリナ、済まんね…!原型を留めるのは無理そうだ!」
そう呟いた櫻の残された自由部位である左腕が魔獣の腹部へ向けられると、五本の指先からドリルのように鋭く激しい風が巻き起こり、それは魔獣の身体を貫くと更にそのまま大きさを広げ始めた。
『ギュ…アッ…!?』
魔獣は断末魔を上げる間も無く内側から広がるミキサーのような嵐に引き裂かれ、櫻を掴む両足を残しその身体を挽き肉へと変え血飛沫と共に乾いた台地へと降り注いだ。
「…くっ…!」
頭と足に未だに離さない魔獣の足を残したまま、櫻の身体が地面へ向け落下を始める。このままでは地面へ叩き付けられ全身への甚大な損傷は免れない。
櫻の不死の身体と超再生が有ればどのような損傷も問題では無いが、それでも修復にはその損傷具合に応じた大量の栄養素が必要となる為に極力それは避けたい処であった。
ブラリと首が折れたままの頭で地面を見据えると、風を巻き起こし体勢を安定させようとする。しかし身体のバランスが悪いのか姿勢制御が安定しない。
身体中を走る痛みに吐き気を覚えながら、グッと力を込め急いで失った右腕を再生させると、続いてそのまま両腕で頭を固定し首を再生させる。
(よし!)
未だ頭と太腿に魔獣の足が食い付いているものの、身体のバランスはしっかりと取れる。しっかりと地面へ目を向けゆっくりと下り立とうとしたその時、
『ザクッ!』
と背中に縦一閃、熱い衝撃が走ったかと思うと、そこから激しい痛みが迸った。
「うあぁ!?」
堪らず声を上げ背後に目を向ける。するとそこにはグイルィの鋭い爪が在った。
「なっ…!?」
(馬鹿な!?さっき倒した筈だろう!?)
そこに居たのは紛れも無くグイルィの魔獣。そしてその鋭い眼差しが櫻を映し、
『キュアァーーー!!』
と大きな鳴き声を上げた。
そしてそのままガッと櫻の顔面を正面から4本の指で鷲掴みにするように握り、上空へと持ち上げる。
(さっきのと別個体か!?そうか!これがパーティーが逃げる事も出来ず犠牲になった理由か!まさか2体居たとは…!)
咄嗟に櫻は両腕を前へ突き出し魔獣目掛けて風を放とうと試みた。しかしそれを知ってから知らずか、魔獣は急降下を始め、櫻の身体を激しく地面へと叩き付けるとそのままの勢いで擦り下ろすかのように引き摺り回し始めた。
「がああぁぁぁ!!」
ゴツゴツと乾燥した地面に擦り付けられ櫻の背中が瞬く間にズタボロになり地面に血の跡が引かれて行く。
(くっ…何だコイツは…!?あたしを餌と認識してるんじゃない…!敵だと…倒すべき相手だと認識している…!?)
ひとしきり引き摺り回し、櫻の背中の肉が削げ骨が露出する程になった処で魔獣は再び空へと舞い上がると櫻の身体を地面目掛けて勢い良く投げ付けた。
余りの痛みに身動きの取れない櫻は為すがままに地面へと打ち付けられると、グシャリと言う激しい音と共にその衝撃は骨を砕き内臓を破壊した。
『ぐぶっ』と口から血が噴き出すと、上空から魔獣が襲い掛かりその仰向けになった無防備な腹部に嘴が突き立てられ、ブチブチと音を立て腸が毟り取られる。
「あっ…ぁ……。」
叩き付けられた衝撃で脳震盪を起こしていた櫻は無抵抗にその身を貪られ、ビクビクと身体を痙攣させる。
既に全身の感覚が失われ視界がボヤけ、グジュグジュと音を立て何かを食べている魔獣の姿を朦朧と眺めていたその時、
『サクラ様を離せーーーー!!!!』
水の中を伝う音のように歪んだ、しかし聞き覚えのある安心感を覚える声がハッキリと聞こえ、ハッと櫻の意識が回復した。
そして次の瞬間、黒い影が弾丸のように魔獣目掛けて激突すると、咄嗟に躱そうとした魔獣の片翼の根元を貫いた。ドサリと翼が地面へと落ち、魔獣が悲鳴を上げる。
『ギイイィィィ…!!』
片翼を失いヨロヨロと後退る魔獣と、貪られ上半身と下半身が分離してしまっていた櫻の間に立ったその影は、紛れも無くアスティアだ。その姿は背中しか見えないが、それでもその怒りがハッキリと見て取れる程の気迫が感じられる。
「お嬢!」「ご主人様!」
更に崖側からの声に目を向けると、既に獣人形態へ変態しているカタリナと命が駆け寄ってくる姿が見えた。
「み…皆、来てくれたのか…済まないね…。」
ググッと両腕に力を込めて起き上がろうとするが、腰も腹筋も無い為に上手く身を起こす事が出来ない。
「あ~ぁ、こんなこっ酷くやられちまって…。確かに餌になってくれとは言ったけど、本当に食べられてくれなんて言ってないよ?」
櫻の上半身を抱き上げるカタリナが呆れたように言うと、櫻は皆の姿に安堵し弱々しく微笑みを浮かべた。
「済まないね…あんな大見得切った手前、返す言葉も無いよ。それより済まないが、あたしの腰をくっつけてくれないか…起き上がるのが辛いんだ…。」
「はい!今すぐに!」
命が下半身を、カタリナが上半身を其々に支えると、櫻の超回復で瞬く間に骨が繋がり、内臓が生まれ肉が、皮膚が蘇って行く。
「っく…流石に栄養が足りない…。」
頭と足に刺さった魔獣の足も取り払い、身体は完全な状態に戻ったものの、体力を消耗し立ち上がる事すら出来ない櫻。しかし
「サクラ様はそこで休んでて。後はボク達だけでやれるから。」
「そうそう。アタイから戦う機会を奪わないでくれよ。お嬢はイザって時に戦ってくれれば良いんだからさ。」
「ご主人様は私がお守りしています。お二人は存分にどうぞ。」
そう言って三人が其々にポジションに付くと、櫻の胸の内に安心感が生まれる。
「…あぁ、頼んだよ。」
「うん!」「任せな!」
櫻の言葉に気合の入った返事をすると、二人は魔獣目掛けて突撃を掛ける。
「よくもサクラ様を…!」
アスティアが怒りの形相を浮かべ飛び掛かると、魔獣は地面を蹴り片翼を羽ばたかせながら上空へと跳んだ。しかし当然飛行は出来ない。バランスを崩しながら残された片翼を大きく扇ぐと、刃物のような鋭い羽根が無数にアスティアとカタリナ目掛けて降り注いだ。
しかしそれは既に経験済みのアスティア。自らも大きく羽根を羽ばたかせ力一杯の鎌鼬を巻き起こすと魔獣の羽根とぶつかり合い相殺する。
ヒラヒラと舞い落ちる魔獣の羽根の中、その隙を逃さず落下する魔獣目掛けてカタリナが迫る。
「へっ!地に墜ちたグイルィなんてアタイの敵じゃないんだよ!」
ガッと片足を掴むと、自身の倍はあろうかと言う巨大な魔物をまるでハンマー投げのようにグルグルと振り回し、その勢いを持って地面へと叩き付ける。
『ドゴォ!』と激しい音が鳴り響き乾燥した地面にヒビが入る。しかしカタリナの攻勢は止まらない。再び持ち上げ、二度三度と同じように振り回し叩き付けると、地面に徐々に血の跡がスタンプを押すように増えて行った。
その様子は既に商品価値を持って獲物を仕留める魔物ハンターでは無い。口には出さずとも、内で燃え上がる怒りに任せた攻撃であった。
もう何度叩き付けたか判らない程に地面が赤く染まると、それでも未だ息は有るものの既にピクピクと身体を震わせるのみで意識を失った魔獣がそこに在った。
「…ふぅ…、ミコト、腕、貸してくれるか。」
「はい。どうぞ。」
カタリナの要請に命が左腕を剣に変え投げ渡す。ハシッと受け取ったカタリナはだらしなく口を開き痙攣する魔獣を見下ろすと、悠々と剣を振り上げ首目掛けて振り下ろした。
『ヒュッ!』
風を切る音と共にサクリとも音を立てずスッと通った刃は勢い余って地面へと突き刺さり、それを引き抜くと同時に魔獣の頭と身体が分離する。
「…ミコト、これはちょっと切れ味良すぎて逆に危ないよ…。」
呆れ顔でヒュンと空を切って見せると
「そうでしたか?済みません。」
そう言って命は櫻の身体を支えながら悪戯っぽく微笑み、カタリナもニヤリと牙を見せるのだった。