8話 空に思いをはせました
『烏召還』
「か、カラス召還!?なんだこりゃ!」
「そのままよ。カラスを呼べるの。凄いじゃない!」
「何の役に立つんだよ」
「あら、カラスを操れれば、色んなことができるわよ。たくさんのカラスに捕まって空を飛ぶとか」
「ゲ〇ゲの〇太郎かよ!」
「じゃあ今日は遅くなったのでこれで失礼するわね。ばいばーい!」
そう言ってエイラはすたすたと去って行った。
はぁーあ。今回もろくでもないスキルだったな。家に帰ろっと。
・・・・
翌日の放課後。
ラビニア、アーミィと一緒に帰宅途中。
ラビニアがまたアーミィに絡んでいる。
「あんた、書記長の仕事のやり方もうわかったの?」
「え、えっと、このノートに書く……」
「ちゃんと漏らさず書きなさいよ!」
次の集会の予定はまだ先だし、それまでにアーミィに筆記の練習でもさせておこうかな。
バサッ!バサッ!
ん?上空から音が聞こえる。
見上げると、二人の翼人がやりあっている。
両方ともうちのクラスの奴じゃねーか。ハーピー女とコウモリ男だ。
あっ、コウモリがハーピーに噛みついた!
ぽたっ、ぽたっ
地面に血が垂れる。
「ここは私の出番ね、見てなさい」
ラビニアがそう言うと、カバンから小弓を取り出した。
「おい、当てるなよ」
「威嚇するだけよ……よーく狙って……えいっ!」
ピュン
ひゅーん
矢はそれて行った。空で争ってる二人は気づいてもいない。
「全然威嚇になってないぞ」
「あれー?二人とも素早すぎるのよね……」
『弓腰姫』のスキルが泣くぞ……。
アーミィは何してんだ?と振り返ると、ノートに一生懸命空の二人の状況を書き込んでいる。
真面目なのは良いことだが、意味があるのだろうか……まぁ練習にはなるけどさ。
このままだとハーピーの子がやられるな。大けがするような事態は避けたいが……。
そうだ。俺には外れスキル?の『烏召還』があった。
カラスたちよ……来い!
……。
カア
カア、カア
カア、カア、カア
ばさばさばさばさばさ……
うへぇ、すげえ数。
よし、コウモリ男をおっぱらえ!
ガアアアア、ガア、ガア!!
「うわっなんだこのカラスの大群!やめろ、やめてくれぇーひぃー!」
コウモリ男はカラス達に襲われて逃げて行った。
バサッ、バサッ
ハーピーが降りてきた。
「助けてくれてありがとう、カラスの兄貴!あのカラスたち、あんたが召還したんだろ」
「カ、カラスの兄貴はやめてくれ……俺はアルフレッドって名前があるんだ。覚えてないんだろうけど」
「そーいや同じクラスだったっけ!あたし物覚え悪くって。あたしの名前はヘレンって言うんだ、よろしくな!」
鳥族なだけに鳥頭なんだろうか。
ヘレンは女子だけどボーイッシュで、髪もショートカットで少年みたいだ。
戦闘値は12で、スキルは『大食漢』……なんだそりゃ、俺より酷い外れスキルだな。
前の世界のハーピーは伝説では汚く食い散らかすという設定だったが、そこから来てるんだろうか。
空を飛ぶしか取り柄が無い奴だが……それでも頭数は欲しいな。
「お前、俺の軍団に入らないか?」
「えっ……そうだな……いいぜ、カラスの兄貴に助けてもらった恩は返さないとな!」
「ではヘレン、君を我が軍団の一員としよう。空軍所属とする」
「空軍!?戦争でもおっぱじめるのかよ、カラスの兄貴!」
「今の所予定は無いが、いずれそうなるかもな……その時は空からの支援を期待する」
「任せな!へへっ!」
ヘレンは軍団で初の飛行タイプだが、さすがに空軍隊長にするのは気が引けた。
航空戦力としてよりも、ムードメーカーとしての役割の方が期待できるかもしれない。
「まーた増やしたんだ、これで七人ね。いったい何人まで増やす気なの?」
ラビニアが呆れた口調で聞いてくる。
「うちのクラスは三十人いるから、まずはその半分の十五人までは確保したい」
「なんでそんなに増やしたいの?」
「うちのクラスで一番の有力者は誰だと思う」
「えっ……そりゃもちろん、ヴィラートでしょ。大公のお嬢様の」
「そうだ。さっきのコウモリ男も彼女の取り巻きだ。ヴィラートのグループがうちのクラスの最大勢力となっていて、俺の軍団は二番手を争っている」
「ヴィラートのグループはたぶん十人くらい居るわね」
「そうだ。だから、数で対抗するために過半数を抑えたいのだ」
「ふーん……そう言えば、あたしの友達はジェシーのほかにもう一人いるけど、あの子も入れるつもり?」
「是非そう願いたいね」
「そう……でもあの子は、どうかしらね……」
ラビニアと話していると、ヘレンが割り込んできた。
「なんか難しい話をしているな、カラスの兄貴!派閥政治ってやつか?」
「なかなか鋭いこと言うじゃないか、ヘレン」
「へへっ。そうだ、あたしがヴィラートのグループに探りを入れてやろうか?」
「い、いや、それについてはまたの機会にする。……それよりヘレン、お前はオーガ族のゲオルグのチームに居たんじゃないのか?」
「うーん、あそこに首突っ込んでたけど、なんかあの集団って男臭いんだよな。カラスの兄貴のチームの方が女の子が多いみたいだし、こっちに入れて良かったかも」
ボーイッシュなヘレンでも居心地が悪かったか……。
ゲオルグのチームは武闘派で、俺の軍団と同じくらいの規模だと思われる。
今のクラスは俺の軍団とヴィラートとゲオルグの三国鼎立のような状況になっているというわけだ。
ただ、俺が一番警戒しているのはヴィラートでもゲオルグでもなく、残りの中の四人の小さなグループの長、リューンだ。
彼ら四人は皆、俺と同じ人族で、それが所以で集まっているのだと思う。
俺が問題視しているのは、リューンのスキル……『天下人』だ。
『天下人』って何なんだよ。とんでもないチートの匂いがする。
そしてリューンのチームに所属するコーメルのスキル『智多星』。これもとてつもないチート臭がする。
コーメルは俺の見る所、リューンの智嚢と言える存在らしい。いわゆる軍師ってやつだ。俺の軍団のゾフィーみたいなポジションだろう。
ぱっと見、リューンはたいした奴には見えないのだが、コーメルからはかなりの出来るオーラを感じている。
俺がこのクラスを制圧するにあたり、ラヴィニアではなくリューンとコーメルが最大の障害となる予感がしている。
今のクラスの状況をまとめると、ヴィラートのチームが十人、俺とゲオルグが七人くらいずつ、リューンが四人、残りの二、三人がラビニアの取り巻きの子と、ぼっちってことだ。ぼっちも一応は頭数だし、取り込んでおきたいものだ。
「どうしたんだ兄貴、黙り込んでさ」
「あ……ここでお別れだな。じゃあまた明日」
「また明日なー」
俺はヘレン、ラビニア、アーミィと別れた。
クラスの覇権争いもそろそろ中盤戦だ、ここから気を引き締めなくては。
と、目の前にまたいつもの女神先生が現れた。
「なんか難しい顔しているわねー」
「政治の事を考えているんだ」
「政治だって、また初等部一先生なのに」
「くじ、引けるんだろ?ヘレンが入ったし」
「そうね。正直、あなたがこんなに順調に友達を増やすと思わなかったわ。はいっ」
目の前にくじの箱が出てきた。
さっさと、引いておくか。
俺は紙切れを取り出す。
開いてみると、そこには……。
弓腰姫とか智多星とかは水滸伝ネタですが、小説家になろうの作品を読んでいると水滸伝に似てるなと思うことが多いです。