5話 掃除をしました
紙に書かれていたのは、
『耳掃除』
「あらよかったわね、耳掃除が楽になるわよ」
「て、てめえ……」
「じゃ、さよならー!」
エイルはすたすたと歩いて行ってしまった。
なーんで、しょうもないスキルしか引けねーんだ……俺ってくじ運悪いのか?
いや、あの箱が外れスキルしか入ってないんだろうな……。くっそー……。
教室に戻ると、まーたあの意地悪エルフがアーミィをいびっていた。
もういじめるなと言ったんだが、『土下座』には有効期間があるんだろうか?
それともエルフとドワーフの不仲はスキルを凌駕する程に根深いんだろうか。
「あんた、ミルクをこぼすとかやめてくんない?あとで臭くなるのよね」
「ご、ごめんなすぃ」
あんなグズでもうちの構成員だから見過ごすわけにはいかんな。
あの高慢なエルフにまた土下座は使いたくないが……除湿も無意味だろうし。
それにしてもエルフって耳長いよな……耳自体かなり大きい。
ん?耳の穴の中に、なんか見えてるぞ。耳垢がたまってる?
ちょうどいい、俺が掃除してやろう。
「おい、ラビニアとか言ったっけ?お前、耳垢溜まってるだろ」
「!?い、いきなり何言いだすのよ!レディに対して失礼でしょ!セクハラよ!」
「よーし、俺が掃除しちゃうぞ、えい!」
しゅる、しゅるっ
ラビニアの片方の耳からぼろぼろと耳垢が出てくる。
「え!?え、何、どうなってんの?」
「おーずいぶんたまってんな!エルフの耳の構造は他と違うのか?」
「やーん!やめてよ!恥ずかしいわ!」
ラビニアは涙目になっている。
「ええのか?ここがええのんか?どや、気持ちいいやろ?」
「確かに気持ちいいけど……って違うわよ!変なスキル使わないでよっ!」
「ほーれ、ほれ」
まだまだ出るぞ。どんだけたまってたんだよ。
ぽろぽろ……
さすがに出尽くしたか。
「じゃあ、もう片方の耳も掃除してやろう」
「やめて、もうやめて!なんでも言うこと聞くから!」
「そうか……じゃあ、俺の手下になれ」
「なるなる、なるからやめて!」
「よーしラビニア、お前は今日からアルフレッド軍団の一員だ」
「うん……ぐすっ」
ようやくクラスの有力者を取り込めたぞ。これでラビニアの取り巻きも一緒にゲットしたも同然だろう。
まぁでも取り巻きの子たちはラビニアから離れて行くかな。
そうだとしても、クラスの有力グループの切り崩しが出来たってことで御の字だな。さすがは策士な俺。
ちなみにラビニアのスキルは『弓腰姫』。よくわからんが弓が得意なんだろう、エルフだけに。
床には耳垢がたくさん落ちている。
しゃーねー、ラビニアが俺の手下となった以上は、頭としての務めを果たすか。
俺はホウキとちり取りをロッカーから取り出すと、床の耳垢の掃除を始めた。
涙目のラビニアがそれを見ている。
「チームリーダーなのにそんなことするんだ」
「これも頭の務めだ」
アーミィも手伝ってくれた。
「お前はやらんのか。自分の耳垢なんだが」
「ふ、ふんっ!私は誇り高いハイエルフなんだから、そんな下賤な仕事はしないのっ!」
全部片づけて席に戻る。
やれやれ、でもこれで一人手下が増えたんだから安いものだ。
問題はまたあのくじが引けるかどうかだが……俺に友情を感じてないと引かせて貰えない。
「ねえ、ちょっと来てよ」
ラビニアが俺の席の前に来る。
「あんだよ」
「保健室まで付き合ってくれない」
「具合でも悪いのか?」
「そんなところよ」
しょうがないのでついて行った。なんかアーミィが複雑な表情で俺を見ているような……。
保健室に入ると、ラビニアが切り出した。
「ね、ねえ、アレをまたやってよ」
「アレ?アレって何だ?」
「その……耳掃除」
「それのことか。確かにもう片方はまだだったな」
ラビニアは顔を赤くして、もじもじしている。
「あの耳掃除……とっても、気持ちいいの。はやく、して」
おねだりされちゃあ、男としてはヤルしかないな。それっ。
「あ、あっ」
ぼろぼろとラビニアの耳から耳垢がこぼれる。
「気持ちいぃょぉ……」
ラビニアが悶えている。まだ初等部一年生なのにちょっと色っぽい。エルフは長生きだからかな。
「こんなもんかな」
全部取り終えた。
しかしこんなに詰まってたとは……取る方もなんか快感だ。
「はぁ……はぁ」
「そんなに良かったか」
「……う、うん」
ラビニアは顔を真っ赤にしてうつむいている。
「エルフの耳って掃除しづらいのよ。あなたのスキル凄いわ。こんなにすっきりしたの初めて」
「そういう苦労があるんだ」
『耳掃除』は対エルフ懐柔用の最強スキルなのかもな。
「こんど、ママやパパにもしてあげて。いいかしら」
「まぁそのうちな」
「きっとね」
ラビニアはふっと笑った。いつもツンとしてないで、こういう顔もしていればいいのに。
二人で保健室を出ると、あの女神先生が声をかけてきた。
「お二人さん、保健室で気持ちいいことしてたのかな?」
「ち、違いますっ!」
ラビニアは走って行ってしまった。
なんだこのセクハラ女神……。
「ラビニアとずいぶん仲良くなったのね。あの子、トラブルメーカーだったから助かるわ」
「そりゃどうも」
「それにしても、こっちに来てエルフとドワーフとの三角関係を満喫するとか……異世界生活をエンジョイしてるわねえ」
「何を言ってんだか。それよりくじは?」
「オーケーよ、ラビニアもあなたに愛……ゲフンゲフン、友情を持ったようだしね」
「よっしゃ!引かせろ!」
目の前に例の箱が現れた。
今度こそ……
がっし!
ばっ!
今回はごそごそするのをやめて、最初に手に触れた奴を取った。違うパターンを試してみないとな。
畳まれている紙きれを開くと、そこには……