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1話 転生しました

 俺は17歳の高校二年生。周囲からは策士で通っているキレ者だ。


 ・・・・


 気が付くと、俺は雲の上のような場所に浮いていた。


「よく来てくれました」


 白くてふわふわのドレスを着た、金髪の綺麗なお姉さんが俺に話しかける。


「誰ですか、あんたは?」

「私は女神・エイルよ」

「女神って……俺は、どうなったんだ」


 エイルは、少し悲しそうな顔をして言った。


「あなたは、事故で死んだの」

「マジか……じゃあ、ここはあの世?」

「そうよ」

「俺は……これから、どうなるんだ?」

「異世界で転生させてあげるわ。本来なら記憶を消して同じ世界で生き返るのだけど、君は選ばれて、記憶を残したまま異世界に転生して人生をやり直すことが出来るの」

「それは……何か得するのか?同じ世界よりも」

「どうかしら……もし嫌なら、他の人のように記憶が消えて復活になるけど、その方がいい?」


 ……冗談じゃない、記憶が無くなったらそれはもう別人で死ぬのと同じだ。異世界とやらがどんな所か知らないが、死ぬより嫌なことがあるわけがない。


「じゃあ、転生する方で」

「そうこなくっちゃ!えーと、異世界では、固有スキルを一つ持って生まれ変わることが出来るの。というわけで、このくじを引いてね」


 俺の目の前に丸い穴の開いた箱が突然現れた。これ、コンビニでよくあるスピードくじだ。


「そこから一つだけ取ってね。そこに書かれたスキルをあなたに付与するわ」

「ふーん。じゃあ……」


 ごそごそ……よし、これだ!

 掴んだ紙切れを取り出す。四つ折りに畳まれている。開いてみると……。


 『土下座』


 と書かれている。


「あ」


 ん!今、エイルが気の毒そうな顔をした!


「今、あって言ったよね?俺なんか、ヤバいの引いちゃった?使えないスキル引いちゃったんだよね?」

「い、いえ……スキルが全てじゃないし、君の努力次第でどうにでもなるよ、うん。じゃ、行ってみようかー!」

「おい、ちょっと待て、どんなスキルか説明し……」


 シュワワワワーン……


 ・・・・


「おぎゃあ、おぎゃあ」


 俺は異世界に赤ん坊として生を受けた。


 俺が転生した異世界は、元の世界で言う所の中世ヨーロッパのような世界だった。

 そこで俺はアルフレッド・フォン・ヴィッセンシャフトという名前を授かった。


 俺が生まれたヴィッセンシャフト家は下級貴族ではあるが、それでも末端とは言え貴族なので、質素ながら食うには困らない生活を送ることができていた。

 俺は両親の愛を一身に受けて受けて健やかに育った。


 しかし2歳になった時、妹のマリアが生まれ、両親の愛情はそちらに移った。

 今の両親は俺の本当の親ではないと自分に言い聞かせつつも、妹ばかりかまって貰えて面白くないという感情が俺の中に芽生えた。精神は肉体に支配されるものなんだろう。

 だがしばらくすると、妹をかわいいと思うようにもなった。歩けるようになると、俺の後をどこまでもついてきた。


「おにい、おにい」

「ふん、マリアよ、お前を俺の手下(ミニオン)第一号にしてやろう」

「わぁい、マリア、みにおんだー」


 なんでこんなに可愛いのかよー、妹と言う名の宝物ー、と思わず歌いたくなるほどのラブリーさだ。俺は前の世界では妹がいなかったが、マリアを得ただけでも異世界に転生した意味があったとしみじみと思う。


 6歳になって、俺は基礎学校(グルントシューレ)の小等部に通うことになった。

 俺の世界の小学校のような所らしいが、そこでは魔法を習えるそうだ。ようやくファンタジー世界らしくなってきたな。


 入学式を終えて教室に入る。

 うわ……魑魅魍魎(ちみもうりょう)の巣窟じゃねえか。

 長い耳のエルフ、背中に羽根が生えてる鳥人、毛むくじゃらの獣人、ゆるキャラのかぶりものみたいな奴……

 首が取れていて机の上に置いている奴もいるぞ。デュラハンって奴か。

 亜人ばかりで、俺のような普通の人間の方が少なく感じる。

 俺はこちらの世界では家にこもって本ばかりを読む幼年時代を過ごしてきたせいで、こういう(やから)に遭ったことが無かったが、ますますファンタジー世界らしくなってきたな。


 百鬼夜行のクラスメートの中で、青白い肌に黒くて豊かな髪、赤い瞳の女子が気になった。不気味な雰囲気だが、容姿はまだ初等部一年生なのにかなり整った顔をしていて、ひときわ美しい。室内なのになぜか黒いコートを着ているが。

彼女の周りには既に数人の取り巻きがいるようだ。初日からしてスクールカーストの上位に位置しているようだ。


「はいはい、みんな静かにー、それじゃ自己紹介行ってみましょうか」


 先生が入ってきて教壇に立つ。金髪眼鏡の綺麗な女性だ。

 スーツのボディラインがその巨乳を強調している。

 担任が美女とかラッキー!眼福眼福。


 ……ん?こ、この人……よく見ると女神のエイルじゃねーか!

 この六年、一度たりとも忘れなかったぞ……。

 まさかこんなところで再会できるとはな。しかしなぜあいつが担任の先生に……。


 皆が自己紹介している間、気が気でなかった。

 と思っていると、自分の番。


「あ、アルフレッド・フォン・ヴィッセンシャフトです。種族は普通の人間っす。アルって呼んで下さい」


 俺は無難に自己紹介を終えた。体は子供でも中身は高校生の本領を発揮してやったな。


「クスクス」「ヴィッセンシャフトだって、あの爵位も無い三流学者の家とか」「同じクラスのドラクル様の家は大公だというのにね」


 嫌なひそひそ声が耳に入ってきた。初等部一年にしては言い方が大人びている気もするが、種族によって年齢が違うのかもしれない。エルフとか長命だろうし。


 確かにうちは貴族とは言え底辺だ。貴族の爵位は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵といった序列があるが、うちは男爵ですらない。先祖は王宮に仕えた御用学者で、お情けで貴族にしてもらった家系だ。

 うちは代々「科学」を研究しているが、この世界は魔法があるので科学という学問分野の扱いは悪い。これについては科学万能の世界から転生してきた俺の代でなんとかしたいが、あいにく俺も前の世界の科学技術に精通していたわけではないのでいかんともしがたい。


 あとドラクル様というのは、さっき俺が気になっていた顔色の悪い美少女のことで、ヴィラート・フォン・ドラクルって名前らしい。公爵の子女だからとんでもないお嬢様だ。早くもクラスのトップポジションが決まった感がある。


 が、俺は諦めないのだがな。策士である俺はこの学校を支配してやろうと思っている。前の世界の学校のクラスでは一部から策士と評されながらも地味で空気だった俺だが、もしやり直せるならクラスの(コップ)になってやろうと常々思っていたからだ。


 まずはこのクラスメートを全員俺の手下(ミニオン)にして、「アルフレッド軍団(レギオン)」を作る。そして他のクラスの制圧に乗り出し、いずれはこの基礎学校(グルントシューレ)を俺が支配するのだ。

 学校を支配した暁には、他の組織を併呑(へいどん)して勢力を拡大し、いずれ俺はこの全世界を統治する支配者(フューラー)になる!夢がひろがりんぐだな。


 ……しかし、まず最初にクラスの(コップ)になるために必要なのは……スキルの力だ。俺の『土下座』、果たしてどんな効果があるのか?


 ちなみにこの世界では全ての人間が皆一つずつスキルを持っているそうだが、これは人にはむやみに明かさないのが常識らしい。自己紹介でスキルを言った奴は一人もいなかった。

 なので俺も人前で土下座して試すということをしたことも無い。ただ一度だけ、うっかりマリアのお菓子を食べてしまった時に土下座して謝ったことがあるが、その時のマリアは「おにぃ、許す!」と言ってキャッキャと笑ってただけだった。 このスキル、普通に土下座するのと何が違うのだろうか?


「アル君、ちょっと来てくれないかな?」


 自分の席で一人で思案していると、エイル先生に声をかけられた。

 俺はエイルの後について行く。


 階段の下の裏の目立たない場所に行くと……。


 いきなり、エイルが抱きしめてきた!彼女の柔らかい豊かすぎる胸が俺を圧迫する……。


「いやー、六年ぶだね、元気してたかな!?」

「げ、元気だったが……なんであんた、先生としてやってきたんだ?」

「それは……私、天界でヘマやらかしちゃって、下界でしばらく修行して来いって神皇様に叩き出されちゃったのよ」

「へえ……情けねえな」

「あーひどーい!ちょっとは慰めてよ、もー」

「それより、聞きたいことがあるんだが」

「なぁに?」

「俺のスキル、『土下座』の効果ってなんだ?」

「あれ?言ってなかったっけ」


 このポンコツ女神め……俺がこの六年間、このスキルについてどれだけ悩んだと思ってるんだ。


「説明されてませんが」

「えーと、『土下座』の効果はね……」

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