転生者な兄と姉、そして弟は現地人
暇潰し作品。
キャラ設定がウザかったので削除。
2019/8/22現在、三話目書き直し中。
――どうして、こんな事になったんだろう。
周りをガレキの山と炎に囲まれながら、 僕はそんな事を呆然と考える。いいや、早く逃げなきゃならないってわかっているのに、馬鹿みたいにそんなことしか考えられない。
だって、僕にはわからないから。
なにがなんだか、理解が出来ないから。
「おとーさん、おかーさん……起きてよ。ぼく、これじゃ、動けないよ」
だからこそ僕は、倒れて動かないお父さんに声をかける。僕を守るように覆いかぶさって、そのままピクリとも動かないお母さんに、起きて欲しいとお願いする。……けれど、お父さんもお母さんも、やっぱり動いてくれなくて。動いてくれないから、お父さん達が重くて体が痛くって。
だから、なんとなく理解はできていた。
だけど、だから理解したくなかった。
もしも理解をしてしまったら、多分、僕は僕のままじゃいられなくなる。
何が起きたのかを、お父さん達がどうなったのかを認めてしまったら、僕はきっとおかしくなってしまう。
だって、こんなことはあり得ちゃだめだ。
だって、こんなことはあるわけがないんだ。
だって、お父さんは、強いから。
だって、お母さんは、賢いから。
だから、だからきっと、これは全部、夢のはずで。
――そう、これは夢なんだ。夢じゃなきゃ、駄目なんだ。
「…………だれか、助けて」
――そう言う僕の声は、自分でも驚くほどに、恐怖で震えたモノだった。
第一話「兄と姉は転生者」
――この世界は、かつてはたくさんの生命であふれていた。
海にはたくさんの魚が泳ぎ、空にもたくさんの鳥が飛び。
背の高い木々に覆われた森にももちろん、どころか私達の住む人間の街にだって、たくさんの生き物が生きていた。
まさしく、おとぎ話の楽園のように。
この世界には、たくさんの生命が生きていた。
でも、それは「かつて」のお話。
はるか昔、七日七夜降り続いた火の雨によって、この世界は焼き尽くされた。
海も、空も、森も、街も、その尽くが焼かれて消えた。
そこに住んでいた、生命と一緒に。
ただ無慈悲に、理不尽に、この世のすべては燃え果てた。
まるで、すべてが夢だったのかのように。
すべては、跡形もなく消えてしまった。
――少しの人間と、少しの生命を残して。
「……それで? それで、そのあと世界は、どうなっちゃったの?」
――そう言う僕は、絵本を読んでくれていたお母さんに、泣きそうな顔で質問して。ちょっぴり怖かったから、お母さんの手をぎゅっと握って。
「ふふっ、怖がらなくても大丈夫よ。……世界はそのあと、皆で元通りに直したの。残った人たち皆で力を合わせて、キレイに直したのよ。
その証拠に、ほら。私も優輝も、こうして生きているでしょう? 街にも森にも、生き物がたくさんいるでしょう?」
――そう言うお母さんは、優しく僕の頭を撫でてくれて。それから、お母さんの膝の上に居た僕の体を、ぎゅっと抱きしめてくれて。
「あーっ!! 優輝、お前また母さんにくっついてんのかよ!! ずりーぞ!!」
兄ちゃんは、僕よりも八歳も歳が上のはずなのに、僕に向けて怒った顔を向けてくる。
そんな兄ちゃんの後ろでは、兄ちゃんへ冷めた目を向ける姉ちゃんが居る。
でも、僕の視線に気づいた姉ちゃんは、僕に向かっては困った様な顔を向けてくれて。
僕が姉ちゃんを見ていることに気付いたお母さんが、姉ちゃんに「おいで」って手招きして。
そうして、兄ちゃんと姉ちゃんと、それから僕を、三人まとめてぎゅうっと抱きしめてくれて。
――これが、僕の最も古い記憶。僕が二歳になった日の、幸せな記憶。
――けど、それから六年が過ぎ。僕もようやく、八歳となり。
この六年で、僕はかなり成長した。いや、自分で言うのも変な話だけど、二歳の頃と比べて知識も体力も増えたし。高校生になった兄ちゃん達と比べればまだまだ子供かもだけど、それでも、僕はちゃんと成長したんだ。……そう、ちゃんと成長したんだよ。それこそ、【この状況】を正しく理解できるくらいに。
でも、だから理解したくない。
【この状況】を、理解することが出来ない。
「おとーさん、起きてよ。おかーさん、返事してよ」
だって、今日は僕の誕生日なんだ。僕は今日、やっと八歳になったんだ。
「……ねえ、おとーさん。早く起きないと、兄ちゃんが帰ってきちゃうよ? 兄ちゃん、また大げさに心配するよ?」
だから今日は、家族みんなでお祝いするんだ。今日だけは、家族みんなで仲良く過ごすんだ。
「…………おかーさん。ねぇ、おかーさん。……おかー、さん」
――けど、だから。どうしても僕には、現実を受け止めることが出来なくて。
「お願いだから……返事、してよ。お願いだから、目、あけてよ……」
瓦礫の上で、僕に覆いかぶさるようにして倒れたお母さんは、だけども何も返事をしない。僕の顔のすぐそばにあるお母さんの顔は、僕の方を見ようともしてくれない。というか、ホントにすぐそばに、それこそ三十センチも離れていない距離なのに、お母さんが息をしているように思えなくて。むしろ、見れば見るほど、生きてるように見えなくて。
だから、ものすごく怖い。
ものすごく怖いから、顔を反対側に向け。
「ひっ……!!」
けれど、僕は直ぐに顔をお母さんの方へと向け直した。
反対側にあった【モノ】を見て、ううん、見ることが出来ないから、顔をお母さんの方へ向け直すしかできなかった。
だって、そこにあったのは。
僕の隣に、【落ちていた】のは。
僕の、僕のお父さんの、つぶれたあたま――
「ほう、これだけの爆発に巻き込まれても、お前は生き延びられるのか」
――その声に、僕はビクリと体を震わせて。あまりの恐怖に、汗が噴き出るのを理解して。
「ね、え……ちゃん?」
恐る恐る、絞り出すように乾いた声をだしたけど、声の主はなにも応えようとしない。
確かに小さかったけど、でも、聞こえたはずの僕の問いに答えてはくれない。
だから、お母さんの顔を見ていた僕には、誰なのかがわからなくて。
そのくせ、カツカツと言う足音は、迷いなく僕の方へと近づいて。
その歩き方が、いいや、見なくてもわかる【異様な雰囲気】が、僕の問いの答えを教えてくれて。
「やあ、私の愚かな弟よ。ハッピーバースデー」
場違いなほどに明るい姉ちゃんの声は、いつも僕に向けてくれるものと何も変わりがなかった。
僕以外には一切感情を見せないくせに、僕にだけは感情豊かに話す姉ちゃんのモノと、全く同じだった。
けど、だからこそ怖くて。
怖いから、息すらまともに出来なくて。
息が吸えないから、目の前がクルクルと回り始めて。
「ははっ、お前は相変わらず無口だな。あのいつもやかましいだけの愚物も、少しは見習えば良いのに――「優華っ!!」……っと、噂をすればなんとやら、か」
――そう言って、姉ちゃんは愉快そうに笑って。同時に、僕はようやく、誰かが走って来ていることに気が付いて。
「優華、良かった! さっき、なんかすげぇ音がして、遠くから、家が燃えてんのが…………おい、おまっ、父さんっ!? 母さんっ!!」
息を切らせながら、焦ったように叫んで駆け寄ってきた兄ちゃんが、お父さんとお母さんの身体を強くゆする。
だからお父さん達の下に居た僕に気が付いて、僕もまた、兄ちゃんの姿を目に入れる。
そうして、僕が見た兄ちゃんは、今にも泣きそうな顔をしてて。
でも、少しだけ安心したような表情を浮かべてもいて。
それから、お父さんとお母さんだった【モノ】を、優しくどかしてくれる。
どかしてくれたから、ようやく僕はマトモに息が吸えるようになって。
だから僕は、いろんな恐怖から逃げたくて、兄ちゃんにしがみついて。
「にい、ちゃっ……うぐ、うわああぁぁ…………っ」
「優輝……っ!!」
「おどーさんと、おがーざん、が……にいちゃ、ぼく、うあぁぁ……!!」
泣き叫びながらしがみつくしかできない僕を、兄ちゃんはぎゅうっと強く抱きしめてくれる。お父さんとお母さんと同じように、でも、お父さん達とは違う温かい両腕で、僕の事を力強く抱きしめ返してくれる。……しっかりと、僕の名前を呼びながら。【生きている】って、僕に伝えてくれるように。
だから僕は、さらに泣くしか出来ない。
でも、そんな僕にの耳に、【それ】はハッキリと聞こえ。
「……全く、この程度の事でギャーギャーと喚きおって」
――だからこそ、僕はまた、ビクリと身体を震わせて。同時に、兄ちゃんの雰囲気が変わるのを、理解して。
「お前っ、こんな時に何言ってんだ!! こんな事になってんのに、なんでそんなことが言えんだよっ!?」
そう叫んだ兄ちゃんは、かつてないほどに怒っていた。ううん、確かに昔から怒ったり笑ったりが激しい人だったけど、でも、今の兄ちゃんは……恐ろしいほどにキレていた。
それこそ、額に青筋を浮かべて。
今すぐにでも、姉ちゃんを殺しに行くんじゃないかって雰囲気で。
けれども、そんな風に睨まれている姉ちゃんは、いつもと全く同じだった。昔からそうだったように、兄ちゃんの事を冷めた目で見て……いいや、無感動に兄ちゃんを眺めている。
そう、姉ちゃんは兄ちゃんを、眺めていた。
ただぼうっと、空っぽな目で眺めていた。
まるで、興味のない映画を見るように。
まるで、他人とすれ違う時のように。
――だから、僕はまた怖くなり。自然と、兄ちゃんにしがみついて。
「…………はっ、くだらぬな」
「なっ……!? くだらないって、お前っ!!」
「くだらぬことをくだらぬと言って何が悪い。こんな茶番、くだらぬ以外になんと呼べばいい」
「テメェ、いい加減にしろよ!! 父さんと母さんが死んでんだぞ!? 家だって、こんな……!!」
――そういう兄ちゃんから、ギリッと歯を噛み締める音がして。僕を抱きしめる力が、より一層強くなって。
けれど、そんな兄ちゃんを見ても、姉ちゃんは一切ひるまない。
兄ちゃんがキレていることに、なんの感情も抱かない。
それがわかるから、僕には怯えるしかできず。
ただ怯えて、しがみつき続けるしかできず。
「ふん、いい機会だ。この際だからハッキリと言ってやろう。……私はな、ずっと昔からお前の事が嫌いだった。否、嫌悪と言う言葉がかわいく思えるほどに、お前の事を増悪していたんだよ。
何故かわかるか? なあ、私と同じ、転生者よ」
――その言葉に、兄ちゃんの雰囲気がまた変わって。そのせいなのか、兄ちゃんを見る姉ちゃんの目は、射殺すように鋭くなって。
「はははっ、本当にお前は愚物だな。……どうせお前は、今まで考えたこともなかったのだろう? 自分以外に転生者が居るわけがないと、そう思い込んで好き勝手に都合のいい未来を空想しておったのだろう?
だから私は、お前が嫌いなんだよ。
私はただ、この世界で平穏に生きたいだけなのだ。お前のような阿呆とは違い、安心と安全を手に入れたいだけなのだ。……その為ならば、私は何の努力も惜しまない。神から貰った【信用のできないモノ】になど頼り切らず、自らを鍛え策を弄し、打てる手はすべて打ち尽くす。
それこそ、ヒトを殺してでも。その相手が、私のこの世界の両親であろうともな」
「りょう、しん? …………っ、お前、まさか!!」
「はっ、今更気付いたのか、馬鹿めが。そも、お前がバカみたいに遊んでいる中でも、私は努力を惜しまなかった。だからこそこの世界の真実にも気付け、そして、だからこそ、私を害する可能性のある両親を生かしておくわけにはいかなかった。……当然だ。私を滅する可能性がある以上、こいつ等を生かしておけるわけがない。
そして、私の目的はまだ達成できていない。私の平穏は、まだ約束されていないんだ。……なあ、わかるか? 愚物よ」
――そういう姉ちゃんは、優しい目つきで僕を見て。けど、僕を守るように、兄ちゃんが姉ちゃんの前に立ちふさがって。
当然ではあるけれど、僕には姉ちゃんの話が理解できていない。
兄ちゃんがどうして姉ちゃんの話を理解できるのか、その理由もわからない。
そもそも僕には、何がどうしてこんなことになったのかがわからなくて。
気付いたらこんな状況になってた僕には、わかれることが何もなくて。
――だから僕には、何も出来なかった。ただ見ていることしか、出来なかった。
反転「弟は現地人」
――俺は、いわゆる転生者ってヤツだ。
前世の俺は生まれつき体が弱くって、だから、大人になる前に病気で死んじまった。つーか、ぶっちゃけマトモに学校へ通ったことすら無かったりする。……むしろ、病院が学校だった、みたいな?
だからってわけじゃねーけど、前世の俺はとにかくバカだった。
いや、だってよ、毎日を生きる事に必死で、明日を無事に迎えることに必死で、なのにそれ以外の事を考える余裕なんてあるわけないだろ。今日死ぬかもしれないヤツが、何年も先を見据えて行動なんて、出来るわけがねーじゃねーか。
だから俺は、年齢に比べてすごくバカだ。でも、それを恥だと思ったことは、一度もない。
何故なら、俺がバカなのは、俺が生きようと足掻いてきた証明だから。
俺を生んでくれた、俺を生かそうとしてくれた両親に応えた、絶対不変の証だから。
それこそ、勉強にかまけていられないほど、毎日を戦ってた。
【毎日を生きる】事に真剣に向き合った、その結果なのだから。
それを恥だと思うなんて、あり得ていいわけがない。
俺が生きた証を恥じるなんて、許せるわけがない。
俺が生きた事を、俺を生んでくれた両親を恥じるような真似を、他でもない俺がしちゃならないんだ。
――けど、だから俺は、「生き返りたい」とは思わなかった。
死んで神様に出会ったとき、神様から「生き返りたいか?」と質問された。曰く、「神様はなんでもありだから、病気を治した上で生き返らせることも出来る」と。だから、「お前が望むなら生き返らせてやっても良いぞ?」と、そう質問してきたんだ。
だから俺は、反射的に頷こうとして。
でも、結局俺は、首を横に振って。
はじめに断言しておくが、前世に未練がないと言えば嘘になる。両親に恩返しだってしたかったし、俺だって、恋愛とかがしたかったし。だから、もしも生き返れるなら、生き返りたい。正直に言えば、今だって未練はタラタラだ。
けど、でもさ。
神様に言われるまま【神様の力】で生き返ってしまったら、俺のこれまでが否定される気がしたんだ。俺が、俺として必死に生きようと足掻いてきた【人生】が、空っぽなもんになっちまうんだって、そう思ってしまったんだ。……だってよ、俺がここまで生きてこれたのは、俺が必死で頑張ったからなんだ。両親が支えてくれたから、両親の為に生きようと足掻き続けてきたから、ここまで生きることが出来たんだよ。
――なのに、ポッと出てきた神様に、生き返らせて貰う? 俺が戦い続けてきた病気を、神様に治して貰う?
そんなの、許せるわけがない。突然しゃしゃり出てきて、したり顔で偉そうな事を言ってくる神様なんかに、頼りたくなんかない。
きっと、世間は俺をバカだって言うんだろう。「無駄にプライドが高いヤツだな」って、そういってバカにするんだろう。俺だって自分をバカだと思うし、つーか、だから今も前世に未練が残ってしまってるんだ。……それこそ、前世の両親が元気なのか、毎日考えちまうくらいに。
そりゃそうだ、当たり前だ。俺だって、本当は死にたくなんかなかった。両親を泣かせたまま、放っとくなんてしたくなかった。
けど、それでも俺は、自分の選択を後悔しない。俺が俺らしくある為に、後悔だけは絶対にしない。
――だって、それが生きるって事だから。俺が俺として、俺のまま、生きて死ぬって事だから。
でも、まあ、だからってわけじゃねーけどさ。俺は、神様に別のお願いをしたんだ。いや、うん、ホントは頼りたくなんかなかったけど、「何か願ってくれないと手続きが進まない」とかなんとか言われて。どんだけ断っても「頼むから願ってくれって」って返答ばっかりで、だから、何も願わないのも悪いなって思ってしまってさ。
それに、俺も……俺が死んだせいで両親が泣くのは、かなり辛かったし。
大切な人達だからこそ、幸せになってほしいしって思ってたし。
だから俺は、神様にお願いしたんだ。「俺の両親が、前を向くきっかけを作ってやってください」って。「俺の死を乗り越える、強く生きていく切っ掛けを作ってやってください」ってさ。……いや、うん。めっちゃ照れ臭いけど、俺、両親のこと、信頼してるし。だから、きっかけさえあれば、きっと立ち直るんだろうってそう思ったんだ。それに、この願いなら誰にも迷惑かからないような気もしたしさ。
で、その願いを、神様はちゃんと叶えてくれて。
そうして俺は、他の人と同じように生まれ変わって。
――けど、まあ、神様のイタズラっつーか、何て言えばいいのか。
本来なら消えてなくなる筈だった前世の記憶は、何故か消えてなくならなかった。いや、確かにうろ覚えにはなってるけど、こうやっていつでも思い返せるくらいには、俺の中にハッキリと残っていた。……だから、なんつーのか、俺は俺だけど、俺じゃあないみたいな感覚があって。前世への執着もあるけど、今の世界への執着もあるって言えばいいのか。
例えるなら、未練がましく過去の女を思い返す、みたいな?
それか、壊れた思い出の品を大切に持ち続ける、みたいな?
――いや、俺、恋愛したことねーけどさ。でも、これ以外に良い例えが見付かんねーし、だからこれでいいんだろう。
とにかく、まあ、それが俺という人間の成り立ちで。
んで、そんな俺が生まれたのは、とにかく奇妙な世界で。
今の俺が生きている世界は、前世の俺が生きてた世界にすごく似ている……と思う。それこそ小学校から大学まであるし、日本とか他の国だって前世とほとんど同じだし。政治の仕組みも、テレビ番組も、多分そんなに違いが無いんだろう。前世も今世もバカだからハッキリとは言えないが、多分、大差無いんだと思う。……いや、うん。バカな俺が言っても、説得力なんて欠片もねーけど。
でも、やっぱりこの世界は奇妙だ。
奇妙って言うか、ファンタジーだ。
――だってよ。この世界には、「能力者」ってのが普通に居るんだぜ?
この事実を初めて知ったとき、俺は驚くしか出来なかった。いや、驚くのは当たり前っちゃ当たり前なんだけど、ほら、俺にはなんでか前世の記憶があったし。だから、五歳の時に「大事な話がある」って呼び出されて、んで、父さんの手から炎が出て来るのを見せられたときは、ただただ驚くしか出来なくて。……つーか、自分の親がファンタジーな能力を持ってることが、全然信じられなくてさ。
でも、そんな俺に向かって、父さんは「お前達にも出来る」って言ってきて。
それから直ぐに、能力についての修行が始まって。
前世からしてバカな俺は、能力を使えるようになるまでにかなりの時間を要した。優華は……えっと、俺の【双子の妹】は直ぐに使いこなせるようになったけど、ほら。……俺には、前世の記憶が残っちまってたし? だから、こう、どうしても「使えるわけがねぇ」って思いが湧いてきちまってさ。
でも、だからって諦めるのは、悔しくて。
だからこそ、歯を食いしばって頑張って。
世間一般の能力者に比べたら遅かったが、俺は、ちゃんと能力を使えるようになった。父さんと同じ【身体を炎に変える力】を、なんとか扱えるようにはなった。……いや、うん。高校生になった今も、完璧に使いこなしたりとか出来ねーけど。妹は【四属性を支配する力】を完全に使いこなせてんのに、俺には、髪や手を炎に変えることしか出来ねーけどさ。
でも、それは【今】の話だ。いつかは絶対、完璧に使いこなしてみせるぜっ!!
――けど、だけど。
この世界で、この、前世の世界に似ているようで全く違う世界で、そんな事を思って生きてきた俺の人生は、劇的に変化した。
異世界だからこそ戸惑いながら、でも、それでも平和に過ごしてきたこの十六年は、呆気なく終わりを迎えてしまった。
「……おい、嘘だろ…………なんで」
それこそ、なんの前触れもなく。
それこそ、青天の霹靂って言葉のままに。
「……優輝、優華、父さんっ、母さんっ!!」
――そう叫ぶ俺の目には、真っ赤に染まった空が見えて。
――それは、俺の帰るべき家がある方向で。
どうしてそう思ったのかは、俺にもわからない。けど、俺は突然真っ赤に染まった空を見て、直感的に父さん達がヤバいんだって理解が出来ていた。……それこそ、暢気にしてたら手遅れになるんだって。早く家に帰らなきゃ、取り返しのつかない事態になっちまうんだって。
だから、全速力で走って。弟の為に買ったケーキも投げ捨て、ただ必死で走り続け。
走りながら、俺の頭の中には今朝の出来事が甦っていた。
いつもよりちょっとだけ特別な、幸せな日々が思い返されていた。
それこそ、誕生日を迎えた弟の笑顔や。
そんな弟を見て嬉しそうにする、父さんと母さんや。
俺にはいつも冷たいのに、弟にだけは笑顔を見せる妹が。
そう、そんな当たり前な、日常が。
今朝まで間違いなく存在していた、今の俺の日常が、俺の頭の中に浮かんでたんだ。
だって、そうだろ。
だって、俺は……っ!
――けど、なのに。現実は、とてつもなく理不尽で。
最初に目に入ったのは、空を焼くような炎だった。
次に目に入ってきたのは、瓦礫と炎の中に立つ妹の姿だった。
だから俺は、直ぐに妹に駆け寄って。
その途中で、父さんと母さんだった【モノ】を見付けてしまって。
そして、そんな父さん達の下には、恐怖し怯えきった顔の弟が【生きていて】。
生きていたからこそ、弟は泣きながら俺にしがみついてきて。
だからこそ、俺は弟を抱き締めた。弟が【生きていること】を確かめたくて、弟を安心させたくて、ただただぎゅうっと抱き締めたんだ。
――だって、家族だから。俺は弟の……優輝の兄だから。
――けど、優華は。俺の双子の妹は……。
「……全く、この程度の事でギャーギャーと喚きおって」
吐き捨てるような妹の言葉に、俺は一瞬、何を言われたのか認識できなかった。
でも、直ぐに言葉の意味を理解出来て、だから、妹に対する怒りがカッと胸に沸いてきた。
だってコイツは、「この程度のこと」って言ったんだ。
父さんが、母さんが……【家族】が死んだことを、「この程度」って言いやがったんだ。
いつものように、冷たい目をしながら。
いつも以上に、冷えきった表情で。
そんなの、許せるわけがない。
家族だからこそ、絶対に許しちゃあならない。
――だから俺は、妹へ怒鳴るように問い質そうとして。
――けれど、だけども。妹は全く悪びれもせず、むしろ、言葉を交わす程に【冷たい目】で俺を見てきて。
「ふん、いい機会だ。この際だからハッキリと言ってやろう。……私はな、ずっと昔からお前の事が嫌いだった。否、嫌悪と言う言葉がかわいく思えるほどに、お前の事を増悪していたんだよ。
何故かわかるか? なあ、【私と同じ】、【転生者】よ」
その言葉に、その言葉が持つ意味に気が付いて、怒りが急激に冷めるのが理解できた。
同時に、俺の妹が【妹じゃあ無かった】事を理解しかけて、でも、その考えを必死になって否定した。
だって、そんなこと、あるわけがない。
例え妹が俺と同じだったとしても、それだけはあっちゃならない。
だって俺達は、家族だから。
【この世】に唯一の、かけがえのない家族だから。
けど、そんな俺を嘲笑うように、妹は俺を睨み付け。
本気で嫌っているってわかる、憎しみに染まった目を向けてきて。
「はははっ、本当にお前は愚物だな。……どうせお前は、今まで考えたこともなかったのだろう? 自分以外に転生者が居るわけがないと、そう思い込んで好き勝手に都合のいい未来を空想しておったのだろう?」
――その言葉に、何も言い返せなかった。
「だから私は、お前が嫌いなんだよ」
――その言葉に、何を思えば良いのかわからなかった。
「私はただ、この世界で平穏に生きたいだけなのだ。お前のような阿呆とは違い、安心と安全を手に入れたいだけなのだ。……その為ならば、私は何の努力も惜しまない。神から貰った【信用のできないモノ】になど頼り切らず、自らを鍛え策を弄し、打てる手はすべて打ち尽くす」
――だって俺は、そんなこと、考えたこともなかったから。
「それこそ、ヒトを殺してでも。その相手が、私のこの世界の両親であろうともな」
――そんな決意を、こんな覚悟をする理由を、一切理解が出来ないから。
それに、何よりも。
俺は、ただ。
「りょう、しん? …………っ、お前、まさか!!」
俺はただ、【事実】を受け止めることが出来なかった。俺の妹が……家族が家族を殺した事実が、信じられなかった。
だって家族は、支え合うものじゃないか。だって家族は、助け合うものじゃないか。
なのに、なんで。なんで家族が、家族を殺してるんだよ。
でも、そうして呆然とする俺を、妹は馬鹿にするように笑って。
笑いながら、嬉々として家族を殺した理由を語って。
それから、弟へ……唯一生き残った弟へ、【気味の悪い笑顔】を向け。
だからか弟は、震える手で必死に、俺にしがみついてきて。
――ああ、そうだ。俺が、俺が弟を守らなきゃ。
ただ漠然と、マトモに働いていない頭でそう思った俺は、だから弟を庇うように立ち塞がる。
状況の理解なんて全然出来ていないけど、でも、妹を止めなければと思考する。
だって俺は、優輝の兄で。
今の俺は、優華の双子の兄で。
こんなことになったけど、俺は二人の兄だから。
――だから、だから俺が、なんとかしなきゃならないんだ。
「……優輝、お前はさがってろ。優華は……兄ちゃんが止めるから」
「ふっ、止められるモノなら止めてみよ!!」
そうして俺は、理解する。
こんな事になって初めて、理解するんだ。
双子の妹が抱えていた、果ての無い闇を。
俺がどれ程、無知であったのかを。
――――そもそもこの世界が、どんな世界なのか、を。




